レコード再生の未知の世界を検証する
「1954年以降はRIAAカーブ」は本当か? ― 「記録」と「聴感」から探るEQカーブの真意
■Atlantic
ジョン・コルトレーン/ジャイアント・ステップス(1311、Mono、1959年)=Columbiaカーブ
AtlanticがRIAA策定1954年以前に実際どのカーブを使っていたのかは謎に包まれている。一説によれば MGMのプレス工場を使ったものはNABカーブであるらしいのだが、真偽は不明。同様にRIAAカーブにすぐさま移行したかも定かではない。Atlanticは後年にマトリックスにプレス工場を記載するようになったのだが、本盤ではAtlanticがマスターを製作したことを示す、「AT」のみが刻まれている。
実際に聴いてみるとRIAAカーブでは明らかにハイ上がりで、コルトレーンのテナー・サックスが「テナー・サックスの音」をしていない。ベースの帯域もすっぽり抜け落ちてしまっている。一方のColumbiaカーブでは、楽器があるべき音をしている。楽器の空気感も音像と一致し、演奏の機微がより再現性を増すようだ。ひと口にNABカーブと言っても、その特性は時代によりNAB→NARTB→NAB→NAB(Columbiaと同一)→NAB(RIAAと同一)と複数のEQカーブが存在する。試聴の結果を考慮すると、本作は1959年リリースということもあり最後期のNABカーブ、つまり一般にColumbiaカーブと呼ばれているものを採用していたのではないだろうか。
■Audio Fidelity
パット・モラン/ディス・イズ・パット・モラン(AFLP1875、Mono、1958年)=※良好な結果なし
Audio Fidelityも採用したEQカーブがはっきりとしないレーベルだ。一説にはNABカーブと言われているが、今回色々なEQカーブを試したものの正解と言えそうなカーブが見つからなかった。そもそも本作については録音バランス自体にも疑問符が残る品質で、RIAAカーブ含めどのカーブで聴いてもパッとしなかった。
■Blue Note
ソニー・ロリンズ/ヴィレッジ・ヴァンガードの夜(BLP1581、Mono、1957年)=AESカーブ
ルー・ドナルドソン/ブルース・ウォーク(BLP1593、Mono、1958年)=AESカーブ
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ/モーニン(BST4003、Stereo、1959年)=AESカーブ
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ/チュニジアの夜(BLP4049、Mono、1961年)=AESカーブ
グラント・グリーン/グランツ・ファースト・スタンド(BLP4064、Mono、1961年)=AESカーブ
ケニー・バレル/ミッドナイト・ブルー(BLP4123、Mono、1963年)=AESカーブ
ボビー・ハッチャーソン/ハプニングス(BLP4231、Mono、1966年)=AESカーブ
ボビー・ハッチャーソン/ハプニングス(BST84231、Stereo、1967年)=AESカーブ
Blue Noteは米Audio Fidelity誌にてAESカーブと記載があり、実際の結果もAESカーブ。しかもRIAAカーブが策定されてからかなり後年になる1967年リリースのものまでAESカーブの方がRIAAカーブよりも適切に感じた。
特にBobby Hutchersonのヴィブラフォンの音色が特徴的である。RIAAカーブだと共鳴管のうねりであり、楽器の名前の由来でもあるヴィブラートが全く伝わってこない。RIAAカーブ以前に多用されていたColumbiaカーブでも帯域バランスとして考えればまともに鳴ったのだが、AESカーブで聴くとさらに良い。ヴィブラフォンの楽器形状、つまりマレットで音板を叩き、その振動によって共鳴管が響き、はねの回転によってうなるというのが音像展開として分かるようになる。さらにモノラル盤では楽器の前後位置まで揃って展開するようになり、音楽としての魅力も増した。
今回の試聴テストではどの時期までAESカーブを採用したかは判明しなかったが、Libertyに買収される直前にレコーディングが行われた『ボビー・ハッチャーソン/ハプニングス』までAESカーブということは、Liberty買収以降にRIAAカーブに切り替わったことが推測できる。よく言われるLibertyプレスとBlue Noteプレスでの音質差は、もちろんマスターの劣化というのもあるだろうが、もしかするとEQカーブの差もあるかもしれない。
■Brunswick
マイ・ジェネレーション/ザ・フー(LAT8616、Mono、1965年)=RIAAカーブ
Brunswickは元々1916年に設立されたレーベルであるが、本盤がリリースされた当時は米DECCAが買収。本盤にも米DECCAライセンスの旨が記されている。
1954年以前には米DECCAはAESカーブやNABカーブを使用していたが、実際に聴いてみるとRIAAカーブが自然なようだ。本盤のリリースは1965年であり、すでにRIAAカーブ移行後だと考えられる。
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