“フルバランス” が引き出すクラスDアンプの真価
「 20万円以下では圧倒的な駆動力」。パイオニアのプリメイン「A-70A」を岩井喬がレビュー
試聴では「A-70A」とともに、従来モデルA-70を用意。スピーカーにはモニターオーディオ「Gold 300」、ソースにはN-70Aを用い、RCAアンバランス接続での比較を行った。さらにその後、A-70AとN-70AはXLRバランス接続に変更し、最良の状態でのサウンドを試してみる。
アンバランス接続:S/Nが一段と向上。生々しく有機的な音色
まずアンバランス接続での比較であるが、A-70でも十分低域の駆動力の高さを実感できるうえ、付帯感なくストレートな音色傾向に加え、高域にかけては澄み切ったシャープでリアルなサウンドを聴かせてくれた。音像の輪郭も明瞭でキレ良くボディをまとめ、余韻も階調細やかで透明感の高い空間を味わえる。
一方「A-70A」では、アンバランス接続ながらS/Nが一段と向上し、重心の低い落ち着いたサウンドが得られるようになった。ボーカルは肉付き良く素直なタッチで描き、多くの方が想像するであろう、クラスDアンプの冷徹でソリッドな印象とは対極の、生々しく有機的な音色である。キックドラムやベースも弾力良く引き締め、ストリングスの響きもクリアかつ瑞々しく描く。ピアノのレンジの広く、ボディの響きも丁寧にトレース。生々しくストレートな質感表現であり、ディティールもしなやかで脚色のない正確な描写性を備えている。
バランス接続:よりリアルでクリアなサウンドを実現。
クラスDアンプの能力が遺憾なく発揮
続いて聴いたバランス接続では、より音像の彫りが深い描写力と、圧倒的な低域の沈み込み、キレ鮮やかなアタック&リリースが味わえる。オーケストラでは余韻が消え入る瞬間までわかるほどの、高S/Nな音場が展開。管弦楽器のボディの膨らみも自然で、旋律の粒も細やか。アンバランス接続では僅かながら残るリリースの甘さが倍音の豊かな表現につながり、余韻の豊潤な響きとなっていた。一方でバランス接続では、リアルで音像の密度が凝縮した、解像度の高いクリアなテイストが主体となる。
DSD音源では、しなやかかつ自然な楽器の響き、ボーカルの肉厚感が得られ、硬さのない朗らかなサウンドを味わうことができた。つまり、リアルであっても、ドライでハードタッチということではないということだ。締めるところは締め、拡散する余韻はきめ細かく滑らかに表現することができるのである。表現できる音色の幅が広いことを、改めて実感した次第だ。
クラスDアンプならではの真価を垣間見たのは、Suara「不安定な神様」を聴いた時だ。ドラムサウンドのリアンプの効果をより正確に感じ取れたことにある。 (※リアンプ=ミックスダウンの際、打ち込みドラム音源をスタジオ内のアクティブモニターで再生。そのスタジオ反響音をマイクで拾うことで生っぽい音色を作り上げる手法)
この音源の低域の再生はなかなかハードルが高い。高密度で重厚な雰囲気は比較的容易に表現できるものの、リズム楽器へのエフェクト効果まで正確に再現するのは難しい(アタックのキレと余韻の収束の速さの再現が求められる)。ハイレゾ音源が持つ広大なダイナミックレンジを的確に描き切るにも、A-70AのようなクラスDアンプが持つ高速応答性が求められるはずだ。
価格レンジでいえばミドルクラスだが、フルバランス構成のプリ段がもたらすS/Nの良さとの相乗効果もあり、その実力は倍以上の回路構成を持つアナログアンプに引けを取らない。A-70Aは20万円以下の価格帯の中では圧倒的な駆動力と、スタジオモニターにも匹敵するリアルで癖のない音色を同時に味わえる、魅力的な選択肢といえるだろう。
■試聴音源
【クラシック】
・レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』〜木星(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(e-onkyo:96kHz/24bit)
【ジャズ】
・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』〜ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
【ロック】
・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・Suara「不安定な神様」(e-onkyo:96kHz/24bit)
【DSD音源】
・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜レディ・マドンナ(筆者自身によるDSD録音:2.8MHz)
・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜届かない恋(2.8MHz)
・Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源(5.6MHzに変換)