"ハイレゾ対応"新SOLID BASSを聴く(2)
オーディオテクニカ「ATH-CKS1100」レビュー:豊かな空間表現と重低音再生を両立させた会心作
■SOLID BASSならではの重低音とハイレゾの解像感を見事に両立
さてそのサウンドだが…「SOLID BASSならではの重低音×ハイレゾの解像感」というコンセプトの具現化に見事成功。同時に、シリーズの枠を超えて「デュアルフェーズ・プッシュプル・ドライバーのエントリーモデル」という見方をしても、その期待に応えてくれるだろう(ATH-CKR9/10の希望小売価格は3万円と4万円だが本機は市場実勢価格2万5000円前後)。
ATH-CKS1100の最大の特長は、空間表現の豊かさだ。デュアルフェーズ・プッシュプル・ドライバーの効果はここに最も強く現れているのかもしれない。
かつての重低音志向イヤホンによくあった悪いパターンは、重低音を得ている代わりに狭い音場にそのぼわんとした重低音がむぎゅっと押し込まれて空間全体が不明瞭かつ窮屈になってしまっているというものだった。それではハイレゾ志向との両立はできない。
このモデルはそこを克服している。ベースやバスドラムなど低音楽器の音色音像それ自体をぼわんとはさせないようにチューニングされている上に、空間に余裕があるので全ての音が重なりすぎずに配置され、低音楽器が高音楽器の細部や響きをマスキングしてしまったりということも少ない。透明感や空気感も十分に維持しつつ、SOLID BASSらしい低域表現も実現している。
ジャズとヒップホップの高次元でのハイブリッドサウンド、Robert Glasper Experiment「I Stand Alone」では、デッドなようでいてライブに豊かに響いてもいるようなドラムスの空気感の再現が見事だ。低域と空間の再現性が光る。またシンバルやスネアドラムでわかりやすいが、意図的にローファイに仕上げられた部分のそのローファイの粗く荒い質感の雰囲気もよい。
ドラムスから広がる空気感のよさはLed Zeppelin「When The Levee Breaks」でも秀逸だ。こちらはでっかい部屋でドカンとパワフルにぶっ叩いたそのライブな響きを満喫できる。現代的なアプローチから古典ロックまで対応できる低域と空間の表現だ。
Daft Punk「Get Lucky」との相性の良さは、まあ言うまでもないだろうか。多弦ベースの低い音域でのフレーズも、その音色にほどよい温かみを与えつつ不明瞭にはしない。CKRよりも重心が低く音調はウォームというその特性が、この曲にも実に合う。
ハイレゾという課題を与えられ、「デュアルフェーズ・プッシュプル・ドライバー」という技術を手にしたことで、SOLID BASSは新たな高みに到達した。それを実感させる音だ。