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山本敦氏がドイツ・ウルトラゾーン本社からレポート!

オープンエアー型ヘッドホンの頂点。ULTRASONE「Edition15」の開発現場に潜入した

公開日 2017/11/24 10:00 山本敦
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■「S-Logic EX」を搭載。開発資産を惜しみなく投入

ぱっと見のデザインはやはりEdition 5によく似ているが、ハウジングの表側に開けられた無数の小さい孔が独特の雰囲気を醸し出している。バッファボードを深くえぐって、ドライバーを立体的な角度に配置する「S-Logic EX」も受け継がれているが、イヤーカップは想像以上にコンパクトでスリムだ。開放型ヘッドホンながら、ポータブルリスニングにも使いたくなってくる。

Edition 5 Unlimited(左)とEdition 8EX(右)とイヤーカップを並べたところ。イヤーカップとアームのデザインを反復させたり、細かなところにプレミアムブランドならではのこだわりが反映されている

ドライバー由来の電磁波から人の耳を護るためのシールド技術「ULE」はもちろん、コネクト性能が高く壊れにくいと好評の着脱式LEMOコネクタなど、これまでの開発資産も惜しみなく投入している。


▶▶自然なリスニングを生む「S-Logic」とは?

「S-Logic」はヘッドホンでより自然なリスニング感を実現するためにウルトラゾーンが開発した独自技術だ。“外耳の反響”を利用することで、まるでスピーカーリスニングのように自然な定位感が得られる。最新バージョンの「S-Logic EX」はバッファボードをさらに深くえぐるように成形して、ドライバーを立体方向に角度を付けて置くことで、振動板と耳との距離を最適化。いっそう立体的で臨場あふれる見晴らしのよいサウンドを実現している。



S-Logic EXを開放型ヘッドホンに用いたモデルは本機が初めて。バッファボードやULEのメタルプレートなどパーツに変更は加えていないが、全体的なサウンドチューニングには時間をかけてチャレンジしてきたという


音質だけでなく、マテリアルから装着性まで全てを「最高クラス」に

ところで、なぜ、いまオープンエアー型をつくったのだろうか。インタビューの冒頭に一番ベーシックな質問をジルケル氏にぶつけてみた。

「いまオープンエアー型ヘッドホンがブームになりつつあることはご存知かと思いますが、私たちは今から2〜3年前、既にウルトラゾーンらしい“ホンモノの開放型ヘッドホン"をつくることを決めていたんです」。

音質だけでなくマテリアルの選定、装着性などすべての面で「最高クラス」と胸を張っていえるEditionをつくりたいという想いが、ウルトラゾーンのすべてのスタッフから自然に沸き起こったのだという。

測定器で完成したヘッドホンを1台ずつチェックしていく

パッケージングも専任のスタッフが丁寧に手作業で行う

最初に取りかかったことは、Editionらしく、それでいて現代のトレンドにマッチした開放型ヘッドホンのサウンドイメージを固めることだった。オープンエアーの魅力といえば「シルキーで艶やかな高域」「開放的な音場感」「明瞭なミドルレンジ」などがすぐに思い浮かぶが、「パンチ力のある中低域」を再現することも、ジルケル氏たちは新しい開放型の理想に求めた。

新しいドライバーを開発するために、カット&トライを繰り返す日々は続いた。そして完成したのが先述のチタンとゴールドをコンビにした振動板だった。

「今回はプレートをかける金属素材にチタンとゴールドのどちらを使うか、最終コーナーまで悩み抜きました。あるとき、“ふたつのコンビネーションでもよいのでは"というアイデアに辿り着いて、実際に試してみたところ、これが私たちが理想としていたEdition 15の音だったんです! 解像度に過渡特性の高いチタンと、高域の艶と滑らかさに富むゴールド、ふたつの素材のいいとこ取りができました」。

こんなに誇らしげなジルケル氏の表情は今までに見たことがない。その自慢の振動板を、強力な磁力を持つマグネットで力強く正確に動かすという。

本革張りの専用ケース。革の色味をヘッドバンド、イヤーパッドに合わせ込んでいる。ケースの裏地は滑りにくいようにスウェード加工されている

空気に呑み込まれてしまうようなリアリティの再現を狙った

では、どんな音がするのか? 実は、残念ながら筆者が訪問した際にはまだ仕様が最終決定ではなかったので、プロトタイプの音を聴くことができなかった。大いに気になる所だろうが、ご容赦いただきたい。

