NRシリーズ愛用の逆木氏が実力を探る
大人気のスリムAVアンプがさらに進化! マランツ「NR1710」は “いい音” で暮らしを豊かにする
ちなみに筆者所有のNR1608は「HEOS」対応など、AVアンプとして機能面で成熟したタイミングのモデルだった。なので続くNR1609と今回のNR1710は、新機能の搭載よりも音質向上に開発リソースを投入したのだという。とても理想的な環境とは言えないごく現実的な環境で、NR1608とNR1710、2世代の違いでどれほど音の向上があるのか、筆者自身大きな期待をもって試聴に臨んだ。
なお、設置に関してNR1710はひじょうに丁寧なセットアップアシスタントが搭載されている。オーディオ/ホームシアターに不慣れなユーザーであっても、スピーカーの接続や自動音場補正といった各種設定が画面で示されるので、戸惑うことは少ないはずだ。
また、音場補正用のマイクを視聴位置に合わせた高さに設置するための、ペーパークラフトによるマイクスタンドも同梱されている。
■空間表現力、低域の力強さ……想像以上に大きかった音質の進化
サラウンドの試聴は『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』、『ゴジラ(2014)』、『ガールズ&パンツァー 劇場版』の3本のBDで行った。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』はチャプター4、幼い兄妹が田園風景の中を歩いていくシーンを視聴。ふたりのダイアローグは繊細で実にクリーン。草原を吹き抜ける風、森の中に充満する不穏なざわめき、穏やかな雨音などが確かな存在感をもって描かれ、細かな環境音の積み重ねによる豊かな包囲感が得られる。道中で流れる音楽の質感も素晴らしく、取り立てて動きのあるシーンではないものの、マルチチャンネル・サラウンドとして充実感がある。もともとMASSシリーズは明瞭で透明感に富む再生音が身上だが、NR1710ではその持ち味がさらに引き出されていると感じた。
『GODZILLA』はチャプター10と11、ゴジラの咆哮から放射火炎に到る一連のシーンを視聴。先ほどとは打って変わって、巨大な怪獣同士がぶつかり合う重低音表現と、緊迫感のある音楽が鳴り響くシーンである。NR1608では、サブウーファーを使っていないということもあり、じゅうぶんなサラウンド感は得られるものの、さすがに腹の底から震えるほどの重低音は出てこない。しかしNR1710では、低域の表現ががぜん力強さを増し、思わず咆哮するゴジラと一緒に唸ってしまった。敵怪獣であるMUTOとの激突や放射火炎の威力も苛烈さを増す。NR1710の駆動力の向上は間違いなく、同時にMASSシリーズの底力も見えた格好だ。
『ガールズ&パンツァー』はチャプター21、最終決戦のシーンを視聴。『ガルパン』シリーズならではの砲撃音の威力、巨大なダイナミックレンジがどのように再生されるかを確かめる。大きな瞬発力がアンプに要求されるシーンだが、ここでもNR1710はその進化を証明。砲撃はNR1608からさらに量感を増しつつも鋭さを保ち、空間を切り裂く移動感も表現できている。縦横無尽に疾走する戦車の発する効果音や音楽も、砲撃の応酬の陰で曖昧になることはない。サブウーファーを使っていない関係上、低音の分厚さや爆発的な迫力よりは効果音の細かい表現や精密な空間の繋がりを重視した再生音ではあるとはいえ、戦闘シーンのテンションの高さは見事に表現できている。
いずれの作品も各シーンの体験がより深いものとなり、NR1608から本質的な再生音の向上を感じ取ることができた。これはまさしく、多岐に渡る改善によってNR1710のオーディオ機器としての性能に磨きがかかった結果といえる。白状すると二世代ぶんの音質向上は当初想像していた以上に大きく、NR1608ユーザーとしてはいささか複雑な心境である。
なお、今回は再生システムがトップスピーカーのない5.0chのため、Dolby Atmos/DTS:Xコンテンツの視聴は行わなかったが、NR1710は今後のアップデートでDolby Atmos Height Virtualizerに対応予定である。Dolby Atmos Height Virtualizerはトップスピーカー/サラウンドスピーカーを置けない環境でも、アップミックスにより上方向も含めて包み込まれるような音を実現するとのことで期待が持てる。
■プリメインアンプとしても優秀。映画はもちろん音楽再生も楽しませてくれる
さて、前モデルのNR1609は、同価格帯の他のAVアンプに比べて2chでの使用率がかなり高いとのことだった。そこで、NR1710の2ch再生の実力を確かめるべく、部屋を筆者のオーディオ/シアタールームに移し、DALIのブックシェルフスピーカー「Zensor 1」と組み合わせた試聴も行った。