あのサーモスが真空技術で作った“本気のオーディオ” 。VECLOS「SSB-380S」レビュー

■抜群に鮮明な定位感に圧倒、ヘッドホンも力強くドライブ

今回は筆者のMacBook Airと音楽プレーヤーソフト「Audirvana Plus 3」をメインに、デスクトップ再生を想定した環境でSSB-380Sを試聴した。なおヴェクロスでは、本機のオーナーのために専用の音楽プレーヤーソフト「VECLOS HR Audio Player」をホームページから無料で提供している。Mac/Windowsのプラットフォームに対応するソフトは複雑な設定が要らず、ハイレゾ入門にも最適。スピーカーをUSBケーブルに接続するだけで、本機が対応する最高スペックのDSD/リニアPCM音源を手軽に聴ける環境が整う。

SSB-380Sはさらに、USBオーディオ再生時の音質・動作の安定感を向上させる技術として注目が高まる「USB Bulk Pet」データ伝送方式にも対応している。ヴェクロスのサイトで公開されているMac/Windows対応のプラグインをダウンロードし、追加すると、4種類の転送モードから好みの音質が選べるようになる。マニアも遊べる機能と言えそうだ。

抜群に鮮明な定位感には、おそらく誰もが圧倒されるだろう。ボーカルの音像が立体的に浮かびあがって、目の前まで迫ってくる。声の繊細な輪郭と淡いニュアンスの変化が的確に捉まえられる。特に女性ボーカルの艶やかで張りのある高域に心奪われた。手嶌 葵のアルバム『I Love Cinemas』に収録されている楽曲「La Vie En Rose」を聴きながら、耳の奥へ滑らかにすべり抜けて、温かな余韻を何度もかみしめた。アコースティック楽器の音色がとてもナチュラルだ。

東京スカパラダイスオーケストラのアルバム『Paradise has NO BORDER』からの楽曲「Believer」では、ビックバンドによるラテン風ジャズの演奏が雄大な情景を描いてみせた。音色そのものに誇張感はないが、トランペットやトロンボーンなど金管楽器が厚みのある空気をドンと前に押し出してくる力強さと熱気がピリピリと肌を刺激してくる。耳だけでなく体で音を味わえるスピーカーリスニングの醍醐味だ。ピアノのシャープなアタックとエレキベースの力強いうねりが混濁することなく、それぞれの音のレイヤーが綺麗にほぐれる。微小な音の粒立ちも鮮明だ。

SSB-380Sはアンプとスピーカーを接続するジャンパーケーブルの交換に対応している。システムに同梱されているケーブルを、フルテックのジャンパーケーブルに交換してみると、音の輪郭線の描かれ方や低音の量感に期待以上の変化が表れた。フラットバランスを意識してチューニングを追い込んだスピーカーなので、アクセサリー交換の効果がとても素直に反映されるのだろう。同様にUSBケーブルの交換による音の変化も楽しむことができた。

ヘッドホンアンプの音質もゼンハイザーの「HD 800」をつないで確かめた。ヘッドホンのキャラクターをストレートに反映させる、誠実で丁寧なチューニングだ。特定の帯域に偏らず、音源のエッセンスを余すところなく引き出してくれた。インピーダンスの高いヘッドホンも力強くドライブできるパワーがある。“夜間の音楽再生用” に限定する必要はまったくない。むしろスピーカーリスニングと同じように、ヘッドホンリスニングにも積極的に使うべきだ。

最後に、aptXに対応するオンキヨーのGRANBEAT「DP-CMX1」とつなぎ、Bluetooth再生の音もチェックした。PCと接続してデスクトップで聴く音と同じように、スマホで楽しむサウンドも圧倒的な立体感で迫ってくる。特にクリアな中高域は、ほかのBluetoothスピーカーで味わえない本機ならではの持ち味。LDACに対応するデバイスとの組み合わせでさらに真価を発揮しそうだ。

サーモス独自の技術がオーディオと幸福な出会いを実現したことによって生まれた、異色のスピーカーが、SSB-380Sの誕生によってついにハイファイクラスの高みに到達した。魔法びんのメーカーらしく、音楽の “原水” を忠実に引き出し、美味しく聴かせてくれるサウンドがここにある。