REGZA X930の実力を画質マニアが検証
“有機ELテレビ界のポルシェ” REGZA新モデルに驚嘆。「完璧画質」にはさらに先があった!
■肌色の表現能力もさらに向上
次に暗部にも注目してみよう。すると、電車のヘッドライトが届かない暗闇の中にX920との違いが確実に見て取れる。暗部の色相が時折グリーニッシュに転ぶクセについては、X910からX920になった時点で完璧に修正されたと思っていた。
ところがX930の漆黒を目の当たりにすると、前回のレビューで安易に“完璧”という言葉を使ったことを反省せざるを得ない。これは最新パネルの開口率と透過率が、昨年より若干ではあるが向上したことと無関係ではないだろう。S/Nが上がり、擬色の発生が抑えられているのだ。
このことは暗部だけでなく中間輝度、特に人間の眼に敏感なスキントーン(肌色)の再現性にも大きな恩恵をもたらす。ここでディスクを私のリファレンスである『君の名は。』UHD BDにチェンジ。実はこの作品、キャラクターの肌色の描き分けが非常に難しい。
特に01:59付近、『君の名は。』のタイトルバックが出た直後に瀧と三葉がこちらを向く連続ショットは、一見何気ないシーンだが桁違いに難易度が高い。皆様の環境ではどのように映っているだろうか? 瀧は土気色、三葉は貧血気味の顔色になってはいないだろうか? 私自身、これまでに何度もX910やX920で調整を試みたが、このカットだけは最後までBVM-X300のような肌色が出せず、もはや民生機では無理なのだろうと諦めていた。
ところが、このX930と来たらどうだ! 二人の顔色は明らかにBVM-X300を彷彿させる血色の良さではないか! 単に赤味がかっているというような低レベルの話ではない。スキントーンはあくまで中庸なのに、キャラクターの全身に血が巡り、活き活きと動き出すようなこの感覚。RGBW方式の色再現もここまで来たのか。
実は住吉氏にとってもこのシーンはずっと鬼門だったそうだ。今回パネルが新しくなったことで、映像チューニングの幅が拡がり、ようやくこの肌色が出せるようになったとのこと。民生機では無理と勝手に決めつけていた自分の浅はかさを恥じた。
■「放送プロ」モードは「放送画質の歴史におけるマイルストーンだ」
前回のX920で筆者を驚かせたもうひとつの映像モードが「ライブプロ」だ。元々は「ビデオ撮影のコンテンツ全般を20ルックス以下の暗い環境で視聴するためのモード」という位置付けだが、徹底したニュートラル基調であり、特に放送系との相性は抜群。「明るさ検出」と組み合わせて使えば、暗室から外光が降り注ぐリビングまで、普段使いはコレひとつでOKという万能モードだった。しかし、ネーミング的に用途が分かり難かったのも事実。そこでX930では、その名をズバリ「放送プロ」に改名したのだ!……と思ったら、全然違うらしい。
「放送プロ」は、明らかに「ライブプロ」とベクトルが異なっている。端的に言うと「暗室で放送系コンテンツを観るための専用モード」になったのだ。HDRエンハンサーの振る舞いとは関係なく、最初から輝度や彩度を抑え気味にしてモニターライクな画作りに徹している。視聴したのは昨年の『紅白歌合戦』を録画したBD-RE(4K/60P/HLG)だ。
鳥肌が立った!大トリはサザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』。ステージ上は全員参加のお祭り状態だ。ロングショットでは出演者が超精密なミニチュアになってステージ上を動き回り、月並みな表現で恐縮だが、手を伸ばせば一人ひとりに触れられそうなリアリティである。
必要最小限に留められたノイズリダクションのさじ加減も秀逸で、MPEG圧縮される前の送出映像を覗き込んでいる気分だ。桑田さんのアップにいたっては、テレビの映像を観ているというよりも、自分がハンディのカメラマンになって、NHKホールで生中継しているかのような極限の緊張状態!手に汗握るとはまさにこのことである。
筆者のボキャブラリーでは上手く伝えられないのがもどかしいが、つまりは「放送プロ」も「映画プロ」と同様に、「眼前に広がる光景はもはやフラットディスプレイが映し出す電子映像の範疇ではない」のである。これは放送画質の歴史におけるひとつのマイルストーンだ。8K放送を否定する気はないが、動画解像度やコントラストの低い液晶テレビではこの画質は逆立ちしたって出せないだろう。