【特別企画】VGP2015SUMMER「金賞」受賞
パイオニアの超弩級ヘッドホン「SE-MASTER1」を聴く。人気のアンプ4機種と組み合わせ試聴
SE-MASTER1のサウンドを徹底試聴
量感と質感を両立させた低音。付帯感が極めて少ない中高音
MacBook AirとパイオニアのU-05を組み合わせて聴いたSE-MASTER1の音には、大きく3つの特徴がある。まずは量感と質感が両立した豊かな低音。次に、付帯音が非常に少ない素直な中高音。そして3つめの際立った特徴として、音が頭のなかや耳に張り付かない自然な距離感を挙げておきたい。それぞれについて、さらに詳しく紹介していこう。
音楽ジャンルや編成を問わず、低音の絶対量は多めに感じるが、アタックが速く、広がり過ぎないためか、過剰な印象は受けない。オーケストラの大太鼓やティンパニは打音が鋭く立ち上がり、ジャズのウッドベースは太いE線の動きが緩まず、張力の高さが身体に伝わる感覚を味わえる。明瞭な発音のあとで音が回りこんだり床を這うことがなく、逆に左右や天井方向に余韻が抜けていくことにも感心した。振動板の制動が足りなかったり、ハウジングなどが共振を起こしてしまうと、量感はあるが締りのない低音になりがちだが、本機の低音はそれとは対極にある。ハウジングにアルミ合金を奢り、接合部に防振対策を徹底した成果だろう。
付帯音の少なさはすべての音域に当てはまるが、特に中高域のふるまいに注意して聴くとわかりやすい。ボーカルの子音に強調感がなく、シンバルの発音が濁音にならないなど、実例はいくらでも挙げられるが、そうした細部を拾い上げるまでもなく、全体の音調から伝わる品位と落ち着きは誰の耳にも明らかだ。高音の存在感が強いヘッドホンのなかには、実音そのものよりもリンギングで演出している例を見受けるが、それはハイファイとは正反対の手法であり、発音位置が近いヘッドホンでは注意深くコントロールする必要がある。
スピーカーで聴く音場感に近い距離感。音像定位も自然
3番目に挙げた距離感については、「スピーカーで聴く音場感に近い」と言い換えた方がわかりやすいかもしれない。スピーカー再生で聴き慣れた音源をヘッドホンで聴くと、ステージとの距離感や楽器の立体配置に違和感をおぼえることが少なくない。いうまでもなく、中央前方に定位するはずのボーカルが頭のなかに居座るのもその一例だ。その違和感に閉口している音楽ファンには、本機を一度聴いてみることをお薦めする。前方に音像が浮かぶ空中定位はさすがに無理だが、音が耳に張り付かない心地よさは別格だ。オーケストラはトランペットや打楽器の手前にヴァイオリンやヴィオラが展開し、ジャズではピアノやドラムスがボーカルやサックスと離れて、少し下がった位置に自然な音像が定位する。
スピーカーからヘッドホンに切り替えたときの違和感の少なさは、設計陣も相当にこだわったようだ。さらに、試作機をAirStudioに持ち込んだ際には、同スタジオのテクニカルディレクターが普段聴いているモニタースピーカーの音を基準にし、パイオニアのエンジニアとともにSE-MASTER1のチューニングを進めたという。
その手法に筆者は全面的に賛同する。ヘッドホンの完成度を追求する過程で、スピーカーとの比較試聴を行うのがどこまで一般的なことなのかよく知らないが、ハイファイ仕様の製品を開発するうえで重要な意味があることは間違いない。スピーカーで聴く環境を主に想定して製作された音源を、バランスや音場を著しく変えることなく、違和感なく再生できるかどうか。ヘッドホンでは本質的な解決が難しい課題であることは承知しているが、SE-MASTER1はそこにあえて挑戦したことに深い意味があるのだ。
量感と質感を両立させた低音。付帯感が極めて少ない中高音
MacBook AirとパイオニアのU-05を組み合わせて聴いたSE-MASTER1の音には、大きく3つの特徴がある。まずは量感と質感が両立した豊かな低音。次に、付帯音が非常に少ない素直な中高音。そして3つめの際立った特徴として、音が頭のなかや耳に張り付かない自然な距離感を挙げておきたい。それぞれについて、さらに詳しく紹介していこう。
音楽ジャンルや編成を問わず、低音の絶対量は多めに感じるが、アタックが速く、広がり過ぎないためか、過剰な印象は受けない。オーケストラの大太鼓やティンパニは打音が鋭く立ち上がり、ジャズのウッドベースは太いE線の動きが緩まず、張力の高さが身体に伝わる感覚を味わえる。明瞭な発音のあとで音が回りこんだり床を這うことがなく、逆に左右や天井方向に余韻が抜けていくことにも感心した。振動板の制動が足りなかったり、ハウジングなどが共振を起こしてしまうと、量感はあるが締りのない低音になりがちだが、本機の低音はそれとは対極にある。ハウジングにアルミ合金を奢り、接合部に防振対策を徹底した成果だろう。
付帯音の少なさはすべての音域に当てはまるが、特に中高域のふるまいに注意して聴くとわかりやすい。ボーカルの子音に強調感がなく、シンバルの発音が濁音にならないなど、実例はいくらでも挙げられるが、そうした細部を拾い上げるまでもなく、全体の音調から伝わる品位と落ち着きは誰の耳にも明らかだ。高音の存在感が強いヘッドホンのなかには、実音そのものよりもリンギングで演出している例を見受けるが、それはハイファイとは正反対の手法であり、発音位置が近いヘッドホンでは注意深くコントロールする必要がある。
スピーカーで聴く音場感に近い距離感。音像定位も自然
3番目に挙げた距離感については、「スピーカーで聴く音場感に近い」と言い換えた方がわかりやすいかもしれない。スピーカー再生で聴き慣れた音源をヘッドホンで聴くと、ステージとの距離感や楽器の立体配置に違和感をおぼえることが少なくない。いうまでもなく、中央前方に定位するはずのボーカルが頭のなかに居座るのもその一例だ。その違和感に閉口している音楽ファンには、本機を一度聴いてみることをお薦めする。前方に音像が浮かぶ空中定位はさすがに無理だが、音が耳に張り付かない心地よさは別格だ。オーケストラはトランペットや打楽器の手前にヴァイオリンやヴィオラが展開し、ジャズではピアノやドラムスがボーカルやサックスと離れて、少し下がった位置に自然な音像が定位する。
スピーカーからヘッドホンに切り替えたときの違和感の少なさは、設計陣も相当にこだわったようだ。さらに、試作機をAirStudioに持ち込んだ際には、同スタジオのテクニカルディレクターが普段聴いているモニタースピーカーの音を基準にし、パイオニアのエンジニアとともにSE-MASTER1のチューニングを進めたという。
その手法に筆者は全面的に賛同する。ヘッドホンの完成度を追求する過程で、スピーカーとの比較試聴を行うのがどこまで一般的なことなのかよく知らないが、ハイファイ仕様の製品を開発するうえで重要な意味があることは間違いない。スピーカーで聴く環境を主に想定して製作された音源を、バランスや音場を著しく変えることなく、違和感なく再生できるかどうか。ヘッドホンでは本質的な解決が難しい課題であることは承知しているが、SE-MASTER1はそこにあえて挑戦したことに深い意味があるのだ。