プレーヤー/プリメイン/真空管アンプで3本勝負
創業90周年。ラックスマン”歴史的銘機”と最新モデルが対決
■真空管アンプ<新旧対決>
「SQ38FD」vs「LX-32u」
新旧比較の最後は、管球式プリメインアンプである。現在でこそ管球式アンプはオーディオにおける確固たるジャンルのひとつだが、1970年代半ばから1990年代始めまでは一部の自作マニアの専有物だった。その期間も含めて、管球式アンプを手がけてきた唯一無二のメーカーがラックスマンであり、同社管球式アンプにおけるシンボリックな存在が三極管プッシュプル構成の「38シリーズ」である。
筆者の38シリーズとの出会いはファイル・ウェブでも披瀝したことがあるのでもう繰り返さないが、1977年に購入した「SQ38FDII」が三度のオーバーホールを経て現在もセカンドシステムの要として現役稼働中だ。
38シリーズは1963年の初代「SQ38」がルーツだが、出力管に50CA10を採用した三極管プッシュプル「SQ38F」(1968年)で確固たる地位を築いた。以後、今回試聴した「SQ38FD」(1970年)に続いて「SQ38FDII」(1974年)、「LX38」(1978年)、「LX38u」(1983年)と世代を重ねるが、そのいずれにも“自分の38が最高の音がする”と信じて疑わない固有のファンがいる。こうした歴代の各モデルが寄り集まって、38シリーズのカリスマ性は生まれた。今回は38シリーズの中から、ラックスマン本社が保存する1970年発売の「SQ38FD」に登場いただいた。
対するは2014年オーディオ銘機賞銅賞を受賞した、現在の同社管球式プリメインを代表する「LX-32u」である。ドライバー段にムラード型(カソード直結方式)回路、出力段にEL84を8本使用した、5極管接続パラレルプシュプル構成のプリメインアンプだ。
まずはSQ38FDから試聴する。同社試聴室の802 Diamondを楽々とドライブする地力には感嘆した。筆者のSQ38FDIIが出力管のソケット交換を終えて帰ってきたばかりで聴く機会が最近多かったのが、その低域の太い鳴りっぷりに比べると、こちらのSQ38FDは端正で真面目な音に聴こえた。38シリーズの明るく晴れ晴れとしたワイドレンジで広がり感が豊かな音場表現は共通なのだが…。
「SQ38FDIIの方が低域に厚みとスケール感がありますからね。ただ、このSQ38FDは少しおとなしく聴こえます」。答えて下さったのは、ラックスマン株式会社の代表取締役社長である土井和幸氏だ。
「このSQ38FDは、実はオリジナルそのままではありません。オリジナルのSQ38FDとSQ38FDIIはまるで音が違います。今聴いた個体は、オーバーホール時にカップリングコンデンサーを本来のオイルコンデンサーからSQ38FDIIと同様のフィルムコンデンサーに変更しています」と土井氏。ということはSQ38FDIIとの中間、「SQ38FD1.5」とでも言うべきなのか…。
「そういうことです。その後のLX38は真空管のソケットが基板上に埋め込まれる方式となったため、さらに音が変わりました。SQ38FDIIまでは手配線でした」と土井氏は説明する。
このオーバーホール時のコンデンサー交換の結果に加え、この時システムを構成したCDプレーヤー「D-06u」と「802 Diamond」のニュートラルな音調が、本来の元気さを抑えて端正さを生み出していたのであろう。
素晴らしかったのが、SQ38FDでアナログ(LP)を再生した時だ。この日演奏したLPは、ビル・エヴァンス・トリオ『ワルツ・フォー・デビイ』の高音質盤。リーダーのビル・エヴァンスのピアノ以上に、夭折した俊英スコット・ラファロの神懸かり的一期一会のべースプレイが聞き物で名盤たる所以だ。45年も前のアンプが現代のモニタースピーカー805 Diamondを楽々とハンドリングする力業は感動的でさえある。ベースの音階が上下しても音圧がつねに一定で朗々と鳴る。輪郭が滲まず、太い芯を感じさせる引き締まった響きに惹き込まれる。
