電子ピアノ開発で培った技術を投入
【レビュー】オンキヨー「A-9150」 ー レコード再生もハイレゾもカバーする最新プリメイン
■一音一音の立ち上がりを忠実に描写。低音のスケール感にも不足がない
NS-6130はネットワークとUSBでDSD 11.2MHzまで対応し、A-9150よりも対応するデジタル信号の幅が広い。ハイレゾ音源の再生はネットワークプレーヤーに任せ、アンプにアナログまたはデジタルで伝送するという方法が一番のお薦めだ。
まずデジタル入力でジャズのライヴ音源(PCM192Hz/24bit)を聴くと、ヴィブラフォンやシンバルなどパーカッションの高域の質感が高く、他の楽器に埋もれずリズムのアクセントを正確に刻んで演奏の推進力を支える。エッジを立てて高域のメリハリを引き出すのではなく、一音一音の立ち上がりを忠実に描写することで、それぞれの楽器本来の音を再現していることがポイントだ。ベースやピアノの低音もアタックが遅れず、打楽器と同時に音が立ち上がるため、あまり音量を上げなくても十分な音圧感が得られるメリットもある。
ブランデンブルク協奏曲の第3番では高弦から低弦まですべての弦楽器の動きが精密に揃って、各声部の関係が正確に浮かび上がる。フレーズのなかでの強弱の対比も鮮明だし、リズムを刻むチェンバロも音量は控えめだが耳を澄ませばつねに音形が浮かび上がり、和音を下から支える低音パートの役割を確実に演じている。その低音部の支えが聴いているのか、アンサンブル全体の重心は低めの音域にあり、重量級の安定した響きを引き出すことができた。小音量で聴くときはバスブースト機能を活用するのもいいが、通常の音量で再生するならトーンコントロール回路もパスするダイレクトモードでアンプ本来の性能を活かすことをお薦めする。その場合でも低音のスケール感に不足を感じることはないはずだ。
接続をアナログに変えてDSD音源を再生する。エクストンレーベルのDSD 5.6MHz音源からホルン協奏曲をNS-6130とA-9150の組み合わせで再生すると、深々としたサウンドステージが展開し、スピーカーの位置からかなり下がった後方にホルンの音像が浮かんで、そこから余韻が部屋全体に大きく広がっていく。試聴室はそれほど広い部屋ではなく、壁とスピーカーの距離もかなり近めなのだが、ステレオ音場の広がりはその空間よりもずっと広く感じるし、天井の高さが上がったような錯覚に陥る。優れたDSD録音は空間の広さを引き出すポテンシャルが高いが、その空間情報をプレーヤーやアンプが忠実に再現することが肝心。NS-6130とA-9150のペアはそこを確実に押さえている。
■アナログならではの質感や音色を豊かに引き出すレコード再生
次にアナログレコードプレーヤーCP-1050をA-9150につなぎ、レコードを再生する。A-9150のフォノイコライザーアンプはMM型だけでなくMC型カートリッジにも対応しており、前面パネルの専用ボタンを長押しすることで両者を切り替えることができる。今回はCP-1050付属のMM型カートリッジで再生したが、ユニバーサル型のトーンアームを採用しているため、カートリッジを好みの機種に交換する楽しみもある。
ジェニファー・ウォーンズのヴォーカルは潤いをたたえた声の質感が耳に心地よく、CDではなかなか聴けない柔らかさに引き込まれる。一方、ギターやパーカッションはアタックがクリアで音色がなまらず、意外なほどのダイレクト感がある。刺激的な高音が飛び出すことはないが、一音一音の粒立ちが良く、フォーカスがぴたりと合った感触が伝わる。声の柔らかさとは対照的だが、そのバランスはカートリッジを変えるとまた違ってくるので、レコードによってカートリッジを使い分けると面白いと思う。
ケルテス指揮・ウィーンフィル演奏のドヴォルザーク「新世界」は、細部まで研ぎ澄まされた音が積極的に前に出て、音にそなわる緊張感で他の演奏との違いを際立たせる。1音1音の発音がクリアで、特に高弦と金管楽器は艷やかで音の浸透力が強い。デジタル化してリマスタリングすれば耳あたりの良い音に生まれ変わるとはいえ、当時の空気感や緊張感を味わうには、レーベルの製作陣が当時想定した最終メディアであるLPレコードを選びたい。ノスタルジーでレコードを聴くスタイルも否定しないが、やはり音そのものの魅力を引き出すためにあえてレコード再生にこだわるというのが本筋だろう。そんな聴き方を想定してレコード再生に挑戦するなら、カートリッジがピックアップした音をできるだけ忠実に増幅するアンプを選ぶべきだ。
ハイレゾ音源の再生ではトランジェントの良さや音色の忠実な再現力を示したA-9150は、レコード再生でも音源ごとの特徴的なサウンドをダイレクトに引き出した。音源によってあえてメディアを選んで聴く楽しみを追求する音楽ファンにお薦めしたいアンプである。
(山之内正)