プレーヤー/プリメイン/真空管アンプで3本勝負
創業90周年。ラックスマン”歴史的銘機”と最新モデルが対決
続いて、現在のラックスマンを代表する管球式プリメイン「LX-32u」を聴いてみよう。彫りの深い、現代の管球式の典型といえる音場表現である。SQ38FDは音場が水平方向にワイドに広がるのに対し、LX-32uは奥行き主体の密度感が身上。だからこそ肌触りのいいウォームトーンを期待すると裏切られる。ハイスピード・レスポンスと鮮鋭感を前面に出した現代の管球式の描写がそこにはあり、SACDから掬い上げる情報量でSQ38FDに勝る。一方アナログ再生ではローエンドまで伸びずに音価が軽い。この点ではSQ38FDの伸びやかさ、スケール感に軍配が上がる。これは内蔵フォノイコライザーの品位の差(SQ38FDは管球式、LX-32uはIC)、そして製造コストに起因した物量の制約によるところが大きいはずだ。
ただしLX-32uの出力ワッテージは15W+15Wと低いので、先のL-570と同様に聴き手がシステムに寄り添って行くことが求められる。すると別の音の眺望が開けてきた。LX-32uには、SQ38FDにはない演奏のディテールの描き込みがある。ピアノの倍音の伸びやアタックの立ち上がりまで細密画のように描写され、LX-32uが管球式でありながら現代的な解像感に支えられたアンプであることが伝わる。この点、SQ38FDはよく言って大らかであった。
管球式プリメインアンプの新旧比較は、ユーザーの1人としての贔屓目も加わってSQ38FDに軍配を上げたい。しかし、冷静に比較するとSQ38FDの分は悪い。
38シリーズの中古品市場での人気は高く、現在でも高値で取引がされているが、いかんせん出力管の三極管「50CA10」は当時のラックスがNECに発注して作らせた専用管で、そもそも代替球が存在しない。一時、中国メーカーが50CA10を復刻して話題を呼んだが現在は在庫が払底している。50CA10を見限って、ソケットごと作り直してEL84等に換装するファンもいるくらいだ。
筆者のSQ38FDIIも出力管の命残り僅かと余命宣告され、その後については考えあぐねている。“38”は長年愛用してきたファンがこれからも大切に使っていけばいい。その点、定番のベストセラー球で構成されたLX-32uは先行きが心配ない。これから管球式の奥深い世界に分け入りたいならば、ハイレゾまで含めた現代の高解像度ソースに適性のあるLX-32uをお薦めしたい。長年の“38”ファンも、一度LX-32uを聴いてみるべきだ。ソースによって2台の管球式プリメインアンプを使い分けるのも楽しいだろう。
◇◇◇
今回、3ジャンルにおいてラックスマンの新旧製品比較を試みたが、長い歴史の中で築き上げたノウハウと特にデジタルにおける最新技術、そして最新の音源をレファレンスに開発された、現行ラインナップの魅力と優位性を改めて実感した。
一方で、その時代の最上の技術を傾注して作り上げたオーディオ製品は、時代が変わり、再生環境がアナログからデジタルへ変わっても、個性と魅力を失わないという事実を理解した。
オーディオのストックたる所以はそこにある。しかしそのためには可能な限りパーツを供給しバックアップするメーカーの存在が不可欠だ。ラックスマンには自身が手がけ送り出した製品への矜持と責任感がある。繰り返すがハイエンドオーディオとは、製品のプライスタグの数字の多寡を差すのでない。ユーザーに寄り添い歩み続けるメーカーの「視線の高さ」を差すのだ。
▼開発者に聞く
大橋氏 先日、我が家の「SQ38FDII」をオーバーホールしていただきました。真空管のソケットの調子が悪くなってしまったのです。SQ38FDIIは今はサブシステムですが、3回のオーバーホールを経てずっと現役で使っています。もう30年も前、学生のときに新宿の三越で夏休みいっぱいアルバイトをして貯めたお金で買ったものです。
土井社長 夏休みだけのアルバイトで買えました?(笑)
大橋氏 学生でしたから夏休みの2ヶ月休みなくバイトをして、なんとか買いました(笑)。そこまでしてでも欲しかったのです。ところで、これまでラックスマンのアンプをたくさん使いましたが、SQ38FDIIだけは手放すことなくずっと持っています。そういうユーザーは多いのでしょうか。
