好評な部分は継承し強みを向上
売れ筋モデルが更なる進化。エレコムのハイレゾ対応イヤホン「EHP-CH2010A/1010A」レビュー
まずはざっくりとお伝えすると、
「全体としてクリアで空間性も見えやすい」
「低音楽器を大柄かつ張りのある感触で際立たせる」
この二つが特に大きくわかりやすい特徴だ。
また、口径がやや小さめなCH1010Aも、低音楽器の描き方はタイトになるが、全体としての印象は共通。
試聴した曲の中で特に相性が良いと感じたひとつはRobert Glasper Experiment「Day To Day」。
アナログリズムマシン的な感触のバスドラムと、クラップにシックな音色とフレーズのベースがうねりを加えて、カッティングギターが細かな動きを乗せる。ソウル、ジャズ、ヒップホップ、ディスコ、エレクトリックなどをコンテンポラリー感覚でミックスしたような曲と演奏だ。
こちらのモデルはそのリズムマシンのバスドラムとぶっといベースのどちらをもどんと大柄に描き出してくれる。それでいて前述のように張りがあり、大きく鳴らしつつもぼんやりと広がる音にはしない。なので低音そのものの説得力と演奏のリズムが共に生きており、グルーヴが強く届いてくる。
クリアさや空間性という特徴も映える。先程この曲について「ソウル、ジャズ、ヒップホップ、ディスコ、エレクトリックなどをコンテンポラリー感覚でミックスしたような曲」と表現したが、それで言うならば「ソウル」っぽいスモーキーな雰囲気や「ディスコ」っぽいビンテージ感は薄められるが、「ヒップホップ」「エレクトリック」「コンテンポラリー」な部分の魅力が強く引き出される。オーディオライクな言葉で言えば「ハイファイ」だ。
例えばこの曲のボーカルには、PerfumeでおなじみのAuto-Tune系エフェクトのようなロボットボイス的な成分が重ねられているが、そのエフェクト成分の見え方がクリア。ボーカル本体となじんで一体化しすぎず、「エフェクトかけてますよ!」的な主張がクリアかつ無理なく届いてくる。
さて、このエフェクトは比較的近年からの技術と手法なので、これが感じやすくなることで曲の印象がよりコンテンポラリー寄りになっているような気もする。こういう細かな印象の積み重ねで全体の印象も現代的に感じるのだろう。
中高域ではギターのカッティングのぱきっと適度な硬質さがポイント。これも「枯れ」とか「いなたさ」とかの味わい方面ではなく、最新の録音らしいクリアさだ。
さて、低音がドンと出てくるタイプのイヤホンだと、ボーカル主体の曲でベースなどの低音楽器がボーカルをマスキングしてしまうのでは?と危惧を覚えたかもしれない。しかし相対性理論「夏至」など女性ボーカルのポップスもいくつか聴いたが、そこもおおよそ問題なかった。CH2010Aの低音の響きの重心はぐっと下に沈み込まされて置かれており、低音域の中でも主張する部分はボーカル帯域とあまりかぶらないのだ。これは大口径を生かした巧いチューニングといえる。
対してCH1010Aは、前述のようにCH2010Aと比べれば低域はタイトで、普通に良質な低音表現。なので特に中低域では余白がより大きく確保され、さらに見晴らしの良い印象だ。そういう傾倒の音が好みの方なら「価格帯的には下のこちらをあえて選ぶ!」のも十分にありだと思う。
一応、両モデル共通で苦手気味かなと感じた曲も挙げておこう。悠木碧さん「サンクチュアリ」は、悠木碧さんの声だけを多重録音しまくって空間配置にも凝りまくった作品。このイヤホンで聴くとバーチャルリアリティ的な空間性はとても楽しめる。しかし人の声としての生々しさ、有機感は薄れてしまう印象だ。
ペトロールズ「表現」は先の「Day To Day」とちょうど逆。ソウル感とかスモーキーな雰囲気が薄れてしまい、現代のシティポップス的になってしまう。
実際に聴く曲や好みに合う合わないは多少出るかとは思うが、しかしそれは、合うとき合う人にはより強い満足を与えてくれるサウンドということでもある。
定評あるモデルをブラッシュアップしつつ、「弱点は解消されたけど個性は弱まった」的な罠には陥らず、このシリーズならではのサウンドを進化させることに成功したモデルだ。この二代目の登場によって「EHP-CH」はシリーズとしての在り方を完全に確立したと言えるのではないだろうか。