[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第139回】この高音質でまさかの6千円! 驚愕の価格破壊イヤホンRHA「S500」
■価格帯の基準を再定義してしまうその実力!
モノとしての外観等のよさだけでも「これが6,000円!?」と驚きのモデルだが、恐ろしいことに音を聴くとその驚きがさらに強まる。良質な小口径ダイナミック型らしいジャキッとしたキレや精密感を、この価格帯にしてハイレベルで味わえてしまうのだ。これが6,000円となると、今後のそのあたりの価格帯に求められるレベルは更新されるし、これより上の価格帯の製品もこれを超えなければならないとなると、かなり苦心することになるのではないだろうか。
音調としては前述のように、中高域のシャープさやそれを生かした硬質で精密な描写がいちばんの持ち味だと思う。低域もふくよかなものではなくがっしりと筋肉質だ。力士でもプロレスラーでもヘビー級ボクサーでもなく、ブルース・リー師のあの動き、スピードと威力を想像してみてほしい。
例えばクールに構築されたフレーズが印象的なペトロールズ「ないものねだり」では、そのフレーズのカッチリ感がこれでもかと伝わってくる。軽く歪ませたギターの単音やカッティングはアタックが立っていて収まりもピタッとしており、リズムの妙を堪能できる。ハーモニクス(倍音だけを抽出して弾く奏法)も綺麗に伸びる。シンバルも同じくキレがよく、ハイハットシンバルのオープンクローズがビシッと決まっている。またジャキッとした金属の質感を強めに出してくれるのも気持ちよい。
ベースの低域も、立ち姿に喩えるなら軸がしっかりとして重心が低いというか、体格体重が立派なのではなく、立ち方が優れているのでがっしりと揺らがない、そんなしっかり感のある低音を出してくれる。
またこの曲やTM NETWORK「Beyond The Time (Expanded Version)」のように空間表現を求められる曲を聴いても、そこにも不足は感じない。音像のシャープさや音色の透明感によって、空間の余裕や濁りのなさが確保されていることも大きいかと思う。
個人的には問題ないというかむしろ好みだが強いて挙げれば、女性ボーカルを柔らかく聴きたい方には合わない場合があるかもしれない。やくしまるえつこさん、花澤香菜さん、早見沙織さんといったところを聴くと、僕好みの硬質な透明さを感じられた。僕の好みに強く合致するということは、僕と好みが逆の方には強く反発する可能性もある。
逆に「これはおおよそ誰が聴いてもこの曲には合うと思うだろう」という印象になったのは喜多村英梨さん「掌 -show-」だ。この曲に限らず、ハイスピードで高密度でメタリックなアレンジの曲との相性は普通によい。シャープでソリッドなので、テクニカルなアレンジや演奏で音が密に詰め込まれていてもそれらを埋もれさせることがない。現代的なディストーションギターのエッジの再現性も実に見事だ。
ということで今回は、驚愕の新イヤホンRHA「S500」を紹介した。何が驚愕かって、いままでにない画期的な技術や新機能、斬新なデザイン…とかではなくて普通にいままで通りのセオリーの上でのこの価格帯でのこのサウンドやルックスというのがすごい。奇策ではなく、正面突破で従来の基準を打ち砕いてしまった。装着感とか全体的な使い勝手も全く問題ないし、「5,000円とか6,000円とかでおすすめのイヤホンは?」と問われたら当面はこの名前を挙げることになりそうだ。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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