HOME > レビュー > ワイヤレスもAudio over IP時代へ、ラズパイのいまと次フェーズを考える

海上忍のラズパイ・オーディオ通信(57)

ワイヤレスもAudio over IP時代へ、ラズパイのいまと次フェーズを考える

公開日 2019/06/28 06:30 海上 忍
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

ワイヤレスでもAudio over IPの時代へ

来年以降、早ければ年内にも本格化するかも、と睨んでいるのが「次世代ネットワーク再生」。ラズパイに限った話ではないが、ユーザエクスペリエンスに改善の兆しがないUPnPベースの再生系(DLNA/OpenHome)から、メディアリッチなRoonなどの再生系へのシフトだ。

そしてもうひとつが、Audio over IP。早い話が、IPネットワーク(LAN)を介してオーディオ信号を伝送する機構で、筆者が関与しているワンボード・オーディオ・コンソーシアムでも「Diretta」をサポートする方針を表明したところだ。技術の詳細をこちらの記事にまとめているので、あわせてご一読願いたい。

6月現在、Direttaプロジェクトにおけるラズパイ(正確にはARMアーキテクチャ)への移植作業は一段落しており、次なるフェーズへの準備を進めている状況。macOS/CoreAudio対応ドライバーは近日中に公開される見込みで、いよいよPCオーディオ再生環境としての体制が整うことになる。

ところで、RoonやDirettaなどのAudio over IP実装は、有線(Ethernet)接続を基本としているように見えるが、実のところ無線(Wi-Fi)の使用を非推奨にしているわけでもない。実際、B&Wは今年に入ってAirPlay 2やRoonに対応したワイヤレスオーディオ実装「Formation」を発表しているし、KEFの新しいワイヤレススピーカー「LSX」もRoon Readyだ。

Direttaも事情は同様で、無線環境での利用を非推奨にしているわけではない。筆者もDiretta Sync機能を組み込んだ再生コマンド(Mac用)を使い、5GHz/IEEE 802.11ac環境で試しているが、音質面でかなりの手応えを感じている。

Direttaではオーディオ信号は細かいパケットに分割され、UDP/IPv6で安定して送信されていく

DLNA/OpenHomeと音を聞き比べてみると、明らかに輪郭の緻密さが違う。まったく同じシステム(Raspberry Pi 3 Model B+、DACカードはAVIOT DAC 01)を使用しているにもかかわらず、1枚薄皮が剥けたような、鮮度の高い音へと一変するのだ。

一般的なラズパイ・オーディオでは、MPDで再生を行いALSAへ出力するという流れだが、DirettaはMPDを経由せずALSAへダイレクトにつなぐ。DirettaはIPv6/UDPネットワークで伝送する以外“何もしない”ため、Mac側の音を聴いていることになるが、再生に使う音源はWAVなので、音の違いがデコーダー由来でないことも明らかだ。

ただし、サンプリングレートが192kHz/24bitを超えるあたりから、パケットロスが散見されるようになる。WEBブラウジングやメールの送受信など、インターネットにアクセスした場合はてきめんで、酷い時にはそのまま再生が異常終了してしまう。インターネット接続と共用のWi-Fi回線で安定した再生を得ようとすれば、96kHz/24bitあたりがせいぜいだろう。

MacでWAV 96kHz/24bitをWi-Fi経由で再生するテストを実行しているところ

とはいえ、純正AirPlayで扱えるオーディオデータの上限が48kHz/16bitということもあり、ラズパイ・オーディオでお馴染みのAirPlay互換実装「Shairport Sync」には多くを期待できない。理論上の最大転送速度が9.6Gbpsという次世代IEEE 802.11ax環境の到来が目前ということを考慮に入れれば、“Diretta on Wi-Fi”を目指すのが合理的なのではないか。となるとこの先必要になるのは、スマートフォン/タブレットでのDiretta再生アプリということになるが...さて、どうなる?

前へ 1 2

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE