力強さと繊細でしなやかな表現を両立
発売から3年経過も売上げが伸びているロングセラーヘッドホン、Meze Audio「99 Classics」の魅力とは?
■力強く、解像感豊かなサウンド。鳴らすほどに音楽を活き活きとさせる
本機のサウンドをAstell&KernのハイレゾDAPである「A&futura SE100」と組み合わせて、ハイレゾ音源を中心にチェックした。
解像感が豊かでありながら温かみも溢れる、そんなサウンドが99 Classicsの大きな魅力であると感じた。精細なディティールの描き込みと力強さとのバランスが絶妙に良く、リラックスしながらいつまでも長時間聴いていたくなった。
トロンハイム・ソロイスツ楽団とニーダロス大聖堂少女合唱団によるMQA音源「MAGNIFICAT/Et misericordia」では、人の声がとても艶っぽい。自然なうるおいに満ちている。聴き込むほどに、歌声が体の芯にまで染み込んでいく。
MQA再生らしい繊細なディティールの描き込みが丁寧でありながら、分析的にならず音楽の熱量をしっかりと伝えてくる。コントラバスの低音がしっかりと根を張り、その上に弦楽器のリッチなハーモニーが幾層にも重なり合う。生楽器の音色がとても生々しく、演奏者が立つ大聖堂の空間がリアルに浮かんできて、力強く引き込まれてしまった。
アリス=紗良・オットの「ショパン:ワルツ集」から『ワルツ第6番』を聴くと、ピアノの鍵盤をタッチする指先のイメージがとても優しく、柔らかく蘇ってくる。クリアで見晴らしの良い空間にピアノの余韻が滑らかに溶けていく。音の粒立ちはとても鮮明なのに、耳あたりがカリカリとせず、鼓膜に優しく触れてくる。余韻の耳あたりも非常に心地よかった。この素っぴんの透明感が出せるところが99 Classicsの醍醐味だと思う。
ジャミロクワイのアルバム「Automaton」からタイトル曲の『Automaton』では、良質で弾力感に富んだ低音を確かめた。打ち込みが深く鋭いのに、当たりがとてもしなやか。音像が膨らみ過ぎず、足腰が安定していてブレない。たっぷりの力感とインパクトも合わせ持つ。エレキのカッティングも歯切れ良く、シンセサイザーが奏でるアンビエントは、密閉型ヘッドホンの限界を超えて縦横無尽に広がる。エネルギッシュなボーカルも冴え渡っていた。
続いて、山中千尋のアルバム「シンコペーション・ハザード」から『ヘリオトロープ・ブーケ』を再生。エレクトリックピアノの甘い余韻に酔わされた。この体の芯がじんわりと暖まっていくような感覚は他のヘッドホンではなかなか味わえないと思う。ゆったりと広がる余韻は混じりけがなく、階調感がきめ細かい。夏の雨上がりの空に現れた虹のように、音色が濃くて力強い。タイトでしなやかなウッドベースの低いリズムがうなりをあげる。ドラムスのハイハットの粒立ちもきめ細かく、温かな毛布にくるまれているみたいに心地よいリスニング感を満喫した。
坂本真綾の楽曲「CLEAR」は澄み切った透明なハイトーンが絶品だ。歌声の表情がとても明るく、月並みな表現で恐縮だが、聴き込むほど元気になる。ハイトーンは息苦しさが一切感じられず、伸びやかさに限界を感じない。繊細なニュアンスも自然と引き立ってくるので聴き疲れしない。ライブハウスの最前線ではないけれど、ボーカリストの歌う様子がよく見える位置からステージの全体像をクリアに見渡しているような感覚を楽しんだ。
99 Classicsはアコースティックギターやピアノのような生楽器に近いヘッドホンだ。今回は短期間に集中して聴きこんでみたが、鳴らし込むほどに音が活き活きと鳴るようになって、ヘッドホンも体の一部みたいに馴染んできた。何度も聴いてきたお気に入りの楽曲も、また新たな視点から楽しめる。
想定売価が3万円を切るポータブルヘッドホンの中にいま、これほどまでにオーガニックで豊かな音楽性を楽しませてくれる選択肢は、他にないと思う。遮音性がとても高いので、どんなリスニングシーンで聴いても、安定して99 Classicsならではのサウンドに身を任せられる。驚くほど高いコストパフォーマンスには感心だ。この魅力的なヘッドホンをまだ体験したことがない方は、急いで試聴できる機会を見つけるべきだ。
(山本 敦)
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