REGZA X930の実力を画質マニアが検証
“有機ELテレビ界のポルシェ” REGZA新モデルに驚嘆。「完璧画質」にはさらに先があった!
■「ディレクター」モードの活用法
なお、X930でHDR10+再生時にダイナミックメタデータを使って輝度のコントロールをしているのは「ディレクター」モードだけだ。それ以外のモードではHDR10再生時と同様に、REGZA側で映像をリアルタイム解析することで輝度調整を行っている。先ほど「映画プロ」で比較した際に、解像感以外で差が出なかったはこのためだ。その証拠に「ディレクター」でHDR10+のオンとオフを比較してみると、明暗のダイナミックレンジが明らかに広くなり、随所にダイナミックメタデータの効果が認められた。
ただし、「映画プロ」がBVM-X300のイメージをそのまま拡大したような画質を目指して、超解像やガンマ、色のチューニングを施しているのに対し、「ディレクター」はあくまで測定器上でD65規格に近づけたモードに過ぎない。超解像処理もデフォルトではオフ。現状の「ディレクター」モードはHDR10+の認証を取るためだけに存在していると考えてよい。
そんな「ディレクター」モードの活用法として、筆者が期待しているのは、パナソニックのUHD BDプレーヤー「DP-UB9000」とのコンビネーションだ。「DLA-V9R」をはじめとしたJVCプロジェクターのHDR画質が、UB9000自慢の高精度トーンマップ機能を活用することで飛躍的に向上したのは記憶に新しい。「プロジェクターでHDRは無理」という常識を覆し、むしろ「HDRを観るならプロジェクターかも」と思わせるほど、強烈なパフォーマンスを発揮した。私もその映像にノックアウトされたひとりだ。
ここで注目したいのが、その際に「高輝度プロジェクター」のターゲット輝度とされたピーク500nitという数字だ。実はこれが、前述した「HDRエンハンサー」をオフにした際のX930の最高輝度と同じなのである。
ピーク輝度が落ちて何がそんなに嬉しいのかと思われるかも知れないが、先ほどの説明を思い出してほしい。HDRエンハンサーとは「RGBW方式の有機ELパネルにおいて、W(ホワイト)のみをブーストし、白や彩度の低いエリアの輝度を最大2倍に伸張するスイッチのこと」だ。つまり、「色の正確さ」という点だけに注目すると、Wをブーストしない「HDRエンハンサー」オフの状態こそが、最もD65に忠実な値となる。
そもそも映画鑑賞にピーク輝度1000nitは必要なのだろうか? UHD BDやApple TV 4Kの4K配信でメタデータやヒストグラムを見ると、500nitを超えるのは、ごくごく限られた一部のエリアであることが分かる。
それならばピーク輝度を500nitに制限するのと引き換えに、UB9000の高精度トーンマップを使って、全体の階調性や色再現性を向上させる方が良いのではないか? V9Rとのコラボレーションで暗部階調がこれでもかと掘り起こされる様を見てしまうと、余計にそう思えて仕方がない。
そこで実験。UB9000のメニュー画面で接続機器を「高輝度プロジェクター」に設定し、500nitにトーンマップされた信号をX930へ入力してみる。「HDRエンハンサー」はもちろんオフ。超解像処理は「映画プロ」と同じ値に設定した。
まずは『マリアンヌ』UHD BDを使って、UB9000+V9Rのデモでは必ず驚きの声が上がる、1:25:15からの夜間空襲のシーンをチェックした。おぉ、狙い通りではないか。「映画プロ」よりも暗部の見通しが俄然良くなって、急に夜目がきくようになる感覚だ。
『君の名は。』はどうだろう。こちらもチャプター2冒頭(01:34)からの、瀧と三葉が彗星を見上げる夜空の階調や、濃紺の発色にアドバンテージが見て取れる。ところが、デイシーンになるとデメリットも顕になってくる。ヒストグラムでは500nit以下のシーンであるにも関わらず、明部が必要以上に寸詰まってしまうのだ。おそらく他の作品でも明るいシーンでは同じ結果になるだろう。
どうやらREGZAがUB9000とコラボレーションするには、JVCプロジェクターと同じように、受け側にも専用にチューニングされた500nitモードが必要ということらしい。しかし上手く追い込めば、暗室での映画鑑賞には間違いなくメリットがありそうなので、是非ともファームウェアアップデートでの対応をリクエストしたい。
なにせ歴史を紐解けば、同じくパナソニックが開発したMGVCディスクに、事実上初めてフル対応を果たしたのは、12bit伝送が自慢のREGZAだったのだ。そんな前例もあるだけに否が応でも期待してしまうではないか。