iPhone 6にどこまで迫ったか
【レビュー】新 iPod touch(第6世代機)を検証。A8チップ/8MPカメラの実力とは?
■音質をiPhone 6/ウォークマンと比較
さて、いうまでもなくiPod touchの本義は音楽プレーヤーである。音楽プレーヤーとしての実力は、やはり音質にあるはず。ということで、iPhone 6に加え、同価格帯のソニーのウォークマンAシリーズも用意して音質チェックを行った。ウォークマンAシリーズはハイレゾに対応しているが、今回は条件を揃えるため、聴いたのはいずれもCDからリッピングした44.1kHz/16bitのAIFFデータである。
まずはiPod touchとiPhone 6を聴き比べていこう。
RCサクセション「去年の今頃」を聴き、冒頭の拍手の音を比べると、聞き始めてすぐ、iPod touchの方が実在感があり、非常に音色がリアルに感じられる。iPhone 6ではくぐもったように感じられるのだが、iPod touchでは解像感がぐっと上がり、細部まで見通しがよくなる。S/Nがまったく違うのが一聴してわかるのだ。
様々な楽曲を使って聴き比べると、音場感についても、若干ではあるがiPod touchの方が広がりが出る。また、ぐっとレベルが上がるときのダイナミズムについても、iPod touchに軍配が上がる。
Musica Nuda「Bach Aire」ではウッドベースの深み、沈み込み、陰影など、iPod touchの表現力がぐっと引き立つ。ボーカルがスッと出てくるときの立ち上がりが、スムーズかつドラマティック。次第次第に楽曲が盛り上がる様子もよりわかりやすく感じられ、ダイナミックレンジの広さが感じられる。一方で解像感が高く音の粒立ちがよく、ボーカリストの濡れた唇の様子が目に浮かぶような、ウェットな表現も得意だ。
Apple Musicでも音の違いを確認してみたら、録音の良い非圧縮音源で感じられた大きな差がぐっと縮まった。Wi-Fi環境下で聴いたので、ソースは256kbpsのAACと考えられるが、もともと圧縮された音源だけに、それほど大きな違いが出ないというのが率直な感想だ。注意深く聴けばiPod touchの方が良いのだが、ことさら騒ぎ立てるほどの差ではない。
ウォークマンAシリーズでも、参考までに同じAIFFの楽曲を聴いてみた。試聴にあたっては、DSEE HXやClearAudio+などはすべてオフにした。様々な楽曲を聴いたが、総じてiPod touchに比べ、繊細さや滑らかさに重きをおいた音という印象。ベースが沈みきらず少し軽い印象になったり、ボーカルもダイナミックさが前面に出てこないなど、高音質化機能をオフにした素の状態で聴いていると、少し注文を付けたい部分もあるが、弱音まで描き分ける表現力はさすが専用プレーヤーだ。
玄人受けするのはおそらくウォークマンAだろう。だが、一般の音楽ファンが「いい音」と感じる、わかりやすい音作りをうまくパッケージングしているのはiPod touchの方ではないか。もっとも、Aシリーズは単体でハイレゾ再生できるという点で大きなアドバンテージがあるし、今回はあえて全てオフにした高音質化機能を使いこなせば、その印象は大きく変わることだろう。
アップルにとっては、iPhoneこそが収益の屋台骨。iPodビジネスは同社の会計上「その他」セグメントに組み入れられるほど縮小した。アップルがあまり積極的にiPodの新規開発を行っていなかったのもうなずける。
とはいえ、iPhoneのような毎月の通信コストが不要で、iOSの様々なアプリや機能が使えるiPod touchは様々な用途が考えられる。また、すでにiPhoneを持っていても、「楽曲再生は別のデバイスで行いたい」などというニーズは確実に存在する。あるいは、車中に常時置いておくプレーヤーが欲しいという要望もあるだろう。
こういった音楽再生専用機を求めるニーズに応え、アプリを動かすハードウェアとしてもiPhone 6や5sに迫るパフォーマンスを手に入れ、ちょっとしたスナップ写真程度ならかなり高画質に撮影できるカメラ性能も獲得した。さらに価格は前世代機からほとんど変わっておらず、25,000円程度から購入できるという点も魅力的。3年のギャップを埋める、非常に魅力的なアップデートとなった印象だ。