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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第256回】

ハウジング素材の違いでイヤホンの音はどう変わる?

公開日 2020/09/05 06:40 高橋 敦
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もう一つの大きな理由は、Acoustuneイヤホンの大きな特徴である「ドライバーを格納する音響チャンバー部とリケーブル端子等を搭載する機構ハウジング部等を完全に分離したモジュラー構造」だ。

イヤーピースからの縦軸が音響チャンバー部分、それを囲むようにリケーブル端子などが搭載されているのが機構ハウジング部分

その構造を生かし、機構ハウジング部分の耳に当たる側をカスタムフィット化する3Dカスタムフィットインターシェル「ST1000」もオプション提供

ここまでに、イヤホンのハウジングには外装や骨格という「構造」の役割とドライバーの基部と音響空間としての「音響」の役割があると散々話してきたが、このシリーズでは、「音響」の役割を担う部分が「音響チャンバー」として独立している。その音響チャンバー部分の素材違いをバリエーション展開しているのだ。

つまり、ハウジングの音響的役割に着目し、そこを最大限に生かすために設計されたイヤホンと言える。ハウジングの音響にハウジングの素材が与える影響を聴くためのサンプルとして、実に適当なシリーズというわけだ。

音色も違うし立体感の雰囲気も違う!
ではそれぞれのハウジング素材について説明と、実際に聴いてみての印象を述べていこう。
試聴曲の一部は以下の公式MV参照。
悠木碧「レゼトワール」/早見沙織「yoso」/Mahalia「Karma

●HS1697TI:チタン「浮き出る立体感」
<チタンについて>
チタンと呼ばれる金属類は、「アルミ類よりは重いが鉄類よりは軽い」と金属としては軽量な部類でありながら強度は高いという、特性は良いとこばかりっぽい金属。だが加工性はいまひとつで、その採用例はハイエンドアイテムが中心。ただ3Dプリンティング技術などの発展により採用例は増えつつある。

<音の印象>
悠木碧さんの声をいくつも重ねて構築されている「レゼトワール」はその声の質感や細やかな響きを確認しやすい音源。HS1697TIで聴くと質感はややドライ、響きはさらさらとした粒子感にて豊かに感じられる。その粒子感を背景に、ひとつひとつの音の実像がその前にすっと浮かび上がることも印象的。現代的なR&B/ヒップホップサウンドなマハリアさん「Karma」のドラムスやベースは重みよりも抜け感が際立ち、ヒップホップ的な感触の方が強まる。

●HS1677SS:ステンレス「彫り込む立体感」
<ステンレスについて>
比重は鉄、鋼鉄類と同程度なので、イヤホンのハウジングに使われる金属素材としては重い部類。素材自体の強度に頼って薄く仕上げてある程度軽量化することも可能だろうが、やや肉厚で仕上げてその重みを生かし、制振性を高める方向で使われている例が多い印象だ。

<音の印象>
早見沙織さん「yoso」の巧みに音を重ねたアレンジを、音の響きよりもその音の本体、実像を際立たせるフォーカス感ですっきりくっきりと際立たせる。音の彫りが深くはっきりしていることが印象的だ。ドラムスもアタック感を筆頭に音のバシッとした立ち方がポイント。マハリアさん「Karma」ではそのサウンドのうちエレクトリックな成分を特に生かし、緩さやダルな雰囲気は控えて、現代的な構築感を押し出す。

●HS1657CU:ブラス「沈み込む立体感」
<ブラスについて>
銅と亜鉛の合金で、日本語名は「真鍮」あるいは「黄銅」。金管楽器のように複雑な形や機構の製造に使われていることからもわかるように、加工性の良好さはトップクラス。比重はステンレスと同程度から少し重い程度で、硬さは金属の中では柔らかい部類。このことから制振性に優れると考えられ、また、楽器に使われている印象からか響きの質も好ましいものとされているようだ。

<音の印象>
悠木碧さんの声の鈴鳴り感、響きのしっとり感を特に引き出す。響きの湿度感というのは、そこのドライさが特徴的なチタンと対になる雰囲気を醸し出す要素だ。音の実像は、そのしっとりと豊かな響きに溶け込みあるいは沈み込むように適度になじんで、それでいてぼやけない絶妙な立体感を見せてくれる。マハリアさん「Karma」は全体にややダークな雰囲気とボディブロー的な重みを感じさせ、クラブ的密室感の印象が強まる。

試聴してみて推測する限り、
●軽く硬いチタンは幅広く素直に響きを抑える、あるいは響きの残し方が綺麗に整っている
●重く硬いステンレスはその重さで全体の響きを抑え、同時にその硬さが高域側の響きに現れる
●重く柔らかいブラスはその重さで全体の響きを抑え、その柔らかさで高域の響きを吸収し、相対的に低域側が際立つ
といった感じだろうか。

いずれにせよ、どれが良い悪いや、どれが上で下ということではなく、素材それぞれの個性を感じることができた。ちなみに、「個性」の視点で見ると、その音が気に入るならば、ブラス素材の「HS1657CU」のコストパフォーマンスは圧倒的に高い。このシリーズにおいては価格差に惑わされずに自身の音の好みで選ぶことが実に肝要だ。



というわけで今回は、イヤホンのハウジングの役割を考え、その役割のうち音響的な部分について特に掘り下げ、その音響に素材が及ぼす影響について考え、そして実例として金属の素材違いバリエーションを展開するシリーズをチェックしてみた。

もちろん、ハウジング素材ばかりをやたらと重視してイヤホンを選ぶなんてのは基本的にはおすすめはしない。しかしハウジング素材はイヤホン各製品のセールスポイントとしてプッシュされることも多い。そこの読み取り方をわかっていればイヤホン選びに大いに役立つはずだ。

なお、本記事は「自分は素材フェチだからハウジングがチタンなら無条件に好きだ!買う!」みたいな無茶苦茶な買い方を止めるものではない。それもありだ!


高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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