[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第203回】田村ゆかりさん誕生日ライブ直前企画!ゆかりん楽曲の魅力を引き出す “5,000+円” イヤホン
例えば最初のサビの手前、
「触れてほしいからわかってね」
この「触れてほしいから」と「わかってね」の間をしっかり聴き込むと、そのほんの一瞬に素早い息継ぎが行われていることがわかるだろう。
この息継ぎ。もちろんメロディの流れから自然とこの位置での息継ぎとなっている面もあるだろうが、同時にこの歌のこの部分に、
「触れてほしいから……
(一瞬の躊躇から思い切って)わかってね!」
のようなニュアンスを付加する表現にもなっている……ように僕には思える。そのブレスが届きにくいイヤホンでは、そのニュアンスが薄れて、もっとさらっと「触れてほしいからわかってね」と流れて聴こえてきてしまうわけだ。
それは考えすぎだろう、音楽を感じるのにそんな理屈や分析は必要ないだろうと思うかもしれない。それはその通りだ。そんなことを意識して考えなくともその音が届いていれば、聴き手の理屈ではなく感覚に伝わる。
しかし、だからこそ、「その音が届いていれば」という前提を満たすための良いイヤホンが必要になる。そして良いイヤホンを聴き分けて選ぶためには、何となくではなくしっかりと「その音」を意識して聴く方がわかりやすい。そんな感じで理解していただければと思う。
一方、中低域の落ち着いたどっしり感は、この曲のバンドサウンド部分の魅力を特に引き出してくれて、例えばベースとドラムスによるリズムの低重心のドライブ感が際立つ。それでいてこのイヤホンの低音は、ゴツゴツ系ではなくしなやかな感触なので、ロック的なハードさを出し過ぎることもない。“バンドの良さ”と“ゆかりんらしさ”をどちらも損なわない、我々にとっては実に都合の良い低音表現だ。
なお、こちらSPARKは今回ピックアップした製品の中でも、様々な要素のバランスという意味では最優秀。この曲に限らずどの曲にも十分にフィットしてくれる。
■final「E3000」で『Lost Sequence』の情感とハーモニーに浸る…
文化放送「田村ゆかりの乙女心症候群」エンディングテーマ。こういったバラードやミドルテンポの曲の方にこそ「これぞゆかりん」を感じるファンの方も多いことだろう。その情感溢れる歌、そしてアレンジは、ライブでも会場の空気を一変させる。サウンドとしてはピアノとベース、リズムマシンをベーシックに、様々なシンセサウンドで広がりや揺らめきを演出しているといった印象。
ベースはかなりぐっと沈み込んだ音域と音色で、その沈みによって曲全体の情感にさらなる重みを与えている。リズムマシンによるドラムスパートも、例えば冒頭のハイハットシンバルの細かなリズムワークなど、緻密なプログラミングで曲を繊細に彩っている。それらをしっかり感じ取るためイヤホン側にも、低域の充実、全帯域の精密な再現性などは求めたい。
……のだが。他のゆかりん楽曲もそうであるがそれ以上に、ゆかりんバラードの主役は問答無用にゆかりさん。ここはゆかりさんの歌との相性一点勝負でこのモデルをセレクトさせていただく。
E3000は声のしっとり感が格別に素晴らしい。『Hello Again』でセレクトしたFocal「SPARK」も豊かな湿度感を備えているが、それをさらに上回る好感触だ。故にゆかりさんの歌声、特にバラードでのそれとの相性は抜群!
音の抑揚、さらには音と音の繋がりや重なりの滑らかさもこのイヤホンの強み。次の音へとパッと切り替わるのではなく、全ての音がスゥーっとつながっていく、そんなイメージの歌や曲、そういうイメージで聴きたいリスナーの方には特にオススメしたい。この曲は正にそれ!
そしてゆかりさんの曲、中でもバラードのサウンドにおいて特に大きなポイントといえば“ゆかりんコーラス”、あの美しいコーラスワークだ。そのコーラスの表現が、音の繋げ方と重ね方に優れるこのイヤホンで聴くと抜群に良い!
この曲は冒頭から要所で、メインメロディに対してそれとほとんど同じくらいのボリューム、大きな存在感で、ボーカルハーモニーが重ねられている。
「声が深い影になる」の「声が」「になる」
「ひとり迷う思い出に」の「ひとり」「い出に」
という箇所は、主メロに対して低音のハーモニーを重ねることで心の沈みを表しているかのようだ。
次ページハーモニーが一つの声のように自然と重なって聴こえる…