「SQ38FD」vs「LX-32u」
新旧比較の最後は、管球式プリメインアンプである。現在でこそ管球式アンプはオーディオにおける確固たるジャンルのひとつだが、1970年代半ばから1990年代始めまでは一部の自作マニアの専有物だった。その期間も含めて、管球式アンプを手がけてきた唯一無二のメーカーがラックスマンであり、同社管球式アンプにおけるシンボリックな存在が三極管プッシュプル構成の「38シリーズ」である。
筆者の38シリーズとの出会いはファイル・ウェブでも披瀝したことがあるのでもう繰り返さないが、1977年に購入した「SQ38FDII」が三度のオーバーホールを経て現在もセカンドシステムの要として現役稼働中だ。
38シリーズは1963年の初代「SQ38」がルーツだが、出力管に50CA10を採用した三極管プッシュプル「SQ38F」(1968年)で確固たる地位を築いた。以後、今回試聴した「SQ38FD」(1970年)に続いて「SQ38FDII」(1974年)、「LX38」(1978年)、「LX38u」(1983年)と世代を重ねるが、そのいずれにも“自分の38が最高の音がする”と信じて疑わない固有のファンがいる。こうした歴代の各モデルが寄り集まって、38シリーズのカリスマ性は生まれた。今回は38シリーズの中から、ラックスマン本社が保存する1970年発売の「SQ38FD」に登場いただいた。
対するは2014年オーディオ銘機賞銅賞を受賞した、現在の同社管球式プリメインを代表する「LX-32u」である。ドライバー段にムラード型(カソード直結方式)回路、出力段にEL84を8本使用した、5極管接続パラレルプシュプル構成のプリメインアンプだ。
まずはSQ38FDから試聴する。同社試聴室の802 Diamondを楽々とドライブする地力には感嘆した。筆者のSQ38FDIIが出力管のソケット交換を終えて帰ってきたばかりで聴く機会が最近多かったのが、その低域の太い鳴りっぷりに比べると、こちらのSQ38FDは端正で真面目な音に聴こえた。38シリーズの明るく晴れ晴れとしたワイドレンジで広がり感が豊かな音場表現は共通なのだが…。
「SQ38FDIIの方が低域に厚みとスケール感がありますからね。ただ、このSQ38FDは少しおとなしく聴こえます」。答えて下さったのは、ラックスマン株式会社の代表取締役社長である土井和幸氏だ。
「このSQ38FDは、実はオリジナルそのままではありません。オリジナルのSQ38FDとSQ38FDIIはまるで音が違います。今聴いた個体は、オーバーホール時にカップリングコンデンサーを本来のオイルコンデンサーからSQ38FDIIと同様のフィルムコンデンサーに変更しています」と土井氏。ということはSQ38FDIIとの中間、「SQ38FD1.5」とでも言うべきなのか…。
「そういうことです。その後のLX38は真空管のソケットが基板上に埋め込まれる方式となったため、さらに音が変わりました。SQ38FDIIまでは手配線でした」と土井氏は説明する。
このオーバーホール時のコンデンサー交換の結果に加え、この時システムを構成したCDプレーヤー「D-06u」と「802 Diamond」のニュートラルな音調が、本来の元気さを抑えて端正さを生み出していたのであろう。
素晴らしかったのが、SQ38FDでアナログ(LP)を再生した時だ。この日演奏したLPは、ビル・エヴァンス・トリオ『ワルツ・フォー・デビイ』の高音質盤。リーダーのビル・エヴァンスのピアノ以上に、夭折した俊英スコット・ラファロの神懸かり的一期一会のべースプレイが聞き物で名盤たる所以だ。45年も前のアンプが現代のモニタースピーカー805 Diamondを楽々とハンドリングする力業は感動的でさえある。ベースの音階が上下しても音圧がつねに一定で朗々と鳴る。輪郭が滲まず、太い芯を感じさせる引き締まった響きに惹き込まれる。