<山本敦のAV進化論 第131回>
ASUSが生んだスマホの革命児、「ZenFone AR」で最先端のAR/VRコンテンツを体験
■ゲームだけじゃない、多彩な展開が期待できそうなTangoのARコンテンツ
今回はZenFone ARの試作機をお借りして、AR/VR系のコンテンツを中心に体験してみた。
「AR(拡張現実)」というキーワードを、昨年からヒットを続ける「Pokemon GO!」の登場によって知ったという方も少なくないと思う。目に見える現実世界の光景にコンピューターグラフィックスなどを重ね合わせて、人が知覚できる現実を「拡張」する技術がARだ。ZenFone ARは米グーグルが推進するAR技術のプラットフォーム「Tango」をいち早くサポートした。本体の背面パネルやパッケージの箱にTangoのロゴが刻まれている。
端末にインストールされている「Tango」アプリを起動すると、Google Playストアに公開されているTango対応アプリが一覧に並ぶ。ゲームやエンタテインメント系コンテンツはポケモンGOの感覚をイメージしてもらえばよく、例えばカメラで捉えた風景にサッカー選手のCG画像を重ねてボールをリフティングして遊ぶ「Chelsea Kicker」や、コミカルなCGキャラクターを静止画と一緒に取り込める「Holo」などが楽しい。
ゲームを遊ぶだけでなく、意外に実用性の高いアプリも見つかる。「Measure」はカメラでキャプチャーした現実世界のオブジェクトのサイズを計れる“モノサシ”アプリ。薄型テレビを置きたいラックのサイズ、ソファを置きたい部屋の空きスペースをざっくりと計りたいときなどにとても役に立つ。
似たような一例には(株)リビングスタイルが開発を進めるインテリア業界向けのルームコーディネートアプリ「RoomCo AR(ルムコエーアール)」などもある。カメラでキャプチャした現実の部屋空間に、実物大&実物のデザインを模したリアルな家具の3Dデータを配置すれば、買い物や部屋の模様替えがいっそう楽しくなる。
ARコンテンツを快適に楽しめるのは、ZenFone ARの背面に「ASUS TriCam System」と呼ばれる3種類のカメラを統合したユニットが搭載されているからだ。深度認識カメラとモーショントラッキングカメラ、そして23MPの高解像なメインカメラの3つを同時に使いながら、まるで人間の目で見ているかのように正確に空間情報を認識。被写体の動きも追跡する。
従来のAR技術ではカメラの映像にARのオブジェクトを重ねるために専用のマーカーを必要としたが、Tangoではカメラで取得した空間情報をベースにするため、マーカーなしでも手軽に、かつ高精度なARエンターテインメントを楽しめるのが大きな特徴だ。
■パッケージに組み立て式のビューワーを同梱。手軽にVRが楽しめる
サムスンのGalaxy SシリーズとGear VRのペア、またはiPhoneにGoogle Cardboardといった簡易なVRビューワーの組み合わせなど、スマホでVRコンテンツを楽しめる環境は既に身近にある。ZenFone ARの場合、グーグルが推進するVRプラットフォーム「Daydream」の要求スペックを満たしたスマホであることに大きな意味があるとASUSの阿部氏は説く。
ASUSではグーグルのDaydreamプラットフォームと足並みを揃え、ZenFone ARのVRまわりの使い勝手を洗練させてきた。ディスプレイの解像度、CPUの処理性能やGPUの描画速度・精度などDaydream対応を謳う端末には、グーグルが定めた厳しい基準をクリアする必要がある。その高いレベルに到達した「Daydream Ready」の端末だからこそ楽しめる上質なVR体験がある、と阿部氏は強調する。
北米ではグーグルが開発した専用VRビューワー「Daydream View」が発売されている。ビューワーに付属するモーションコントローラーをスマホにつなぐことで、Daydream対応のVRゲームなどのコンテンツがより軽快に楽しめるようになる。残念ながらDaydream Viewはまだ日本では発売されておらず、グーグルからのアナウンスもない。今回はDaydreamの真価を確かめることまではできなかったが、今夏にZenFone ARが国内で発売される頃には、Daydream Viewと一緒に楽しめるようになっていることを期待しよう。
