サウンドと装着感にこだわり満載、デノンのポータブルヘッドホン「AH-MM200」レビュー

AH-MM200の実機を装着してみると、オンイヤータイプのヘッドホンを装着する時に気になりがちな耳元にかかるプレッシャーがかなり少ない。そして、ふわりと柔らかい着け心地が長く持続する。人工皮革のシルキーな肌触りも実感できるし、フォームパッドの弾力感も絶妙にコントロールされている。聞けばデノンではイヤーパッドを耳にあてたときの側圧がなるべく均等にかかるよう、専用の測定器で何度も検証を繰り返しながら形状を追い込んだのだという。確かにこれはひと味違う、心地良い装着感だ。店頭に実機が並んでいたら、音だけでなく装着感にもぜひ注目してみて欲しい。

両側のイヤーカップを支えるハンガーには、アルミのダイキャスティングにより成形した金属製パーツを採用。強靱なメタルパーツを丁寧に磨き上げながら手間暇をかけて形を整えることで、上質なルックスに仕上げただけでなく、音響的にも高い防振効果を持せている。

ケーブルは本体着脱式で、プラグの形状は3.5mmステレオミニ。インラインにマイク付きの3ボタンリモコンを搭載するスマホ用と、リモコンなしのOFCストレートケーブルが1本ずつ付属する。どちらもケーブルの長さは、スマートにさばける1.2mとした。

■ハイレゾとCDリッピングの音源を試聴

AH-MM200のサウンドについては、ハイレゾ音源は「Pono Player」、CDリッピングのソースは「iPhone 5s」でチェックした。

ノラ・ジョーンズの『Come Away With Me』から「The Nearness Of You」（192kHz/24bit WAV）は、ボーカルが立体感に富んでいて生々しい。バックの演奏に対してバランスが突出しているわけではないのだが、声の稜線がくっきりと正確に描かれ、ボーカリストの存在を極めて真近に感じることができる。口元の動きを緻密に描きこむタイプではないが、声質の引き出し方が上手なぶん、目を閉じるとまぶたの裏側に見えてくる情景がリアリティに富んでいて、艶かしい香水の匂いまで立ち込めてくるような妄想を掻き立てられてしまう。リッチで濃厚なピアノの伴奏が、ボーカルの歌声によりいっそうの潤いと煌めきを与えてくれる。

ビル・エヴァンスの『Waltz For Debby』から「Milestones」（192kHz/24bit FLAC）を試聴。オンイヤーヘッドホンということもあり、全体のバランスを俯瞰してみると、低域がわずかに強めに感じられるが、量感を不自然に盛っている印象はなく、インプレッションがより明快に感じられると表現すべきかもしれない。音符の形がだぶついて崩れることがなく、腹の底を突くようにメリハリの効いたグルーブラインが展開される。ピアノのタッチは鮮明に描き込まれ、特に中高域のサスティーンが滑らかにすっとキレ味よく伸びる。ハイハットやライドなどドラムスの高域も粒だちがよく、スティックをさばく手元の様子がイメージとして具現化されるようだ。ドライな音色なのに、人肌の熱っぽさを内包している演奏だ。束になってドンと迫ってくるようなエネルギー感を再現できるところがこのヘッドホンの魅力だ。

クラシックギターの名手、ミロシュ・カラダグリッチのアルバム『Barrios Mangore : Un Sueno en la Floresta』（96kHz/24bit FLAC）を聴く。深く沈み込む中低域のギターのハコ鳴りが身体にゆっくり染み渡っていく感触。ギターが歌を歌っているかのように活き活きと鳴っている。トレモロの整然と並ぶアタックがミロシュの指先の繊細な動きを脳裏に蘇らせる。弦の響きがとてもふくよかで、帯域のバランスがナチュラルなのに、音楽的なパッションはぐいぐい迫ってくる。

AH-MM200は、特にアコースティック楽器やボーカルなど生音の響き成分を濃密に反映させるヘッドホンと言えるかもしれない。倍音の広がりも豊かで、音符が散華した空気を指先で押すこともできそうなほどの弾力を生命感に満ちたサウンドだ。高域のトーンは中低域に埋もれたり、濁ってしまうことなくクリアで、音符の粒立ちもキリッと引き締まっている。