【特別企画】開発陣の声とともに徹底解剖
一度聴いたら戻れない! オーディオテクニカ真空管HPアンプ&DACは新世代ヘッドホンを鳴らし切る
「真空管の音には、いちど聴いたら戻れなくなる魅力があります。真空管ヘッドホンアンプは以前から企画に挙がっていて、開発現場では2015年くらいからずっとアイデアを温めてきたものです。ATH-ADX5000などのフラグシップ級ヘッドホンが成功したことで、それを鳴らせる製品がほしいという声も多くあって、製品化をスタートできました」
このコンセプトを受け、開発担当の入井氏はカタチを追い込んでいく。
「とはいえ、ハイレゾ音源やバランス駆動への対応や、デスクでの利用にも配慮するなど、現代的なシチュエーションに対応するべく様々な工夫を盛り込みました。
なかでも最大のポイントとなるのが、薄型、縦置き可能な筐体でしょうか。真空管を使用したヘッドホンアンプの場合、放熱の問題とともに、その存在を積極的に主張するためにも筐体上面に飛び出すカタチで真空管を配置するのが一般的です。しかし、AT-BHA100では縦置きが可能な筐体にするため、真空管を内部に90度寝かせたカタチで配置しています。加えて、回路がバランス構成となっているため、真空管も4つ内蔵する必要があり、レイアウトとともに、基板にも工夫を凝らすなど放熱にはかなり注力しています。
電源部もアダプターを採用して筐体外に出すなど、コストパフォーマンスのよいレイアウトを採用していますので、音質面で価格以上のクオリティを持ち合わせています」と自信を覗かせる。
AT-BHA100本体には、上下左右のパネルのすべて、その中央あたりに放熱用のスリットが入っているが、これがなかなかに絶妙で、本体はほんのりと熱くはなるものの、触れないほどの温度にはならない。「実は、縦置きした方が放熱効率がよかったりするんです。設置場所にもよりますが、縦置きもぜひ試していただきたい」(足達氏)とのことだ。
なお、AT-BHA100はデジタル部を内蔵していない。入力はRCAとXLR 3pin×2のアナログ2系統のみ。フロントパネルのスイッチで、入力を切り替えることができるようになっている。そのため、AT-BHA100と組み合わせる別売の据置型DAC、AT-DAC100も同時発売されている。
ある程度ノウハウの固まっているアナログパートと、毎年のように進化し続けるデジタルパートでは、製品として旬の期間が異なってくる傾向がある。長年使い続けてほしい据置型の上級製品としては、一体化に抵抗があったのも事実だろう。また、デジタル部がアナログ部に与える音質的影響は意外と大きく、そこに少なからず対処を行わなければならず、そういったコストを掛けるくらいだったらいっそ別の製品にしたほうがよい、というのは頷ける判断だ。
ちなみに、真空管にはスロバキアJJ ELECTRONIC社製の「ECC83S」が採用されている。しかも、回路ごと合計4本を贅沢に使用している。この真空管は、音質面でも耐久性の面でもかなり信頼が置ける存在で、絶妙なチョイスといえる。
また、オペアンプには新日本無線社製の「MUSES8820」を採用。オペアンプによって「真空管らしさ」が失われてしまうこともあり、慎重に選択した部分だという。
真空管を4本活用するために、大容量の電源も必要でニチコン社製ケミカルコンデンサーを採用。本体をコンパクトにしつつ、ノイズ源となる要素を遠ざけるためにACアダプターを筐体外に持っていくことなど、電源まわりにも工夫を凝らしている。
そのほかにもWIMA社製フィルムコンデンサー、神栄キャパシタ社製フィルムコンデンサーなど、オーディオグレードの高音質パーツがひとつひとつ吟味されて搭載されている。シンプルな内部構成の製品だけに、パーツ選択は音質にも多大なる影響を与えるところだ。
さらに製造工程においても、真空管は約2日間エージングしてから左右のばらつきがないようにアナライザーで特性を測定、製品に組み込むなど、徹底した品質管理が行われるという。
■真空管アンプにマッチするチューニングを施した「AT-DAC100」
もうひとつ、「AT-DAC100」はオーディオテクニカとして初の据え置き型DAC。「AT-BHA100」とマッチするデザインが採用され、縦型設置も可能。当然のごとく、「AT-BHA100」との組み合わせを前提としたサウンドチューニングが施されているが、単体でも利用できるようになっている。そのためか、音質のカスタマイズがしやすいよう、一般的に選択肢の多いRCAケーブルで接続するようになっている。
入力はUSB Type-CおよびUSB Type-B、さらに光/同軸デジタル端子という多数の端子が用意され、PCだけでなくポータブルDAPやテレビなど、幅広い機器を接続できるようになっている。
DACにはAKM社製「AK4452VN」を採用し、最大768kHz/32bitのリニアPCMと22.4MHzまでのDSDに対応する。対応スペックとしても、長期間色あせることのない充分な内容を持ち合わせている。
とはいえ、最大の注目は「AT-BHA100」とのマッチング、真空管アンプにマッチしたチューニングが施されていることだろう。
「真空管アンプは、DACの高周波ノイズの影響を受けやすい傾向があります。「AT-DAC100」は様々なノウハウをつぎ込むことで、DACの高周波ノイズ流出を抑え、ハイレゾ音源ならではの高品位なサウンドを楽しむことができるようになっています。ぜひ、「AT-BHA100」との組み合わせならではのサウンドを聴いていただけたらと思います」(入井)