<山本敦のAV進化論 第101回>
ソニーの“アナログ時計なスマートウォッチ”「wena wrist」を試用。プロジェクトリーダーに話も聞いた
学生時代にはプラズマ工学を専攻し、PDAやウェアラブルデバイスが大好きで買い漁っていたという對馬氏。学生の時に使っていたお気に入りのアナログ時計のほかに、スマートバンドとスマートウォッチを身に着けて過ごす煩わしさを実感して、「これらの機器を一つにまとめたい」という思いからwena wristを着想したという。
ヘッド部にではなく、バンドの側にテクノロジーのコアを集めるという発想の斬新さを高く買われ、SAPのオーディションを見事通過。自社サイトFirst Flightでのクラウドファンディングにより、目標支援額を達成させ、テストマーケティングにおいて市場のニーズもつかめたことから製品化が決まり、ついに今夏の正式発売に辿り着いた。
對馬氏は、wena wristはソニーに在籍して、同社の資産を活用できたからこそ商品化を達成した製品だと語る。
「インディペンデントなハードウェアベンチャーでは、これほど精度の高いプロダクトを作ることは難しいと思います。wena wristは時計としての質感を高めるため、全て金属性のボディとしていますが、一般的に金属で囲ってしまうとアンテナの感度が取りにくくなります。ソニーの経験豊富なアンテナ技術のエンジニアによるノウハウが不可欠になります。あとは時計なので、小型製品向けの高い防水技術も必須になります」。
昨今のスマートウォッチのトレンドを對馬氏はどのようにみているのだろうか。
「以前はスマートウォッチといえば四角い液晶を搭載する製品が主流でしたが、いまはディスプレイが円形になったり、竜頭を付けたりベゼルが回せたりと、デザインや操作性がアナログの腕時計に近づいていると感じます。ヘッド部のホンモノ感を追求するのであれば、完璧なアナログ時計と融合させるという発想が、今回のwena wristの始まりです」。
今回は、腕時計のデザインにも精通するソニー社内のプロダクトデザイナーがwena wristのデザインを担当している。腕時計としての意匠を損なわないため充電端子には、いったん金メッキをかけた後で、その上からさらに銀色のメッキ処理を施して全体のカラーリングに統一感を持たせている。
ビスも、腕時計の分野ではより一般的なマイナス形状にすることにも敢えてこだわった。ヘッド部はムーブメントの設計と製造を、時計メーカーであるシチズンが担当。腕時計としての完成度を突き詰めたいと、専門メーカーに協力してもらった。
■wenaシリーズとして時計以外への展開も視野
今後の展開も對馬氏に訊ねた。「“wena”という言葉には“wear electronics naturally(生活を便利にする最先端のテクノロジーを自然に身に着ける)”という意味があります。シンプルさを追求してきたwena wristのコンセプトは、本機でいったんカタチにできたと思っています。あとは“wenaシリーズ”として、これを色んなスタイルに展開してみたいとも思います。私個人としては両耳のBluetoothヘッドセット(イヤホン)にも興味があります」。
専用アクセサリーを増やすなど、wena wrist周囲の広がりも充実させることが必要ではないだろうか? 質問をぶつけてみたところ、對馬氏はその点は抜かりないと答える。
「バンド本体のみを単品販売する方向も検討しています。バンド幅が22mmなので、フィットするヘッド部を自由に着せ替える楽しみが出てきます。初代機が無事に成功すれば、あるいはより細身で軽い女性向けや、素材を変えたスポーツタイプへの展開も狙えるようになります」。
シンプルさを売りにするwena wristのコンセプトを貫くため、さらに消費電力を必要とするような機能拡充は考えていないという。ただ、現在も搭載されている「通知機能」の使い勝手をさらによくするため、たとえばLEDランプの他に1行表示のディスプレイを追加したり、現在の機能を深める方向でのアップデートについては積極的に図りたいと對馬氏は考えているようだ。
筆者はwena wristを使ってみて、電子ウォレットの機能はやみつきになるほど便利に感じたが、一方でスマホへの通知をディスプレイできないことに不便さを感じてしまった。SmartWatch 3のヘッドと合体させて、1台のスマホにwena wristと一緒にペアリングできたら最強だ。
後者は既に実現可能なのだが、SmartWatch 3専用の単体コアホルダー「SWR510C」を装着しても、装着できるバンドは幅が24mmなので、22mm幅のwena wristを持て余してしまう。ソニーからアダプター的なアクセサリーが商品化されればベストなのだが、何か良い方法がないか探してみたい。
今後ユーザーが思い思いの方法でスマートウォッチを“遊ぶ”アイデアが沸いてくるほど、アクセサリーを含めた製品が充実してくることが商品カテゴリーとして生き残る鍵だと思う。ソニーもぜひオープンな発想でwena wristを遊び倒せる環境を充実させてほしい。