一般的なVRコンテンツが手軽に楽しめるよう、ZenFone ARの商品パッケージには組み立て式のVRビューワーが同梱されている。こちらを組み立ててスマホを装着すると、例えば「dTV VR」アプリで配信されているVR映像や、そのほかGoogle PlayストアからダウンロードできるVRゲームを遊ぶことができた。
同じコンテンツをiPhone 7とハコスコの組み合わせで視聴してみたが、ZenFone ARにはWQHD(2,560×1,440)の高精細な有機ELディスプレイが採用されているので、より色鮮やかで奥行き感にも富むVR映像を味わえた。
■ハイレゾにも力を入れるZenFone
ZenFone ARはイヤホン端子からのハイレゾ出力に対応するスマホだ。さらに本体には純正のハイレゾ対応イヤホン「ZenEar S」が付属している。ASUSの現行スマホの中では、「ZenFone 3 Ultra」と「ZenFone 3 Deluxe」の2機種もハイレゾ対応の純正イヤホンが付属する。
ZenFone ARと付属のイヤホン、ZenEar Sで聴くサウンドは中高域のトーンが明るく、低域はエネルギーの力強い押し出しが感じられる。ビートは厚めに輪郭線もややボールドに描く傾向だが、生命力にあふれるロックやポップス、ダンスミュージックの楽曲は聴き応えがある。中高域の余韻は濃度が高く、クラシックやジャズの生楽器は音色がビビッドに反映される。芯が強くて暖かみのあるボーカルもこの組み合わせの持ち味だ。
Teng氏によると、ASUSには“ゴールデンイヤー”と呼ばれる同社製品の音響チューニングを専門に担当するスペシャリストがいるのだという。本機の内蔵スピーカーもマグネットを強化して豊かな音圧が得られるようゴールデンイヤーが作り込んだものという。VODコンテンツを再生してみたところ、確かに力強さを感じるサウンドだ。本体の下側だけにモノラルスピーカーを搭載する仕様なので、これがステレオ対応になればなお嬉しい。
カメラをハンドリングした手応えについても簡単に触れておこう。メインカメラのユニットにはソニー製の23MP高画質Exmor RS CMOSセンサーを内蔵する。オリジナルの画質エンジン「PixelMaster 3.0」による画づくりは、iPhone 7で撮影した静止画に並べて比べると色あいがナチュラルで、細部の解像感に富んでいる。
像面位相差AFにコントラストAF、そして赤外線によるレーザーAFを組み合わせて約0.03秒で合焦する「TriTechオートフォーカス」により、動く被写体に向けたフォーカスを鋭く正確につかまえる。光学式と電子式を組み合わせたハイブリッド方式の手ブレ補正も強力だ。
動画撮影も4K対応のほかスローモーション、タイムラプスなどのトリック撮影機能を満載。他社のフラグシップスマホに勝るとも劣らないほど充実した機能へ、スムーズにアクセスできるユーザーインターフェースの出来映えも非常に洗練されていると思う。
ASUSの阿部氏は、これだけのイノベーションを、通常のスマホと変わらないほどスリムな筐体に詰め込んだことがZenFone ARの最も革新的な部分と説明。これには素直にうなずける。本機はコンシューマーに新たなモバイル体験をもたらすだけでなく、BtoB向けにもAR/VRを核とした新たな可能性を切り拓けるスマホであると、Teng氏と阿部氏は口を揃える。
ASUSが今年1月のCESでZenFone ARを発表した後から、エンターテインメントや不動産などの業界から多くの引き合いがあるようだ。グーグルもアプリ開発者向けにTangoのSDKを公開しており、今後も様々なアイデアを盛り込んだアプリやコンテンツが増えてくることが期待できるだろう。忘れずにチェックしておきたいスマホだ。
(山本 敦)
*取材に用いた製品はエンジニアリングサンプルのため、実際に日本で発売する製品と仕様が異なる可能性があります