土井社長 ラックスマンのアンプのユーザーは、“買い換え”ではなく“買い増し”をされる方が非常に多いです。真空管アンプを持っているけれど、トランジスターアンプも買い足す。そのような方が昔から大勢いらっしゃいます。そしてトランジスターアンプでは後継機種に移っていくパターンも多いですが、真空管アンプについては手放す方が本当に少ないです。下取りに出るものも少ないですよね。
大橋氏 SQ38FDなど、もう真空管がないのに未だに中古は高値です。それだけ魅力があるということですよね。今日聴いた音は、とても40年前のアンプのものとは思えませんでした。
土井社長 10年ほど前に、SQ38FDを今作ったらいくらになるのか試算してみたのですが、ざっと定価で70万円というところでした。いまならもっと高いでしょう。ラインナップにおける位置づけやスペックを考えても、SQ38FDに対して現行製品からLX-32uを持ってくるのはフェアではなかったかもしれないですね。
大橋氏 しかしLX-32uにフォーカスすれば、CD再生の解像度、鮮度感や情報量はSQ38FDをはるかに超えています。LX-32uはまさに現代の真空管アンプだと感じました。
土井社長 その通りです。
大橋氏 今日は3つのジャンルにおいて新旧製品を比較試聴しましたが、これだけ新旧製品のそれぞれに魅力があるというのは希有でしょう。フローとストックの、ストックを象徴する部分を実感できました。それから、これはラックスマン製品を使い続けているユーザー全員、そしてこれから新製品を手に入れようとしているユーザーにも言えることですが、将来にわたってアフターサービスを行っていただけるというのは何より心強いです。普通は、30年、40年前の製品のアフターフォローというのはできません。
土井社長 アフターフォローが難しくなってしまった製品も中にはありますが、歴代モデルのサービスパーツは全て保管しています。製品在庫よりサービスパーツの方が多いくらいです。これはまた別の観点の話ですが、半導体を使っているアンプは、特にマイコンなど製品ごとに開発された部品の在庫が切れてしまうと修理ができなくなってしまいます。一方で真空管アンプは特殊な部品を使っていないので、他のもので代用して修理できます。真空管アンプだからこそ可能な長く使える道があるのです。
大橋氏 製品の魅力はもちろん、それを長く使うことができるのは、ユーザーにとって計り知れない利益ですね。そこはラックスマンがハイエンドオーディオたる所以だと、今日改めて実感しました。本日はありがとうございました。
(大橋伸太郎 インタビュー構成:編集部)
ただしLX-32uの出力ワッテージは15W+15Wと低いので、先のL-570と同様に聴き手がシステムに寄り添って行くことが求められる。すると別の音の眺望が開けてきた。LX-32uには、SQ38FDにはない演奏のディテールの描き込みがある。ピアノの倍音の伸びやアタックの立ち上がりまで細密画のように描写され、LX-32uが管球式でありながら現代的な解像感に支えられたアンプであることが伝わる。この点、SQ38FDはよく言って大らかであった。
管球式プリメインアンプの新旧比較は、ユーザーの1人としての贔屓目も加わってSQ38FDに軍配を上げたい。しかし、冷静に比較するとSQ38FDの分は悪い。
38シリーズの中古品市場での人気は高く、現在でも高値で取引がされているが、いかんせん出力管の三極管「50CA10」は当時のラックスがNECに発注して作らせた専用管で、そもそも代替球が存在しない。一時、中国メーカーが50CA10を復刻して話題を呼んだが現在は在庫が払底している。50CA10を見限って、ソケットごと作り直してEL84等に換装するファンもいるくらいだ。
筆者のSQ38FDIIも出力管の命残り僅かと余命宣告され、その後については考えあぐねている。“38”は長年愛用してきたファンがこれからも大切に使っていけばいい。その点、定番のベストセラー球で構成されたLX-32uは先行きが心配ない。これから管球式の奥深い世界に分け入りたいならば、ハイレゾまで含めた現代の高解像度ソースに適性のあるLX-32uをお薦めしたい。長年の“38”ファンも、一度LX-32uを聴いてみるべきだ。ソースによって2台の管球式プリメインアンプを使い分けるのも楽しいだろう。
