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<山本敦のAV進化論 第76回>

“全部入り”スピーカーで手軽にハイレゾ。DAC/アンプ内蔵アクティブスピーカー注目機を聴き比べ

公開日 2015/11/20 10:30 山本 敦
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コンパクトサイズなのにサウンドはパワフル、PCとUSBケーブルでつなぐだけの簡単セットアップを実現した点が大きな特徴。ほかにも外部機器との接続手段として光デジタル経由でテレビへ、3.5mmジャックでポータブルオーディオ機器につなげる拡張性もある。一方でBluetoothやWi-Fiなどワイヤレス再生の機能は搭載していない。本機もシンプルにPCとUSB接続して楽しむのに向いているスピーカーだ。

背面端子部。USB-B型の端子を採用

エンクロージャーはオールアルミ製。専用の鉄球入りのスピーカーベースが付属してくるところにも国産スピーカーメーカーならではの高音質再生へのこだわりを感じる。

フロントパネルには入力されているソースのランプが点灯する

サウンドは低域の重心が低く安定感が高い。ボーカルの定位が極めて鮮明で、声質が素直に再現される。輪郭のタッチもきめ細く滑らかだ。ジャズギターは音色が明るく、メロディラインが映える。弦が柔らかくしなり、余韻が膨らんでいく様子がイメージとともに伝わってくるような生音のリアリティが蘇る。S/Nが良く、オーケストラは見晴らしがクリア。細部まで立体的な空間を描き切る。

鉄球入りの専用スピーカーベースが付属する

低域の音像は太くて芯が強い。上原ひろみのピアノはダイナミックレンジの幅が広く、濁りのない低域が深く沈み込む。サイモン・フィリップスが叩くドラムスはスネアの切れ味鋭いアタックや激しいシンバルの炸裂感も、破綻せずにディテールを丁寧に再現する。余韻の柔らかさときめ細かさがこのスピーカーの持ち味と言えそうだ。情熱的な演奏なのに、優しく包み込まれるようなふくよかさがある。

セットアップの手軽さ、サイズ感ともに、デスクトップ環境でのニアフィールド再生におけるベストな選択肢の一つではないだろうか。様々なタイプのハイレゾ音源からエッセンスを引き出せるパフォーマンスの高さに、国産スピーカーブランドが長年培ってきたノウハウの重みを感じる。次世代モデルではDSD対応にも期待したい。

◆富士通テン「TD-M1」

Wi-Fi、USB-DAC機能を搭載する富士通テンの「TD-M1」

富士通テン、ECLIPSEブランドの卵型スピーカーのラインナップに昨年から加わった全部入りで、しかもワイヤレス対応のスピーカー。USB-DACは192kHz/24bitまでサポート。Wi-Fi接続は主にAirPlay対応を主眼としているが、ルーターモードでNASにつなぎネットワーク経由で音楽再生を楽しむこともできる。ただしこの場合は再生品質が44.1kHz/16bitに制限される。iOS機器とはルーターを介さずにダイレクトモードで直接つないだ状態からCD品質のワイヤレス再生も可能だ。Bluetooth機能は搭載しない。

ほかにも3.5mmステレオミニ経由でテレビや外部オーディオ機器につなげられるほか、USB-AコネクタにはiPhone/iPadをデジタル接続して高品位なサウンドが楽しめる。入力切り替えやボリュームのアップダウンは本体フロントパネルのタッチセンサーから操作ができるほか、専用のリモコンアプリ「TD Remote」を使う手もある。

背面端子部。USB-A端子はiOS機器のデジタル接続用

本機のサウンドフィロソフィーの中核には、ECLIPSEのTDシリーズが長年採用してきた、インパルス応答を高めながら原音に限りなく近いスピーカー再生を実現するための「タイムドメイン理論」が根を張っている。

グラスファイバー素材の8cmフルレンジユニットを採用

DAC部にはオーバーサンプリングフィルターを取り除いた「Non Over Sampling DAC」(NOS-DAC)を採用。元来はDA変換の際に発生するノイズを取り除くために使うオーバーサンプリングフィルターよりも、時間波形の正確さを重視するタイムドメイン理論をベースにしたスピーカーならではの正確な音を優先的に追求した。なおノイズが気になる場合にはオーバーサンプリングのフィルター効果をアプリでオンに切り替えて聴くこともできる。

リモコンアプリ「TD Remote」の画面

音の輪郭を明瞭に、かつボディを力強く描くサウンドだ。ボーカルは滑舌がシャープで歯切れよい。ロックの音源はギターのカッティングがきれいに揃って粒立ちも鮮やかだ。ドラムスやベースの瞬発力が高く、奥行きの深い演奏を聴かせる。

モニタースピーカー的に冷徹な正確さではなく、例えば女性ボーカルはしっとりとしていて生々しく、はっと驚くほどに距離感を近く感じさせる。

ジャズギターのメロディラインは抑揚が鮮やかに浮かび上がり、プレーヤーが音に込めた感情までも表現する。オーケストラは音楽の一体感が非常に高く、音が束になってぶつかってくるような迫力がある。弦楽器はウェットでしなやかな音色に引きこまれる。弦バスやティンパニの低音もぐんと深く沈む。つまりは音楽性も非常に豊かなスピーカーだ。

デスクトップに置いた環境でのニアフィールドリスニングの質は圧倒的。やや大きめので、デスクトップに置くためのスペースを確保する必要があるのだが、角度調整機能などを活用すればスイートスポットはつくりやすいと思う。

◆ヤマハ「NX-N500」

Wi-Fiにハイレゾ対応のUSB-DAC機能を内蔵したヤマハの「NX-N500」

今秋10月下旬にヤマハが発売した、ブランド初の“全部入りスピーカー”、それが「NX-N500」だ。スピーカー構成は2ウェイ・バスレフ型で、再生周波数帯域は54Hz〜40kHzをカバー。サイズも、その佇まいも本格的なピュアオーディオ用のブックシェルフスピーカーだ。内蔵するUSB-DACはDSD 5.6MHzのネイティブ再生、およびリニアPCMはUSB入力時で384kHz/32bitまで、ネットワーク再生時で192kHz/24bitをサポートする強力なDACのスペックが売りだ。

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