[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第256回】
ハウジング素材の違いでイヤホンの音はどう変わる?
ハウジング素材については、音を響かせるのか抑えるのか、そのために硬い素材と柔らかい素材のどちらが良いのか、ハウジングで音を作り込むのかそれともハウジングが音に及ぼす影響を最小化していくのか…など、様々なポイントや手法がある。
その選択肢となる素材の系統をまたざっくり三つに分けるとするなら、
●金属
●合成樹脂
●木材
となるだろうか。これらに当てはまらないイレギュラーなものもあるだろうが、今回は置いておく。
●金属
総じて特に頑強で樹脂や木材より比重も高く、基本的には頑強さと重さで音の「余計な響きを抑える」方向で力を発揮する。
しかし響きを完全な無に抑え込めるわけではないので、響きの抑え込み方というか響きの残し方には金属の種類ごとの癖というものがある。
まとめると「音の響きを抑える方向の素材だが、金属の種類によってその抑え方=響きの残し方を調整できる」みたいな捉え方をしてくのが適当だろう。
●合成樹脂
いわゆるプラスチックの類い。この枠は総括するのが難しい。というのも種類ごとの特性の違いが金属や木材以上に大きいのだ。
例えば、成形と大量生産がしやすいというだけの理由で使われているような種類のものは、厚みや構造が工夫されていない限りは、悪い意味で「プラスチックっぽい響き」と言われるようなそれが盛大に乗っていたりする。
一方で、カスタムイヤーモニターで多く使われるアクリル樹脂には、イヤモニ自体の設計もちゃんとしているからという面もあるだろうが、そういった悪評はあまりない。
またいわゆるカーボンも、カーボンの繊維を主にエポキシ樹脂で固めた「炭素繊維強化プラスチック」であるから、広義としての合成樹脂素材には含めてよいかと思うが、これもハイエンドな素材として認知されている。
●木材
これも当然種類ごとの特性の違いはあるが、イヤホンのハウジングおいては総じて、「響く」というよりも、意図的に「響かせる」素材として使われる例が多い。自然素材故の整形の難しさや個体差といった製造上のデメリットを飲み込んでまであえて木材を使う大きな理由として「自然素材ならではの心地よい響き」があるからだ。
しかし水に沈むレベルで比重が重い木材もあったりするし、そういった木材はスピーカーの制振インシュレーターに使われていたりもする。響きを抑える方向で力を発揮する木材、そちら目的で使われている例もあるわけだ。
■で、実際ハウジングで音はどう変わる?Acoustuneイヤホンで確認
最後に、実際の製品の音をチェックし、ハウジング素材での音の傾向の違いを確認してみよう。サンプルにさせてもらう製品は前述のようにAcoustune「HS1697TI」「HS1677SS」「HS1657CU」だ。
素材別の音の違いのサンプルとしてこのシリーズをピックアップするのには、理由がある。
まずは当然、同一シリーズ内にハウジング素材違いがラインナップされていること。こちらの場合、チタン、ステンレス、ブラスだ。金属筐体としてよく使用されるアルミがないのは残念だが仕方ない。
ただし、このシリーズに限らずだが、「ハウジング素材が違う=ハウジング素材の他は同じ」ではないことは要注意。
このシリーズの場合はハウジング素材以外の、他の仕様はほぼ同等と思われるが、そうではないものもあるだろう。また仕様上に明確な違いがなくても、モデルごとの音作り、チューニングに違いがある場合もある。例えばノズルに入れる音響フィルター、ハイブリッドなどでネットワーク回路がある場合はその設定などだ。
しかし、そのようなチューニングの違いも「ハウジング素材ごとの持ち味をチューニングでさらに引き出す」という意図によるものであることが多い。高域の響きが美しい素材なら、そこを際立たせるために高域の輝きを生み出す配線材を組み合わせる、豊かな響きの代わりに低域が膨らみがちな素材であれば、ネットワークで低域を控えめに調整して豊かでいてバランスも整った響きにするとか。
なので、ハウジング素材の違いだけを聴くのは無理といえる。モデルごとのチューニングの違いまで含めて聴いて比較するしかないにしても、ハウジング素材の個性は十分に感じとれるはずだ!……と期待している。