レコード再生の未知の世界を検証する
「1954年以降はRIAAカーブ」は本当か? ― 「記録」と「聴感」から探るEQカーブの真意
イコライザーカーブ(EQカーブ)と言っても、 一般的には1954年以降は全てRIAAカーブに統一されていると言われているため、日常ではほとんど意識することはないというのが実情だと思う。しかし、本当に1954年以降にリリースされた盤は、すべてRIAAカーブを適用すればいいのだろうか。このことについては、世界各国にさまざまな説がある。
改めておさらいすると、EQカーブはカッティング工程時に発生する物理的諸問題を避けるために挿入されるイコライザーの周波数特性と関係している。レコードのカッティングは1kHzを基準として低域を少なく、逆に高域を多くした上で行われるため、再生時にはそれとは逆の特性を持ったイコライザーをかけなければならない。この再生時に用いられるイコライザー特性がEQカーブだ。
イコライザーそのものはSPの時代から用いられてきたが、各レーベルが各々独自のEQカーブを使用していた。規格の標準化は1954年、来るステレオ時代に先立ち米RIAA(Recording Industry Association of America=アメリカレコード協会)が主導して行い、RCAが1953年に開発したイコライザー特性が採用された。これが一般的に言われるRIAAカーブと呼ばれるもので、現在中古市場も含めて多く流通するEQカーブだ。
ここで問題となるのは、「アメリカで策定されたRCA開発のRIAAカーブを、各レーベルが本当に即座に採用したのか?」という点である。もしそうでないとしたなら、1954年以降にリリースされたLPであってもRIAAカーブ以外のEQカーブを使って再生しなければならないということになる。
いままでにRIAAカーブも数回改訂が行われていること、そして英DECCAは1966年ごろまで独自のEQカーブであるFFRRカーブを使っていたことを明らかにしたことを考えると、「本当はRIAAカーブ以外で再生しなければならない盤」というのが1954年にも存在するということは、紛れもない事実だ。
関連リンク:
レコード再生におけるEQカーブとは? 3種類のRIAAカーブを「micro iPhono2」で探る
DECCAが採用した「FFRR」カーブと「RIAA」の関係性を探る
このほかにも、巷では他レーベルもかなり後年になってからRIAAカーブを採用したことが噂されている。このことについては、米High Fidelity誌の「Dialing your disks」やJames R. Powell Jr氏による「 Audiophile’s Guide to Phonorecord Playback Equalizer Settings」などの当時のレーベル担当者から聴取した文献が存在するものの、各レーベルがいつまで独自のEQカーブを採用し、いつからRIAAカーブを採用したかは定かではない。真偽をはっきりさせるべく、アコースティック・リヴァイブ代表であり膨大なLPコレクションを持つ、石黒謙氏に協力を仰いで2日間にわたって徹底的に検証を行った。その結果を報告する。
検証は、石黒氏所有のシステムで行った。モノラル期のレコードはWestlake、ステレオ期のレコードはAvalon Acousticsのスピーカーを用いたシステムにて試聴している。肝心の可変EQカーブに対応するフォノイコライザーは、ARAI Lab製特注フォノイコライザーと、Rens Heijnis製特注フォノイコライザーを用いた。ケーブルをはじめとしたアクセサリーは、アコースティック・リヴァイブ製が用いられている。
先に試聴環境のクオリティを述べておくと、音場展開の広さと音像密度の濃さが両立していることもさることながら、一聴して音源に刻まれた情報を余すことなく再現するという、真の原音忠実性が高いレベルで実現できていることが分かる。EQカーブの違いというのは、帯域ごとに数dB程度のものだが、これらシステムではその違いが単に帯域バランスという話ではなく音楽性として如実に再現されていたという意味でも、検証結果に対する信憑性はかなりのものとみていいだろう。
検証したLPは15レーベル、50を超える枚数になる。以下、レーベル名順に検証したLPと、今回の検証にて最も良いと筆者が判断したEQカーブをご紹介する。
改めておさらいすると、EQカーブはカッティング工程時に発生する物理的諸問題を避けるために挿入されるイコライザーの周波数特性と関係している。レコードのカッティングは1kHzを基準として低域を少なく、逆に高域を多くした上で行われるため、再生時にはそれとは逆の特性を持ったイコライザーをかけなければならない。この再生時に用いられるイコライザー特性がEQカーブだ。
イコライザーそのものはSPの時代から用いられてきたが、各レーベルが各々独自のEQカーブを使用していた。規格の標準化は1954年、来るステレオ時代に先立ち米RIAA(Recording Industry Association of America=アメリカレコード協会)が主導して行い、RCAが1953年に開発したイコライザー特性が採用された。これが一般的に言われるRIAAカーブと呼ばれるもので、現在中古市場も含めて多く流通するEQカーブだ。
ここで問題となるのは、「アメリカで策定されたRCA開発のRIAAカーブを、各レーベルが本当に即座に採用したのか?」という点である。もしそうでないとしたなら、1954年以降にリリースされたLPであってもRIAAカーブ以外のEQカーブを使って再生しなければならないということになる。
いままでにRIAAカーブも数回改訂が行われていること、そして英DECCAは1966年ごろまで独自のEQカーブであるFFRRカーブを使っていたことを明らかにしたことを考えると、「本当はRIAAカーブ以外で再生しなければならない盤」というのが1954年にも存在するということは、紛れもない事実だ。
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DECCAが採用した「FFRR」カーブと「RIAA」の関係性を探る
このほかにも、巷では他レーベルもかなり後年になってからRIAAカーブを採用したことが噂されている。このことについては、米High Fidelity誌の「Dialing your disks」やJames R. Powell Jr氏による「 Audiophile’s Guide to Phonorecord Playback Equalizer Settings」などの当時のレーベル担当者から聴取した文献が存在するものの、各レーベルがいつまで独自のEQカーブを採用し、いつからRIAAカーブを採用したかは定かではない。真偽をはっきりさせるべく、アコースティック・リヴァイブ代表であり膨大なLPコレクションを持つ、石黒謙氏に協力を仰いで2日間にわたって徹底的に検証を行った。その結果を報告する。
検証は、石黒氏所有のシステムで行った。モノラル期のレコードはWestlake、ステレオ期のレコードはAvalon Acousticsのスピーカーを用いたシステムにて試聴している。肝心の可変EQカーブに対応するフォノイコライザーは、ARAI Lab製特注フォノイコライザーと、Rens Heijnis製特注フォノイコライザーを用いた。ケーブルをはじめとしたアクセサリーは、アコースティック・リヴァイブ製が用いられている。
先に試聴環境のクオリティを述べておくと、音場展開の広さと音像密度の濃さが両立していることもさることながら、一聴して音源に刻まれた情報を余すことなく再現するという、真の原音忠実性が高いレベルで実現できていることが分かる。EQカーブの違いというのは、帯域ごとに数dB程度のものだが、これらシステムではその違いが単に帯域バランスという話ではなく音楽性として如実に再現されていたという意味でも、検証結果に対する信憑性はかなりのものとみていいだろう。
検証したLPは15レーベル、50を超える枚数になる。以下、レーベル名順に検証したLPと、今回の検証にて最も良いと筆者が判断したEQカーブをご紹介する。
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