今回、3ジャンルにおいてラックスマンの新旧製品比較を試みたが、長い歴史の中で築き上げたノウハウと特にデジタルにおける最新技術、そして最新の音源をレファレンスに開発された、現行ラインナップの魅力と優位性を改めて実感した。
一方で、その時代の最上の技術を傾注して作り上げたオーディオ製品は、時代が変わり、再生環境がアナログからデジタルへ変わっても、個性と魅力を失わないという事実を理解した。
オーディオのストックたる所以はそこにある。しかしそのためには可能な限りパーツを供給しバックアップするメーカーの存在が不可欠だ。ラックスマンには自身が手がけ送り出した製品への矜持と責任感がある。繰り返すがハイエンドオーディオとは、製品のプライスタグの数字の多寡を差すのでない。ユーザーに寄り添い歩み続けるメーカーの「視線の高さ」を差すのだ。
▼開発者に聞く
大橋氏 先日、我が家の「SQ38FDII」をオーバーホールしていただきました。真空管のソケットの調子が悪くなってしまったのです。SQ38FDIIは今はサブシステムですが、3回のオーバーホールを経てずっと現役で使っています。もう30年も前、学生のときに新宿の三越で夏休みいっぱいアルバイトをして貯めたお金で買ったものです。
土井社長 夏休みだけのアルバイトで買えました?(笑)
大橋氏 学生でしたから夏休みの2ヶ月休みなくバイトをして、なんとか買いました(笑)。そこまでしてでも欲しかったのです。ところで、これまでラックスマンのアンプをたくさん使いましたが、SQ38FDIIだけは手放すことなくずっと持っています。そういうユーザーは多いのでしょうか。
土井社長 ラックスマンのアンプのユーザーは、“買い換え”ではなく“買い増し”をされる方が非常に多いです。真空管アンプを持っているけれど、トランジスターアンプも買い足す。そのような方が昔から大勢いらっしゃいます。そしてトランジスターアンプでは後継機種に移っていくパターンも多いですが、真空管アンプについては手放す方が本当に少ないです。下取りに出るものも少ないですよね。
大橋氏 SQ38FDなど、もう真空管がないのに未だに中古は高値です。それだけ魅力があるということですよね。今日聴いた音は、とても40年前のアンプのものとは思えませんでした。
土井社長 10年ほど前に、SQ38FDを今作ったらいくらになるのか試算してみたのですが、ざっと定価で70万円というところでした。いまならもっと高いでしょう。ラインナップにおける位置づけやスペックを考えても、SQ38FDに対して現行製品からLX-32uを持ってくるのはフェアではなかったかもしれないですね。
大橋氏 しかしLX-32uにフォーカスすれば、CD再生の解像度、鮮度感や情報量はSQ38FDをはるかに超えています。LX-32uはまさに現代の真空管アンプだと感じました。
土井社長 その通りです。
大橋氏 今日は3つのジャンルにおいて新旧製品を比較試聴しましたが、これだけ新旧製品のそれぞれに魅力があるというのは希有でしょう。フローとストックの、ストックを象徴する部分を実感できました。それから、これはラックスマン製品を使い続けているユーザー全員、そしてこれから新製品を手に入れようとしているユーザーにも言えることですが、将来にわたってアフターサービスを行っていただけるというのは何より心強いです。普通は、30年、40年前の製品のアフターフォローというのはできません。
土井社長 アフターフォローが難しくなってしまった製品も中にはありますが、歴代モデルのサービスパーツは全て保管しています。製品在庫よりサービスパーツの方が多いくらいです。これはまた別の観点の話ですが、半導体を使っているアンプは、特にマイコンなど製品ごとに開発された部品の在庫が切れてしまうと修理ができなくなってしまいます。一方で真空管アンプは特殊な部品を使っていないので、他のもので代用して修理できます。真空管アンプだからこそ可能な長く使える道があるのです。
大橋氏 製品の魅力はもちろん、それを長く使うことができるのは、ユーザーにとって計り知れない利益ですね。そこはラックスマンがハイエンドオーディオたる所以だと、今日改めて実感しました。本日はありがとうございました。
(大橋伸太郎 インタビュー構成:編集部)