<山本敦のAV進化論 第116回>
【レビュー】オーディオテクニカの新ヘッドホン「ATH-SR9」をMSR7ユーザーの筆者が厳しくジャッジ!
イヤーパッドを触ってみればよくわかるが、心地よい柔らかさと適度な跳ね返りを持つクッション素材が使われており、身に着けると側圧が程よく分散され、長時間身に着けていても疲れない。スライダーの部分にも剛性の高いアルミニウム素材を使い、内側の肉を抜いたパーツを使うことで本体の軽量化を図った。
リケーブルへの対応は、コネクターがオーディオテクニカ独自のA2DC端子になり、音質を重視して左右両出しタイプのケーブルに変更。ヘッドホンの発売と同時に、より純度の高い線材を使った交換ケーブルもオーディオテクニカから発売される。当レポートではリケーブルの効果も試している。
カラーバリエーションはシルバーの1色のみ。やや明るめなシルバーだが、表面につや消し処理を施しているのでぎらついている感じはなく、落ち着いた雰囲気に仕上がっている。ハウジングの表側にはブランドロゴのシンボルマーク単体を大きく配置した。
付属品として1.2mのリモコン付き、リモコン無しのケーブルが1本ずつ付いてくる。MSR7と大きく違う点はキャリングポーチではなく、セミハードケースが付属してくること。SR9が上位モデルであることを感じさせる頑丈で頼り甲斐のあるケースだが、外出時に持ち歩きやすいキャリングポーチも別途付けてほしかった。
■ボーカルの定位がものすごく鮮やかで、ディティールもきめ細かい
それではATH-SR9のサウンドを確かめていこう。ハイレゾプレーヤーにはコウォンの「Plenue S」を組み合わせている。
原田知世の「恋愛小説2〜若葉のころ」から『September』では冒頭からクリアなドラムス、エレキベースの低音が深く鋭く沈む。エレキピアノのハーモニーが柔らかく重なり、エレキギターが小気味良いリズムを刻む中、やさしくしっとりとした歌声が染み渡ってくる。
ボーカルの定位がものすごく鮮やかで、ディティールもきめ細かい。無駄な色付けがなく、爽やかな余韻がふんわり広がる。バンドの音の定位はMSR7と聴き比べてみるとより分離感が強いように思う。
全体のバランスを見ると低域の距離がやや遠く感じられた。MSR7の方がボトムがどっしりとしていて音にまとまりがあるようにも思うが、圧倒的な空間表現力はSR9の他にない個性だ。
上原ひろみの「SPARK」から『Wonderland』を聴いても、全帯域に渡る解像度の高さ、明瞭なセパレーションを実感する。ドラムスのシンバルやハイハットの高域は制動がビシッと定まっている。
ピアノの音色は繊細なニュアンスまで自然と引き立たせる。ベースのグルーブも熱っぽい。広がるサウンドステージに限界が見えない。MSR7に比べると中低域の音の線が少し細く感じるところもあるが、一つひとつの音の芯が強く、肉付きのリッチな余韻を武器として、豊かな音楽性の深みを再現できるのがSR9ならではの魅力だと思う。
ミロシュ・カルダグリッチの「アランフェス協奏曲」から『第1楽章 Allegro con spirito』もSR9のテイストにピタリとはまった。ギターのハイトーンが伸びやかに堂々と響く。S/Nがとてもよく、ギターのメロディが大編成のオーケストラの音に埋没せずに凛と立っている。
音の一粒ずつが生っぽく、確かな実在感が伝わってくる。立体的に描きだされる音場に吸い込まれてしまいそうな怖さすら感じる。MSR7で聴くギターの方が柔らかくふくよかなようにも思えたが、おそらくSR9の音もエイジングを重ねていけばますます花開くだろう。細やかな弱音まで繊細なニュアンスをたっぷりと響かせる底力を持っているだけに、鳴らし込んだあとにもまたどれぐらい化けるのか楽しみで仕方がない。
■リケーブルやスマホでの音楽再生能力もチェック
プレーヤーをXperia XZに変えてスマホによる音楽再生もチェックしてみた。MSR7と同様に、SR9も非常に感度が高く、スマホのボリュームをMAXにしなくてもかなり鳴らしやすいヘッドホンだ。微細な音まで芯から力強さを引き出す。