真空管アンプが未体験の方にも聴いて欲しい一台
トライオードの“集大成”と言える管球アンプ。JUNONEのプリメイン「JUNONE 845S」を聴く
■ヴォーカルは表現力がリアル。ジャズは圧倒的な鮮度で再生
音元出版の試聴室で845Sの実機と対面すると、トライオードのスタンダードモデルと比べ大きく迫力がある。しかしシャーシとトランスのデザインマッチングが取れており、オーディオ機器としてとにかく格好が良い。実はこのデザインになるまで5台以上のサンプルを製作したらしい。
今回はスピーカーにモニターオーディオの「PL200 II」を用いた。試聴ソースはCD、アナログ、ハイレゾと幅広く利用したのだが、聴き手に猛烈に訴えかけてくる圧倒的な845Sの音質には驚嘆した。
CDで聴いたメロディ・ガルドーの最新作、サンセット・イン・ザ・ブルーの日本版ボーナストラック『Little Something』は、イントロのギターが鳴った瞬間に感動に震えた。なんというリアルかつダイナミックな音だろうか。彼女とスティングのヴォーカルは、背丈が感じられるようなリアルな表現力。バックミュージックは全帯域が力感とスピードに満ちている。
ハイレゾファイルからは、ヤン・リシエツキ『メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲』を再生したが、小レベルの音が大雑把にならず、サウンドステージや各楽器の持つ微妙なニュアンス表現が素晴らしい。
最後に聴いたアナログディスク、マイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』(オリジナルモノ盤)は、中域を中心にエネルギーが集中し、圧倒的に鮮度が良い音である。筆者は試聴取材という事を完全に亡失してボリュームをどんどん上げ、カインド・オブ・ブルーの世界に身を任せた。
トライオードのアンプは創業当時より、多くのオーディオファイルが楽しめるようコストパフォーマンスの良さを貫いてきたが、安いパーツを探すのではなく、経験の中からチョイスされたパーツをロットでストックするなど並々ならぬ努力で安価を実現してきた。
対して、山撫一氏の名前を冠したJUNONEブランドの本アンプは、その制約を取り払い、できる限りの高品質パーツを使用して内部構成、音質、デザインまで同氏が納得のいくように作り上げている。
最後にまとめると、845Sは「MUSASHI」と「TRZ‐300W」の良い部分を集めたような音で、筆者が個人的にも真空管アンプの導入を意識するほど魅力的だった。真空管は音が柔らかいと思っている方や、トランジスターアンプしか経験したことのない方にも注目して頂きたい出色の真空管アンプである。
<Specification>
●回路型式:A級 シングル●使用真空管:845×2、PSVANE WE300B×2、12AT7×2、12AX7×2●バイアス方式:固定バイアス●定格出力:22W+22W(8Ω)●周波数特性:25Hz-36kHz (-3dB)●SN比:85dB●入力端子:RCA×4、MAIN IN×1●入力感度/インピーダンス:LINE:220mV/100kΩ、MAIN IN:1,500mV/10kΩ●スピーカー出力端子:1系統(4-8Ω)●消費電力:330W●外型寸法:430W×277H×410Dmm●質量:45kg●付属品:真空管ボンネット、電源ケーブル(TR- PS2) 、リモコン●取り扱い:(株)トライオード
本記事は季刊オーディオアクセサリー vol.179 WINTERからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから