「オーディオグレード」音質
ついに日本発売、アップル「HomePod」レビュー。期待以上の音質、気になるSiriの実力は?
■まさしくオーディオグレードに到達した高音質
続いて、HomePodのサウンドをしっかり聴いてみよう。最初にApple Musicのストリーミング音源を聴いた。ジャズピアニスト、川上さとみの演奏はピアノの透明な音色がすうっと身体に染み込んでいく。余韻がとても歯切れよく爽やかだ。楽器の音に歪みがなく、ウッドベースの低音に自然な温かみが漂う。細かなニュアンスの表現力にも長けている。
竹内まりやのボーカルは肉付きがとてもふくよかで、声の輪郭線に健康的な力強さが感じられる。音像定位も鮮明で、程よく前に迫ってくる。バンドの楽器はホーンセクションの高域の艶めきとキレの良さが冴え渡る。小さなHomePodから、圧倒されるほど生々しくエネルギッシュな音があふれ、部屋中を満たす。
次にジャズベーシストのマーカス・ミラーの楽曲で、低音再生を確かめた。HomePodはかなり重量級の低音を再現できるスピーカーだ。音像をだぶつかせずにビシッと引き締めて、鋭くゴリッとしたインパクトを打ち込んでくる。筋肉質でセクシーな低音だ。中低域とのセパレーションも非常に明瞭なので、バンドの各楽器が躍動する様子がはっきりと目に浮かんできた。いわゆる無指向性の360度スピーカーにありがちな、ふわっとしたリスニング感とは対極にある、音楽の芯に宿るグルーヴを熱く主張してくるサウンドがHomePodの持ち味だ。
HomePodはAirPlay 2によるワイヤレスリスニングにも対応している。iOSデバイスによるスピーカーの初期セットアップを完了すれば、MacとiTunesとの組み合わせによるAirPlay再生が楽しめる。
先日から「Apple Digital Masters」として新たなスタートを切った、アップルのiTunes Storeで販売されている高音質作品をダウンロード購入。HomePodとMacBookによるAirPlay再生もチェックした。
tofubeatsのアルバム「POSITIVE」からリードボーカルに中納良恵を迎えた作品『別の人間』では、磨き抜かれたクリアなボーカルのハイトーンがみずみずしい色彩感にあふれる音をHomePodが描いてみせた。コーラスとのハーモニーが柔らかく重なり合って、底なしに澄み渡った余韻を残しながら静寂と溶け合う。あまりの心地よさに、何度も繰り返し同じ曲を聴きこんでしまった。
■2台揃えてステレオ再生を試してみた
ところで、1台のHomePodに対して同時にペアリングできるiOSデバイスは1台まで。Siriにはユーザーの声紋を認識する機能がないため、Apple Musicの定額制音楽配信サービスをメインにするのであれば、家族ひとりのApple IDにひも付いたHomePodが1台あれば、音楽再生自体は十分に楽しめる。
もしApple Musicを使い込むうちに、家族のお気に入り楽曲やアーティストがライブラリに混ざることを避けたい場合、あるいはそもそも好きな音楽を自分の部屋で独り占めして聴きたいという方は、HomePodを家族用と自分用に分けて持つべきだろう。
2台以上のHomePodが揃うと、マルチルーム再生やステレオ再生が楽しめる。2台のHomePodのステレオペアリングは初期セットアップ時に設定できるほか、後から「ホーム」アプリでグループを作成してもいい。
ステレオ再生の効果は音が一段と伸びやかになり、ボーカルの自然な立体感と弾む低音のスピード感の向上などにも現れてくる。HomePodは1台でも十分にパワーのあるスピーカーだが、ステレオ再生にするとその力のバランスをますます精緻にコントロールできるようになる印象を受けた。
HomePodの高品位なサウンドが、ほかのIT企業の純正スマートスピーカーと一線を画していることは、誰が聴いても明らかだろう。むしろオーディオ専業メーカーのスマートスピーカーと比較しないとフェアな評価ができないほど、その完成度は高い。
当サイトをご覧のオーディオファンの中には、すでに自宅にHiFiグレードのネットオーディオ再生環境を導入している方も多いだろう。既存のオーディオ再生環境の中にHomePodを加えれば、サブ的に音楽を聴くワイヤレススピーカーとして、あるいはAirPlayの音声操作対応コントローラーとして、存分に真価を発揮してくれるだろう。