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“逆転の発想”で生まれた伸びやかなサウンド

オンキヨー「TX-RZ820」を聴く ー 余裕ある設計が実現した“音質ファースト”のAVアンプ

公開日 2017/06/16 10:00 大橋伸太郎
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余裕ある設計で音をのびのびと開放する

30cmの大口径ドライバーを使用するスピーカーシステムを悠々ドライブできるか。それを確かめるべく、試聴にはオンキヨーの「D-77NE」をフロントL/Rに用いた。1985年に初代が発売、以来世代交代しながらロングセラーを続ける3ウェイ・ブックシェルフの本格派だ。AVアンプの試聴に使われる機会は余りない製品だが、エンドユーザーの使用実態では十分に考えられる組み合わせだ。センタースピーカー、サラウンド/サラウンドバック、サブウーファーにはMONITOR AUDIOのSilverシリーズを用いた。

フロントスピーカーにはオンキヨー「D-77NE」を組み合わせて、駆動力をチェックした

AVアンプは設計上デジタル入力を重視し、アナログ入力に弱点を露呈することがしばしば。SACDアナログ入力でお手並み拝見といこう。プレーヤーにはアキュフェーズ「DP-560」を使用した。

キップ・ハンラハンの『ニューヨークラテン』は期待を上回る再生。ウーファーの制動が的確でエレキベースラインが野太くローエンドまで伸び、一方響きが膨張しない。金属性の音の芯が音圧で感じられる。ベーシストがセンターにどっしり定位する。

多彩なパーカッションが空間に奥深く散開し、空間が広いだけでなく密度感の高い音場だ。一音一音の輪郭が鈍らず、楽器群の質感のバラエティが豊か。ボーカルが抑揚に富みしっかり前に出て聴き手に近い。

一方、田部京子の弾くベートーヴェンは、明るく鮮鋭に過ぎ陰影感があと一歩。オンキヨー純正組み合わせゆえ同社の明るい音のキャラクターが掛け算になり、演奏と録音のニュアンスとややミスマッチなきらいもあった。しかし同じピアノ曲でも、高橋アキのエリック・サティは逆にそれがフランス近代曲らしい響きの明晰さを生み心地よい。

ピアノの倍音の放射が伸びやかで、楽音が量感豊かだ。ファツィオーリのエネルギーと高スピードの響きの特徴がよく再現される。セールストーク通りにウーファーをよくコントロールし、引き締まったタイトな低音なので、左手の低音の音符の長さが正確。ワルツのリズムにキレがある。


映像はセリフを鮮度よく再生。低音の量感はこの価格帯では出色

次に映像音響を再生してみよう。国民的ヒット映画『シン・ゴジラ』。やや変則的な3.1chの本作は、ダイレクト再生した場合センターチャンネルの比重が大きく、反面セリフの帯域はナロウ。本機のセンターチャンネルは再生能力に余裕があり、第一に解像力が高く情報量の引き出しも多い。本作の帯域の狭さを改善して、セリフに鮮度とダイレクト感が生まれる。力と量感があり、日本人俳優の声音の差を鮮明に描き出し、疑似イベントSF映画の現実的な緊迫感を高める。

セリフの響きをLRにこぼしているシーンも多く、持ち前のスピーカー駆動力を活かし高密度で立体的なフロント音場が生まれる。DTS Neural Xでモアチャンネル化しなくても十分な立体感がある。パワーハンドリング、つまり鳴りっぷりのよさはチャプター13で初めて伊福部メロディ(「ゴジラの脅威」)が高鳴ると際立つ。オケサウンドに深い奥行きと重厚荘重な響きが生まれ、SEの低音効果と掛け算になって一気に開花、映画の熱量をぐんぐん高めて行く。

試聴では「TX-RZ820」の余裕ある駆動力、解像力をはじめとする優れた再現性を改めて実感させられた

96kHz/24bitサラウンド音声の定番ソフト『Short Pieces』から「九十九」。本作は工夫が凝らされたSEのサウンドワークが聴き物だが、使用する音のエレメントが多いだけでなく一音ごとに音の実体感がある。

冒頭の雷鳴のローエンドまでカバーし、視聴室の空気を切り裂く量感はこの価格にして出色。ここでもウーファーのハンドリングとトランジェントのよさを発揮、シンセで合成の低音は立ち上がり立ち下がりが早く、野太い量感と膨満しない切れのよさの両立が心地良い。

篠突く雨音が聴き手を包囲するシーンはざらざらした歪みがなく、現実音を彷彿させるきめ細やかな響きだ。途中でデッドな室内劇になるが、主人公のセリフの響きが籠もらず力と抑揚、息づかいに富む。デジタルエコーの再現性も美しく怪異譚らしい幻想味。不気味な暗騒音が終始遠巻きに鳴っているが遠近感が的確。魑魅魍魎が360度パンするシーンも動線に切れ目がなく、高い位置に安定し天衣無縫に飛翔する。


中間価格帯に出現した新基軸のアンプ

最後にデジタルファイル再生を試みると、ファイルのニュアンスを積極的に引き出す。明るく鮮鋭だが色付きがなく、過不足ない量感。CDでの鮮鋭な再現性に共通するがよりダイレクトで、スタジオでプレイバックリファレンスを聴くような演出・化粧っ気のない生々しさだ。

ノラ・ジョーンズ『デイ・ブレイクス』のバックのパーカッションの切れ味、量感やアコースティックベースの唸りが印象的だ。ファイル再生の音質も価格を超え、現時点でのAVアンプ中トップクラスといえる。



とにかく力のあるアンプだ。大柄な筐体は見かけ倒しではない。多チャンネル化ばかりが能でないことの証明。パワーアンプの台数を増やせば電源部の負荷が大きくなり歪みの原因になり、帯域と分解能も頭打ちになり籠もったキレのない音になりやすいが、本機は余裕ある設計で音をのびのびと開放し、密度を高めることを狙った。つまり逆転の発想。中間価格帯に出現した新基軸のアンプといっていい。

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