【特別企画】銀河通信 -後編-
オーディオ・ノート「GINGA」の心臓部、マルチエレメントな軸受け構造のこだわりとは
銀河の旅もいよいよ最終回だ。オーディオ・ノートが誇る超重量級のハイエンドターンテーブル「GINGA」。その揺るぎのない安定感と、天空で奏でられるような妙なる音楽を生み出すこだわりのパーツたちを検証してきた。
AUDIO NOTE
アナログプレーヤー「GINGA」
7,854,000円(税込)
※取材時はトーンアーム (KONDO V-12) 付属
■「ヤジロベエ」の原理を応用し重量級プラッターをなめらかに回転
今回の主役は心臓部の軸受けである。どうやって18kgものプラッターを支え、糸ドライブによって静粛かつ滑らかな回転を得ているのか。外からは見えない構造を解き明かしたのが軸受け透視図だ。
物量を投入したリジッドなベースに、25mmφという大型のシャフトが立っている。このセンターポールはステンレス製だ。その上に軸受けが乗り、タングステンのヘッド(ブロック)を介して砲金製のスピンドルローターを支持するという贅沢な構造である。ローター部は斜めにカットされ、そこに巨大なアルミプラッターがはめこまれる仕組み。寸分の隙間もなく一体化されているのだ。
前回も触れたが、こうして複数の素材を適材適所で使い分けるマルチエレメントは、GINGAだからこそのこだわりである。読者の方も気づいたと思うのだが、支点の位置がずいぶん高いのと、そもそも軸受けをここまで太くしたのはなぜか。
開発担当の廣川嘉行さんは言う。「ハイポジション軸受け構造によって、ドライブ糸による水平方向の負荷を軽減しています」。ならば低くすべきだろう。と思うのは素人考えで、かえって一方に傾きやすいそうだ。
ヒントは、「ヤジロベエ」だった。高い支点によって自然に水平バランスをとりやすくしているのだ。もう少し補足しておくと、支点の高さに合わせて、実は糸かけの位置を決めていた。あれだけの重量だから、ちょっとした横方向の傾きが加わるとシャフトとこすれて摩擦が発生する。低すぎても高すぎてもだめ。支点の高さは設計のキモになるそうだ。軸受けが太いのも強度のためだけではない。大型スピンドルローターとの摩擦面積が増え、そこに粘性をもつオイルを充填して、滑らかで十分な制動効果をもたせているという。
スピンドルローターとセンターポールのみの状態で実演してもらったが、スイスイ回り続けるかと思いきや3〜4回転で止まってしまう。これはマニュアル車のエンジンブレーキをイメージすればよい。カーブでクラッチをきるとスーッと流れて不安定だが、重量プラッター+糸ドライブも同様で、「無制動だと流れるような綺麗さや雄大な再生にはなるのですが、アタックに対して大らかな傾向。ガラードなどのアイドラーっぽさというか、動物的な躍動感を持ち駆動力と制動のバランスをとった理想のサウンドをGINGAに求めたのです」。
ここで音質のカギとなる「超硬ボール」と「オイル」について補足したい。どちらも吟味に吟味を重ね、現状でのベストを選定したものだ。サンプルを見せてもらったが、初期の小径タングステンからサファイヤ、ダイヤなどの試作を経て、大口径タングステンと高炭素クロム鋼に至っている。V溝にボールが乗り、半分ほど頭が見える状態だ。
一方、オイルについては独自にメーカーと共同開発した特殊オイルで、これも音を聴きながら5種類ほど、濃いものやさらさらした粘性を変えたものを比較して最終決定した。ほぼノーメンテで、10年以上は問題なく動作するということなので安心だ。
■SMEのアームをベースにさらに細かくチューニング
最後に付属のトーンアームである。初代機はSMEの312で、2世代目からSMEのシリーズV-12だが、SMEから提供を受け、細部に改良やチューニングを加えてKondo-V12としている。
カートリッジは付属せず、ウエイトの取りつけ方を変更したり、ネジを銅ネジに変更したり(4ヵ所)、ケーブルを銀線化したものだ。「取りつけ方の改良では音の暴れがおさまり、静けさが向上しました」。Kondoアームについては、SMEからの供給が停止されたため、それにかわる正規品を現在検討中とのことだ。GINGAに相応しい新型アームを期待しよう。
ターンテーブルユニットの「GH-02t」とモーターユニットの「GH-01m」からなる糸ドライブ方式のターンテーブルで、重量は合わせて62kg。価格はアームつきで、7,854,000円(税込)だ。そのパフォーマンスを最大限に引き出すべく、オプションで専用のストーンベース(62kg)561,000円(税込)も用意されている。
現在までの流れをみると、先代の近藤公康社長(故人)の意思をついで、2009年に初代GINGAを国内発表。2012年には搭載アームをKondo-312からKondo-V12に変更した「GINGA 2012年モデル」が発表された。開発テーマは繊細感や静けさと音像の厚みである。
