フラグシップのポテンシャルを探る
オプトマ「HD92」レビュー<後編>映画の“ルック”を再現!貝山知弘がHD92調整を極める
▼『ヒッチコック』
●貝山知弘によるルックとベスト調整値
・ルック/「家庭的な行動とプロフェッショナルな行動との対比」
・モード/フィルム
・コントラスト/-12
・色の濃さ /+ 8
・シャープネス/ 12
映画作家の宿命は、いつか才能が売れなくなる時期がくるということだ。これは数多くのサスペンス・スリラーで傑作を生み出した映画監督ヒッチコック(エンソニー・ホヤキンス)が、スランプに陥った時の物語だ。
彼は無名な作家のスリラー小説『サイコ』を作ろうとするが、メジャーのスタジオは安い予算しか出さず、メジャーの配給会社は安い価格で買い叩かれた。それでもヒッチコックが闘えたのは、彼自身のディグニティと妻アルマの助力だった。彼女はシナリオを書き、彼が病に倒れた時、監督を代行して撮影を行なったりしたが、ヒッチコックはそんな妻に感謝することもなく、殺されたジャネット・リー役を演じた若い女優(スカーレット・ヨハンソン)への関心を隠さない。彼女がモーテルのシャワー室で老婆に扮した男に殺されるシーンの撮影では、ヒッチコック自身がサディステックなナイフでの惨殺を演じて見せたりする。一見華やかなハリウッド社会の裏面を描いた作品だが、共に才能を持つ夫婦の、ぎりぎりな家庭生活への諷刺が感じ取れる。
▼『アンナ・カレーニナ』
●貝山知弘によるルックとベスト調整値
・ルック/「絹のチュールとマズルカ」
・モード/フィルム
・コントラスト -22
・色の濃さ + 5
・シャープネス 12
・ウルトラディティール ユーザー 100C
・ピュアモーションON
トルストイの著名な小説の映画化。若い美貌の青年将校に恋した人妻の悲劇が描かれる。主役の人妻アンナ・カレーニナを演じるキーラ・ナイトレイの美しさが際立つ。
映像で、華麗な舞踏会に象徴されるロシア上流階級の因習に満ちた世界が対照的に描かれる。列車の席に座るナイトレイの、細い絹で造られたチュールを顔にかけた顔だちの緻密で美しいクローズアップと、当時流行したマズルカで個性あらわに踊る彼女の妖艶な姿が印象的だ。今回の視聴では、その美しさと奔放さがことさら映えていた。顔にチュールを付けた時の階調調整が最も難しい。シャープネスの値を上げると、チュールは鮮明になるが絹の細さが消え、太い井型の模様が顔を覆う印象となる。これは落第。絹の緻密な質感を保ちつつできるだけ鮮鋭度を得る調整が望ましい。当時の列車ゆえ灯は暗いが、これを守りつつアンナの顔を美しく見せることに集中すべきだ。今回の画質調整では、ウルトラディティールを上げるのと同時に、アンナの顔色の微調整も行なっている。
一方、マズルカを踊るシーンは宮廷の明るい室内で始まるが、ナイトレイが青年将校と二人だけで踊るショットは、ずっと暗い空間の中での撮影。ここは現実離れした空間のイメージがあっても違和感は感じられない。ピュアモーションを上げる方向で調整しているが、これは早いスピードで個性的な踊りを際だたせる狙いだ。
註)〈ウルトラディティール〉=エッジの部分を強調し、映像細部の描写を強調するための機能。4種類の選択ができる。
●off・・・ソースのままの映像
●on(40)・・・細部の描写を適度に強調した映像
●HD+(120)・・・細部の描写を強調した鮮明な映像
●ユーザー(0〜150)・・・ユーザーの好みによる設定
(貝山 知弘)
個々の映画に合わせた画質調整。「作品のエッセンスを満喫するには、そうした細かい作業が必要である」と貝山氏は語る。HD92はその画質調整機能によって、多彩なジャンルの映画の魅力を引き出すポテンシャルを持つプロジェクターだ。皆さんもHD92で、ぜひ好きな映画にあわせた画質調整に挑戦してみてほしい。