岩井喬が徹底レビュー
【連続企画第1回】ティアック「HA-P90SD」 “プレーヤーとしての実力” を検証する
■ダイレクトな操作性と高いドライブ能力が本機最大の魅力
タスカムDV-RA1000HDにて筆者自身がDSD録音を行った、長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜“レディマドンナ”(2.8MHz・DSD)では有機的で密度の高いギターとウッドベースがリアルに迫ってくる。弦のはじかれるニュアンスやその太さ、ボーカルの肉付き良いボディ感や口元のキレ良い動き、音像の定位感も誇張感なく自然に描き出してくれた。
そして本機と同じPCM1795を積むタスカムDA-3000を4台用いて5.6MHz・DSD収録を行った『Suara at 求道会館』〜“トモシビ”では、再生した瞬間にふわっと広がる求道会館の空気感がとても自然であり、スッと息継ぎして声が放たれる瞬間の生々しい表現力に驚かされた。ピアノやヴァイオリンの演奏も抑揚に富み、躍動あふれるグルーブ感の再現性も見事である。豊潤で瑞々しい残響感とボーカルのはつらつとした音離れの良い描写力も誇張なくナチュラルだ。肩の力を抜いた、ストレス感のない爽やかなサウンドである。
再生中、ディスプレイには楽曲名(ファイル名)やタイム表示、レゾリューション情報程度のシンプルな表示だけが示されるが、普段プレーヤーは目に見えない鞄などに収めているわけで、ジャケット画像が表示されなくても何の不便もない。むしろ録音機のメリットであるダイレクトな操作性と、ヘッドホンアンプとしての高いドライブ能力に重きを置いた潔いつくりに、本機の持つ最大の魅力が隠されているのではないか。
■録音機と地続きのニュートラルかつ正確な再生能力
慣れ親しんだタスカムのレコーダーで収録した楽曲は脚色なくストレートに、しかしモニターライクな傾向ではなくバランス感を優先した聴きやすいサウンドとして聴かせてくれた。このことからわかるのは、録音機と地続きのニュートラルかつ正確な再生能力を持っているということだ。
HA-P90SDは、高いヘッドホン駆動力と純度や透明度の高い空間再現力を両立した、ハイコストパフォーマンスなポータブルハイレゾプレーヤー&ヘッドホンアンプであるといえるだろう。
【筆者プロフィール】
岩井喬
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオに勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。