音質傾向をチェック
<レビュー>JVC「EX-S55」を聴く ー ハイレゾ再生にも対応した“ウッドコーン”最新入門機
東京スカパラダイスオーケストラのアルバム『Paradise has NO BORDER』から「Believer」の演奏は広々としてスケールが大きい。楽器の音色が鮮やかで密度も濃く、実在感がとても生々しい。トランペットの透明な高音が気持ちよく突き抜ける。サキソフォンのふくよかさが自然に描けるところにもウッドコーンらしさを感じる。
リズムセクションの低いビートは安定感が高くタイトに引き締まっている。鋭いアタックの立ち上がりと立ち下がりのスピード感を持ちながら、音が痩せて聴こえることはない。エントリークラスのコンポーネントでありながらソースの持つ情報をバランスよく、余さずに引き出している。
小泉今日子のベストアルバムから「艶姿ナミダ娘」では、エネルギッシュなボーカルの音像を立体的に定位させる。S/Nがよく、細かなニュアンスの再現力も高い。ハイトーンの抜け味が爽やかでキツさが感じられない。音楽に集中できるし、いつまでも聴いていたくなる。
シンセサイザーのハーモニーは余韻の階調性がきめ細かく起伏の再現性にも富む。エレキベースの切れ味鋭いリズムが落ち着いた爽やかな余韻を残していく。わが家のリスニングルームがボーカリストの立つステージにそのままつながっているようなリアリティには、思わず心が躍る。
CD再生もパット・メセニーのアルバム「ONE QUIET NIGHT」から『Last Train Home』をチェックした。広がる静寂の中に甘く濃厚なバリトンギターのメロディが足跡を残していく。情熱的でありながらどこか物悲しさを滲ませる音楽に、ギタリストのプライベートな表情が垣間みえる。ウッドコーンオーディオならではのオーガニックなサウンドが、作品に込められたアーティストの思いまで忠実に描いてみせた。
低音増強機能である「HBS(ハイパー・ベース・サウンド)」をオンにすると音の芯が太さを増して、迫力も肉付けされた。特にアコースティック楽器による演奏が深みを増してくる、とても相性の良い機能だと思う。
ビクターの時代から理想としてきたJVCの原音探求の音づくりは、高いパフォーマンスを備えるエントリーモデルにも息づいている。ハイレゾからCDまで幅広い音楽ソースを手軽にいい音で楽しみたい方、あるいはウッドコーンオーディオのセカンドシステムを探している方にもぜひ本機をおすすめしたい。
(山本敦)