「AirPlay 2」や「HEIF」など対応
【解説】iPhoneのAV機能は「iOS 11」でこう変わる
■「AirPlay 2」で音楽再生は変わる?
最初に、現行のAirPlayについてかんたんにまとめておきたい。AirPlayの仕様と現状を把握しないかぎり、AirPlay 2という後続規格が登場した背景は理解できないからだ。
AirPlayは、音声専用の「AirTunes」を拡張した動画/音声ストリーミング再生規格。2004年に発売された小型Wi-Fiベースステーション「AirMac Express」(海外ではAirPort Express)で初登場したときは音声専用だったが、iOS 4.2が対応するタイミングで動画に対応、名称も「AirPlay」へと変更された。
ただし、AirPlayではAirTunesとの後方互換性が維持されている。サンプリングレートは最大44.1kHz(Apple TVは48kHz)/ビット深度は最大16bit、対応するコーデックはPCMとApple Lossless、AAC、AAC ELD(AACの低遅延版)の4種で、これまで仕様変更は行われていない。2004年に初代AirMac Expressが発売されたときは、ロスレス再生が可能なワイヤレスのHi-Fi再生系ということで注目を集めたが、その後Bluetooth/A2DPの普及もあり、かつての勢いは失われていると言っていい。
今回のWWDCで発表された「AirPlay 2」は、そのAirPlay規格のうちオーディオ部分、つまりAirTunes由来の部分に若干の拡張をくわえたもの。同時に複数のデバイスへオーディオストリームを出力できる「マルチルームストリーミング」の対応が目玉で、サポートするコーデックの追加やサンプリング周波数/ビット深度の拡張は行われていないようだ(本稿執筆時点ではAirPlay 2の開発資料が公開されていないため、そこまでの情報がないというのが本当のところだ)。
AirPlayはプロプライエタリな技術であり、ソースコードを読み解くという手法は使えないが、AirPlay対応機器を扱うメーカーが発信する情報をチェックすると、いくつかの事実が浮かび上がってくる。たとえば、BOSEのFacebookページには、ほとんどの(AirPlay対応)Wi-FiシステムがソフトウェアアップデートでAirPlay 2に対応する、という意味のコメントが書き込まれている。
そこからは、既存のAirPlay用モジュールの性能でもじゅうぶんAirPlay 2に対応できる、という大意を読み取ることができる。AirPlay 2はAirTunes以来の仕様を拡張した規格で、RTSPによる通信など基礎設計に大きな変更はなく、現在水準以上の負荷を要求することもないのだろう。サンプリング周波数/ビット深度が44.1kHz/16bit据え置きかどうかは現時点で不明だが、MusicKitの提供など"Apple Music推し"の姿勢に変化のない様子からすると、ハイレゾ対応はないものと考えてよさそうだ。
ただし、今後iOSおよびmacOSでは、オーディオ信号の再生経路を「Long-form Audio」と「System Audio」の2系統に峻別する仕組みを採用する。従来は、音楽再生中に着信があると音楽再生アプリに割り込む形で電話アプリに再生経路を切り替えていたが、iOS 11およびmacOS High Sierraからは同時に鳴らすことが可能になる。もちろん、AirPlay 2はLong-form Audio対応だ。電話の着信や通知があっても音楽再生が途切れない、というよく考えてみれば当たり前の機能がついに実現されるという点で、AirPlay 2は多くのユーザにとってメリットなのだ。