コンデンサー型ヘッドフォンのポテンシャルを現代最高レベルにまで引き上げる
コンデンサーヘッドフォンに新たな「エナジー」を。iFIオーディオ「Pro iESL」レビュー
■たとえ旧モデルであっても驚くほどのリアリティ
試聴にあたってPro iCANとPro iESLを接続。ソースにRME「ADI‐2 Pro Anniversary Edition」、コンデンサー型ヘッドフォンにキングサウンド「KS‐H3」を用意し、Pro iESLの実力をチェックしてみた。
KS‐H3は以前、純正ドライバーアンプとの組み合わせで聴いたことがあったが、その時のサウンドとは別物のリアルなテイストとなった。音像は適度な厚みとしなやかさを持ち、管弦楽器はハリ良く爽やかに展開。余韻は豊潤でふくよかな響きに満ちている。ヴォーカルは滑らかでボトム感もしっかりと感じ取れた。KS‐H3は比較的リリース音を残して残響感を豊かに感じさせる傾向であり、コンデンサー型の中でもウォームな音色を持っている。その基本的な音色を維持しつつ、音像のフォーカス感がキレ良く推移している印象だ。
さまざまなバイアス電圧に対応しているのがPro iESLの特色であるので、ここでヴィンテージなコンデンサー型ヘッドフォンも聴いてみることにした。用意したのは金メッキ銅メッシュ電極が特徴のスタックス「SR‐Ω」だ。
こちらも現行の純正ドライバーアンプと組み合わせて聴いたことがあったものの、Pro iESLで聴くサウンドは端正でありながらもシャープでキレ良く制動性の高さも兼ね備えた万能なものになった。11.2MHz音源では柔らかく爽やかなヴォーカルの自然な質感をリアルにトレース。ピアノのアタックもクリアで、アコギの弦も艶良く上品にまとめてくれる。ロック系の音源でもリズム隊は高密度で締まりよくまとめ、シンセやホーンセクションは潤い良くしなやか。オーケストラの響きも華やかできめが細かい。奥行き感も適度に感じられ、小編成のジャズなど、音像の際立ち方は立体感を伴ったナチュラルなものであった。
最後にPro iESLとプリメインアンプを繋ぎ、より高い駆動力でドライブできる環境での試聴も行ってみた。用意したプリメインアンプはアキュフェーズ「E‐270」。ヘッドフォンはそのままSR‐Ωを使うことにした。
まず驚いたのがより引き締まった音像感と、付帯感なく透明度の高い音場のS/Nの良さだ。ヴォーカルの口元も潤い良く緻密で生々しい。肉づきも良く高密度で、引き締め効果も高いが、音離れ良くしなやかに音像をまとめ上げ、全体的に上質で品の良いものとしている。コンデンサー型ならではのアタック&リリースの速さ、微小なレベルでの再現性の高さは申し分なく、そのリアルさは旧モデルであることを感じさせないくらいだ。とはいえ解像度重視の最新モデルに対し、SR‐Ωが持つ適度な倍音の豊かさも尊重した、華やかで艶やかな潤いに満ちたサウンドといえるだろう。
スタックスの組み合わせでは純正ドライバーアンプのサウンドも見事なものであったが、Pro iESLを使うことでヴィンテージ製品も負担なく駆動できるだけでなく、持てるポテンシャルを現代レベルまで引き出してくれる。これまで聴き込んだコンデンサー型ヘッドフォンも本機を通すことで、これまで気づかなかった新たな魅力にたどり着けるかもしれない。
(岩井 喬)
●入力端子:ESL-link ×1,バランスド・イン(4Pin XLR)×1、スピーカー・イン(Y ラグ/バナナ)× 1●出力端子:ノーマルバイアス(6ピン)× 1、カスタム/プロ(5ピン)× 1、ダイナミック(4ピン)× 1●最大出力電圧:640V RMS(16Ω /20V)、320V RME(64Ω /20V)●周波数特性:5Hz〜50kHz(− 3dB)●入力電圧:5〜9V/1A(最大)●消費電力:1W以下●サイズ:206W × 63.3H × 213Dmm ●質量:2.5kg ●取り扱い:ENZO j-Fi LLC.、(有)トップウイング
※本記事は「季刊・Net Audio vol.27 AUTUMN」所収記事を転載したものです。本誌の詳細および購入はこちらから。