<山本敦のAV進化論 第116回>
【レビュー】オーディオテクニカの新ヘッドホン「ATH-SR9」をMSR7ユーザーの筆者が厳しくジャッジ!
アウトドアでも聴いてみたが、イヤーカップの大きさがMSR7よりもさらにゆったりとしたぶん、遮音性も高まったように感じる。外のノイズが飛び込んでくることなく、まさしくHi-Fi級の音楽リスニングがポータブル環境で贅沢に楽しめた。
リケーブルの効果も試してみたいと考えて、オーディオテクニカ純正の「HDC113A/1.2」も合わせて借りてみた。A2DCコネクターはジャックにつなぐと“カチッ”という音が鳴ってしっかりと固定される。コネクターをまっすぐ垂直に引っ張れば余分な力を込めずに外せる。端子が故障する心配も少なくて済みそうだ。
リケーブルのHDC113Aはイヤホン側のコネクタースリーブにローレット加工が施されているので、指にしっかりとグリップして着脱が一段とスムーズにできた。
6Nグレードの高純度な銅線を使い、シースは布製としてタッチノイズを軽減した。付属のケーブルに比べて、弱音の粒立ちがますます明快になる。
強いて言えばバランスが引き気味に感じられた低音は彫りが深まり、力強いエネルギーが引き出されて演奏の腰がどっしりと安定する。余分な音の響きが抑えられ、情報量の豊富なサウンドイメージの全域に正確なフォーカスが定まった。
想定売価は1万円前後、EARSUITシリーズのATH-ESW950、ATH-ES750にも使えることを考えればコスパの高いケーブルなので、SR9を手に入れたらぜひ一緒に揃えたい。
■買い増しを真剣に検討してみたい
上記ATH-SR9用の「HDC113A/1.2」だけでなく、ATH-MSR7用の純正リケーブルも発売されるという朗報が飛び込んできた。型番は「HDC1133/1.2」。3.5mm形状のステレオミニプラグ仕様なので、同じオーディオテクニカのSOILD BASSシリーズのATH-WS1100やスタンダードクラスの新ハイレゾヘッドホンであるATH-AR5にも使えるらしい。MSR7のユーザーとして大変興味深い製品なので、借りて試さない手はないだろう。
ケーブルの導線には純度の高い6N OFCを採用。撚り線構造によってノイズを下げている。MSR7に付属するケーブルよりもゲージが太く、布製シースの手触りもよい。端子のスリーブをアルミニウム製として制振性を高め、ローレット加工を付けてハンドリング時のグリップ感もよくしている。
愛用するMSR7につないでみると、中低音域の透明感が一段とアップしてビビッドな音色に生まれ変わる。ボーカルの輪郭はきめ細かさを増した。低域のビートにまとわりついていたような付帯音もすっきりと消えて、打ち込みのインパクトに鮮烈な印象を受ける。
元もとMSR7はクリアで粒立ちの良い高域に独特のキャラクターを持つヘッドホンだが、リケーブルに交換するとその強い存在感に負けないほど中低域の存在感が際立ち、全体にバランスの整った“スキのない”サウンドにアップグレードされる。これを手に入れたら筆者とMSR7の付き合いはまだまだ長くなりそうだ。
オーディオテクニカのサウンドチューニングと技術の集大成であるATH-SR9は、忠実な原音再生というコンセプトをベースに同社のエンジニアが真面目に作ってきたヘッドホンだ。MSR7と同じく、リケーブルによるカスタマイズも楽しみながら長く愛機として使い倒せる魅力もある。
今年もまた数多くのヘッドホン・イヤホンが発売されたが、SR9はきっとハイレゾに限らず、あらゆる音楽再生の基準として信頼を寄せることのできるヘッドホンになるだろう。筆者も買い増しを真剣に検討してみたいと思う。