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様々な記録から予測

ビートルズのハイレゾ配信はいつ実現する? 元洋楽ディレクターが徹底分析

公開日 2014/12/30 09:33 本間孝男
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■Appleの商標を巡るふたつのアップルの争い

Appleという商標は、本来はビートルズが設立した会社、アップル・コア(Apple Corps:発音は“アップル・コア”でリンゴの芯との語呂合わせになっている。Apple Recordsが主体)のもの。しかし、2007年の和解で米国のアップル(Apple Inc.)に正式に譲渡された。現在、アップル・コアは、Appleという商標をライセンスして使用している。契約を主導したのは米アップルCEOのスティーブ・ジョブズ。「当社はビートルズを愛しており、商標に関して対立関係にあるということはいたたまれないものだった。将来についても、いさかいを起こすことのない前向きの解決の仕方ができてすばらしい気分だ」とコメントした。

アップル・コアが運営するApple Recordsのホームページ

アップル・コア側のトップはニール・アスピノール。彼は5人目のビートルズとも呼ばれ、ポールやジョージの幼なじみ。ロードマネージャーからスタートしてバンドを見守ってきた側近中の側近だ。2007年交渉が一段落すると体調の問題もあり、後進をリイシュー専門のレガシーレコード(ソニー傘下)の幹部だったジェフ・ジョーンズに譲って退職。翌年66歳で亡くなった。肺癌だった。

ちなみに商標権問題が解決する前の2005年1月には、ポール・マッカートニーのソロ作品の配信がスタートしていた。和解成立後、ジョン、ジョージ、リンゴのソロ作品も順次iTunesで配信が始まった。

■そして2010年11月16日、iTunesでビートルズが配信開始された

商標の問題が片付いたからと言って、ただちにビートルズの楽曲がiTunes Storeに並ぶわけではなかった。EMIはビートルズのマスター(原盤権)を所有するが、バンド・メンバー(ポールとリンゴ)と相続人(ヨーコ・オノとオリヴィア・ハリソンの2人の未亡人)は、マスターの新たな使用に対して拒否権を持つ。音楽配信は新たな用途なので、ビートルズ側の合意が不可欠。当時投資ファンドがバックに付いたEMIが米アップル社と契約することに、ビートルズ側は二の足を踏んでいた(EMIの破綻については後述する)。結果的にシティグループがEMIの経営権を掌握すると、事態は好転する。結ばれた契約内容は公にはされていないが、アップルがiTunes Storeの売上を直接アップル・コアに支払うというものだったようだ。アップル・コアからEMIに支払いがなされる仕組みだ。

AppleによるThe Beatles配信開始の予告ページ

グーグルやアマゾンなどの強力な対抗馬を押さえるため、ビートルズの独占販売権獲得に「スティーブ・ジョブズは異例とも言える破格の条件を提示したようだ」と2010年11月7日付のニューヨークポストは報じている。契約条件は秘密にされ”バスティーユ(Bastille)”とコードネームで呼ばれる(7月14日・パリ祭「Bastille day」の日に契約が成立したことでその名が付けられた - ウォールストリート・ジャーナル)。

2010年11月16日、アップル、EMI、アップル・コアの3社はiTunes Storeにてビートルズの楽曲を配信すると発表。即日配信が開始された。iTunesは最初の1週で45万枚のアルバム売上と2百万曲の楽曲売上を記録した(米サウンドスキャン調べ)。関係者の予想をはるかに上回るセールスだった。その前年、2009年に『ザ・ビートルズ BOX(ステレオ及びモノ)』が新デジタルリマスターでリリースされ好セールスをあげたばかりということもあって、誰がiTunesからダウンロードでカタログを買うのか、と思われていたのだのだ。

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