フラグシップのポテンシャルを探る
オプトマ「HD92」レビュー<後編>映画の“ルック”を再現!貝山知弘がHD92調整を極める
▼『美女と野獣』
●貝山知弘によるルックとベスト調整値
・ルック/「耽美」
・モード/シネマ
・コントラスト/-12
・色の濃さ /+10
・シャープネス/12
・ガンマの領域/RED x,yをそれぞれ-1に調整
題名が示すように美しい娘と、山の上の城に住む獣に化した男の恋物語で、大人も鑑賞できるおとぎ話だ。この作品では耽美と醜悪が共存する世界が描かれる。物語には様々な綾がある。野獣となった男は山上の古城の持ち主である貴族。狩りが好きな彼は、ある日一頭の美しい女鹿を射殺すが、それは彼の婚約者の変身した姿だった。それ以来、彼は野獣に変身し城に住み続けていたのだ。
表現の基本となる《ルック》は「耽美」である。バラに囲まれた古城は哀愁を湛えながら美しく、周囲にはファンタスティックな森やミステリアスな池があり、それが物語と絡んでいる。全てをデジタルで撮影し、上映はデジタルに限定されていた。これを考えると、モードの調整は「シネマ」からスタートした方がいい。
▼『アメリカン・スナイパー』
●貝山知弘によるルックとベスト調整値
・ルック/「砂塵のリアリズム」
・モード/フィルム
・コントラスト/-12
・色の濃さ /+ 5
・シャープネス/-12
この作品はリアルな描写に徹した映像だ。クリント・イーストウッドがイラク戦に参戦したアメリカ海軍シールズの狙撃手クリス・カイルの実録を描いた作品で、愛妻家であった彼が戦場では女性も子供も撃ち殺さざるを得ない戦闘の実情をリアルに描写しつくしている。
イラクの街中の戦闘シーンでは、アラブ諸国で実感できる砂塵が立ち込める映像が随所にある。この作品で重要なのは、戦禍のイラクを描いたリアリティをどこまで表出できるかだ。現代戦で使われる高性能の兵器がもたらす破壊の凄まじさと、戦場で飛び交う砂塵のニュアンスが画面からはっきりと感じ取れる必要があるが、この調整にはかなりの時間を要した。
撮影自体をフィルムで行なった映画なので、モードは「フィルム」が基本。「シネマ」モードでは埃の感触が希薄になる。この微調整にはかなりの時間を要したが、その甲斐あって最終状態では効果的な砂塵が観られるようになった。カイルが手榴弾を持ったアラブ人女性と子供を狙撃した時、狙撃銃に取り付けたスコープの望遠レンズが捉えた映像の中でも砂塵が観られる。彼が敵の天才的スナイパーを1km以上も離れた屋上から狙撃し、撃ち殺すシーンの映像では、その距離感を画面で表現する必要があるが、2KマスターのBDでもそれが表出できる解像度の高さに改めて感心した。撮影はフィルムで行なわれており、モードでも「フィルム」を選ぶのがいい。