<山本敦のAV進化論 第109回>
【新旧対決】新しい“ウォークマンA”はどこが変わった?A30シリーズ徹底解析
上原ひろみのアルバム「Spark」から『Wonderland』を聴くと、低音が一段と深いところまで沈み込むようになったことがわかる。ピアノの低音域は重心が低くなり、旋律により明快な凹凸と立体感が生まれて鮮やかさが増した。メロディがよりいっそう躍動する。
ベースラとドラムスのリズムは安定感が増して、粘っこいリズムをたたき出す。ドラムスやシンバルの余韻が爽やかに広がる開放感も秀逸。A20よりもさらにワイドな帯域に視野を広げられる。
ダフト・パンクの「Random Access Memories」から『Lose Yourself To Dance』では、鋭く引き締まった低音の存在感が印象に残る。低域の分解能が上がって、リズムの芯と肉厚な余韻がはっきりと描き分けられるようになったことがA20シリーズとの差として表れる。バスドラムの切れ味が段違いに良くなった。A20シリーズを改めて聴くと、低域の粗さが目立つように感じられてしまう。
ボーカルもキリッとした引き締まった精悍な表情だ。ハンドクラップやエレキのカッティングは音像のディティールがより細かく浮かび上がる。空間の広がり、奥行きの見通しがいっそう豊かになった。
A30シリーズには新しいイコライザープリセットとして、EDMとR&B/HIPHOPの2つが加えられた。設定を切り替えてみると、非常にパンチの効いた明るく派手な音づくりだ。低音は過度に膨ませず、余韻がグンと伸びてくるスピード感もあるので、ハマるジャンルの音楽では積極的に使って楽しめそうだ。
ミロシュ・カルダグリッチの「アランフェス協奏曲」から『第1楽章 Allegro Con Spirito』では、冒頭からギターが朗々と気持ち良く歌う。リズムも活き活きと小気味良く弾む。中低域の輪郭がシャープで、弱音も一粒ずつ立体的に浮かび上がってくる。
A20は比べてみると高域がデジタルっぽくカリッとして聴こえるが、A30では柔軟性と潤いが加わったように思う。雄大なオーケストラのスケール感もしっかりと描けている。ディティールの描き込みと、音楽のボディラインをふくよかに描く濃淡のバランスがよい。そのバランスはボリュームを上げていっても破綻せず、芯が強いしなやかな音を響かせる。フルデジタルアンプの「S-Master HX」を強化したことの良い影響が現れているようだ。
■エントリークラスのハイレゾプレーヤーとして最も有力な選択肢の一つ
新設された「DCフェーズリニアライザー」の効果についても触れておこう。元もとソニーのAVアンプやHiFiコンポーネント製品に採用されてきたデジタルアンプ「S-Master PRO」にも搭載されていたもので、アナログ方式のパワーアンプと同じ位相特性をDSPの演算処理によってエミュレートする機能だ。
設定からオンに切り替えると、低音の立ち上がりがより鋭くなって音場が引き締まる。WM1シリーズでは6種類のモードが選べるようになっているが、A30シリーズはシンプルにオン・オフを切り替えるだけ。ダンス系やロック・ポップスなどリズムのエッジを立たせたい時に遊べそうだ。
今回は試さなかったが、前回のWM1シリーズのレポートで紹介した、WM-PortからUSB-A(メス)端子への変換ケーブル「WMC-NWH10」を使ったUSBオーディオ再生では、A30シリーズもDSD 11.2MHzまでのネイティブ出力ができる。
DSD対応のハイレゾトランスポートとしてAシリーズを活用できる幅が広がった。歓迎すべき新機能だ。ただし、本体充電やデータ転送の利便性などを考えれば、今後はウォークマンにもポータブル機器の主流になるであろうUSB Type-C端子の採用を検討していい時期が来ているようにも思う。
今回発売されるA30シリーズは、元もとエントリークラスのハイレゾウォークマンとして誕生したAシリーズの良さを、タッチパネルUIを新規に搭載したことでさらに磨きあげて、さらに音楽再生のパフォーマンス向上にも確かな手応えを感じさせる魅力的なプレーヤーだ。スマホとの2台持ちに最適なプレーヤーとして強く存在感をアピールできるだろう。発売時点でタッチ操作のレスポンスがどれぐらい良くなっているか楽しみだ。エントリークラスのハイレゾプレーヤーとして最も有力な選択肢の一つになるだろう。