取材時点ではプロトタイプだったEdition15のサウンドについて、アンドレアス・ファイティンガー氏がコメントを寄せてくれた

その代わりにジルケル氏とウルトラゾーンのヘッドホン全機種の音響設計を担当するエンジニアのアンドレアス・ファイティンガー氏に、音のチューニング完成後にメールインタビューで寄せてもらったコメントをご紹介しよう。

「極上のオープンエアー型ヘッドホンに求めたサウンドは、コンサートホールやライブ会場の空気に呑み込まれてしまうようなリアリティ。広大な音場再現についてはS-Logic EXがよい効果をもたらしてくれると思うし、新開発の振動板とあいまって透明でエレガントでありながら、パンチの効いた音も再現できる。ここには絶対の自信を持っています。どんな音楽にもぴたりと合う“カメレオン"のようなヘッドホンになってほしいですね」と、ジルケル氏。

「Edition 15のチューニングは低域から中高域まで、徹底してバランスを整えました。つくった私も驚くほど奥行きが深く、広がりが豊かなサウンドに仕上がっています。どんなタイプの音楽も心地よく聴けるオールラウンダーが完成しました」と、ファイティンガー氏。完成度にますます期待が高まる。

■クラフツマンシップが息づくドイツらしい丁寧なものづくり

なお今回の取材では、ウルトラゾーンと“古いご近所付き合い"になるという木工製作所を訪問して、Edition 15のハウジングを製作する現場も見学させていただいた。Edition 5の“埋もれ木"を使ったハウジングの製作にも関わっている同所は、以前本誌でもご紹介したことがある。ふだんはカスタムメイドの高級家具を中心に製造・販売しているバイエルンでも名うての工房だ。

木工製作所はウルトラゾーンの本社から車で45分ほどのところにある。巨大な切削機械でアメリカンチェリーウッドの板材からハウジングのパーツを象っていく

CADでつくったデザインデータを切削機械に読み込む

工場の大型木工切削マシンが板材から精密にハウジングの型を抜き、マイスターのミヒャエル・ハルム氏がひとつずつ丁寧にヤスリで磨き、ワックスを塗って艶を与えていく。その手際のよさを目の当たりにした筆者はただ息を呑んで見とれていた。

色んな種類のドリルを自動的に付け替えながら、裏側・表側の形を正確に彫っていく。裏表の削り出しが終了。ウッド部は表側が緩やかにカーブしている

天然有機素材のワックスを数回に分けて塗って木材に艶を与えていく。細かなくぼみの所などは専用の筆を使ってまんべんなくワックスを塗る。2度ほど塗りを繰り返すと木目が鮮やかに引き立ってくる


メタルのフェイスプレート。ウッドのパーツにはめ込むとこのような感じになる

Edition 15のハウジングに使われているウッドパーツの製作を手がけるミヒャエル・ハルム氏

丹精込めてつくられたハウジングなどのパーツは本社に集められた後、ウルトラゾーンの小野寺容子氏が率いる組み立てチームが1台ずつ丁寧にヘッドホンのかたちにしていく。この1〜2年で組み立てに関わるスタッフの数も増えたが、モデル単位で工程をひとつずつ丁寧にマニュアル化したことで、生産の品質を落とさずに規模を拡大できたのだと小野寺氏が説く。

「本社外部のパートナーも含む皆のチームワークがあるからこそ、ウルトラゾーンが世界に誇るハイエンドヘッドホンをつくることができる。これこそが私たち一番の誇りです」とジルケル氏も胸を張る。

組み立て作業を行う工場もどんどん拡張されて広くなった。一つひとつのパーツが丁寧に組み上げられてヘッドホンの形を成していく

アセンブリ(組み立て)の現場でチーフとして活躍する小野寺容子氏。ウルトラゾーンの製品に日本のこだわりを吹き込むキーパーソン

今回のインタビューの中で、ジルケル氏は「日本にいるファンの皆様がEditionを育ててくれた」と感謝の言葉を繰り返し述べていた。Edition 15を開発するにあたっては「もう一度“クオリティ"という原点にハイエンドヘッドホンの価値を取り戻すこと」もひとつの大きなテーマだったとジルケル氏が振り返る。

本機も決して安くはない製品だが、ウルトラゾーンがその音質からマテリアルの選択、そしてすべての細かなディテールまでこだわり抜いたヘッドホンであることを知ると、驚くほどのバリュープライスであることや、限定モデルにならざるを得ない意味が自ずと見えてくる。Edition 15を起点に、これからジルケル氏の舵取りでますます波に乗るウルトラゾーンに大きな期待を寄せたいと思う。

(山本敦)

本記事は2017年11月7日発売『プレミアムヘッドホンガイドマガジン Vol.9』からの転載です。

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