Roonとも比較した
USBやUPnPより圧倒的に音が良い「LAN DAC」とは何か? スフォルツァートの最新アップデートで検証
スフォルツァートのプレーヤーの再生エンジンが、JRiverに比べて明らかに劣っている……とはあまり考えたくない。現に、「A」と「B」の比較では「A」に軍配が上がるし、「A」のサーバーをcanarino Filsに変えても、「PC×再生ソフト<ネットワークプレーヤー」という結果は変わらない。
となれば、やはり「Diretta」という通信プロトコルが音の違いを生んでいると考えるのが道理だろう。
そこで、Roonを使った検証を行った。RoonのシステムはあくまでもRoonのCoreが再生機能を担うため、Roon ReadyモードのDSP-Doradoは、実質的に「LAN DAC」として機能する。もちろん、Roonを純粋に再生ソフトとして使い、Diretta/LAN DACモードのDSP-Doradoに出力することもできる。
ソフト、ハード、ケーブルがすべて共通の状態で、純粋にRAATとDirettaというプロトコルを比較する形である。
結果はDirettaの圧勝だった。これほどの音質差をもたらすDirettaとは、いったいどのようなものなのか。
というわけでここからは、Direttaについてスフォルツァート代表の小俣氏に取材した話を書いていく。
■Direttaはオーディオ再生に特化して設計されたプロトコルだ
繰り返しになるが、Direttaとは、スフォルツァートのプレーヤーを「LAN DAC」として使うための機能/モード、およびそれを実現するための通信プロトコルである。
LAN DACを実現するための通信プロトコルは、Diretta以外にも存在する。例えば、MERGING「NADAC」といった製品は、IPベースのリアルタイム音声伝送技術「RAVENNA」を採用する。前述したように、Roonで用いられる「RAAT」もまた、Roon Readyに対応するプレーヤーをLAN DACとして扱うためのものだといえる。
Direttaとはこれらとは異なる独自のプロトコルで、最初からハイエンドオーディオ用途を意図して、音質を突き詰める方向で開発されたのだという。この点で、放送業界やプロオーディオ分野での使用を想定したRAVENNAや、音質を担保したうえでネットワークプレーヤーでもRoonのユーザー・エクスペリエンスを実現すべく作られたRAATとは毛色が異なる。
そしてDirettaそのものはフリーウェアであり、必ずしもスフォルツァートのプレーヤー専用というわけではない。今後、他のメーカーがDirettaを採用し、製品に搭載することは可能だそうだ。
とはいえ、Direttaはスフォルツァートのプレーヤーを使って開発・チューニングが行われており、事実上スフォルツァートのプレーヤーに最適化されている。Diretta自体、オーバーヘッドが極力小さくDSPの負荷が小さくなるように設計されたもので、最適化の度合いについては小俣氏いわく、「プレーヤー(DSP-Dorado)の負荷変動が限界まで小さい」「これ以上処理を削ると通信そのものが成り立たなくなる」というレベルにまで到っている。
ファイル再生では、「何をプレーヤーに使うか」だけではなく、再生された音源のデータをいかにストレスなくDACに送り込むか ーー 「伝送」という部分でも、著しい音質の差が生じる。Direttaが登場したことで、その事実をあらためて思い知らされた。
少なくとも筆者の環境でDSP-Doradoを使う限り、Diretta/LAN DACがもたらした音質向上はあまりにも大きかった。USB-DACとLAN DACではもはや比較にならず、「ネットワークプレーヤー」というスフォルツァートの本懐すら危うくしてしまったほどに。
DirettaはスフォルツァートがPCオーディオやネットワークオーディオといった垣根を越えて、真に「ネットワーク」の可能性を追求してきたからこそ誕生したといえるだろう。そしてその音質は、USB-DACに対するLAN DACの優位性をおおいに感じさせるものだった。PCオーディオと同様、使用するPCが再生音に甚大な影響を及ぼすという問題はあるにせよ、ファイル再生の新たな地平を切り開いたことは間違いない。
「NOS」と「Diretta」の搭載は、製品の世代が変わるレベルの大きな進化である。これほどの機能がアップデートで追加されるのだから、スフォルツァートのユーザーは幸いだ。
(逆木 一)