続いて今日まで続く「2015年モデル」では、主にヴォーカルの人肌感。さらにウエット感や温度感の向上をめざして真鍮製チューニングダンパーや軸受け、ボールヘッド部を改良している。さらに細かな相違点は取材メモとして詳細に廣川さんからご提供いただいた。
「妥協を排し必然から生まれた機能美、凛とした空間に躍動的に舞う旋律」。これは製品カタログからの引用だが、感嘆するのは素材や構造など、そのどれもが音質向上のターゲットがはっきりしている点だ。やみくもではない。こういう音にしたいからこうする的な、明確な目標に向かってひたすら研鑚に励む。感性と深い経験に裏打ちされたもの作りの本質がそこにある。時空を越えたアナログの美音を奏で続けて欲しい。
(協力:オーディオ・ノート)
本記事は季刊アナログ vol.67からの転載です。本誌の詳細及び購入はこちらから
アナログプレーヤー「GINGA」
7,854,000円(税込)
※取材時はトーンアーム (KONDO V-12) 付属
■「ヤジロベエ」の原理を応用し重量級プラッターをなめらかに回転
今回の主役は心臓部の軸受けである。どうやって18kgものプラッターを支え、糸ドライブによって静粛かつ滑らかな回転を得ているのか。外からは見えない構造を解き明かしたのが軸受け透視図だ。
物量を投入したリジッドなベースに、25mmφという大型のシャフトが立っている。このセンターポールはステンレス製だ。その上に軸受けが乗り、タングステンのヘッド(ブロック)を介して砲金製のスピンドルローターを支持するという贅沢な構造である。ローター部は斜めにカットされ、そこに巨大なアルミプラッターがはめこまれる仕組み。寸分の隙間もなく一体化されているのだ。
前回も触れたが、こうして複数の素材を適材適所で使い分けるマルチエレメントは、GINGAだからこそのこだわりである。読者の方も気づいたと思うのだが、支点の位置がずいぶん高いのと、そもそも軸受けをここまで太くしたのはなぜか。
開発担当の廣川嘉行さんは言う。「ハイポジション軸受け構造によって、ドライブ糸による水平方向の負荷を軽減しています」。ならば低くすべきだろう。と思うのは素人考えで、かえって一方に傾きやすいそうだ。
ヒントは、「ヤジロベエ」だった。高い支点によって自然に水平バランスをとりやすくしているのだ。もう少し補足しておくと、支点の高さに合わせて、実は糸かけの位置を決めていた。あれだけの重量だから、ちょっとした横方向の傾きが加わるとシャフトとこすれて摩擦が発生する。低すぎても高すぎてもだめ。支点の高さは設計のキモになるそうだ。軸受けが太いのも強度のためだけではない。大型スピンドルローターとの摩擦面積が増え、そこに粘性をもつオイルを充填して、滑らかで十分な制動効果をもたせているという。
スピンドルローターとセンターポールのみの状態で実演してもらったが、スイスイ回り続けるかと思いきや3〜4回転で止まってしまう。これはマニュアル車のエンジンブレーキをイメージすればよい。カーブでクラッチをきるとスーッと流れて不安定だが、重量プラッター+糸ドライブも同様で、「無制動だと流れるような綺麗さや雄大な再生にはなるのですが、アタックに対して大らかな傾向。ガラードなどのアイドラーっぽさというか、動物的な躍動感を持ち駆動力と制動のバランスをとった理想のサウンドをGINGAに求めたのです」。
ここで音質のカギとなる「超硬ボール」と「オイル」について補足したい。どちらも吟味に吟味を重ね、現状でのベストを選定したものだ。サンプルを見せてもらったが、初期の小径タングステンからサファイヤ、ダイヤなどの試作を経て、大口径タングステンと高炭素クロム鋼に至っている。V溝にボールが乗り、半分ほど頭が見える状態だ。
一方、オイルについては独自にメーカーと共同開発した特殊オイルで、これも音を聴きながら5種類ほど、濃いものやさらさらした粘性を変えたものを比較して最終決定した。ほぼノーメンテで、10年以上は問題なく動作するということなので安心だ。
■SMEのアームをベースにさらに細かくチューニング
最後に付属のトーンアームである。初代機はSMEの312で、2世代目からSMEのシリーズV-12だが、SMEから提供を受け、細部に改良やチューニングを加えてKondo-V12としている。
カートリッジは付属せず、ウエイトの取りつけ方を変更したり、ネジを銅ネジに変更したり(4ヵ所)、ケーブルを銀線化したものだ。「取りつけ方の改良では音の暴れがおさまり、静けさが向上しました」。Kondoアームについては、SMEからの供給が停止されたため、それにかわる正規品を現在検討中とのことだ。GINGAに相応しい新型アームを期待しよう。
ターンテーブルユニットの「GH-02t」とモーターユニットの「GH-01m」からなる糸ドライブ方式のターンテーブルで、重量は合わせて62kg。価格はアームつきで、7,854,000円(税込)だ。そのパフォーマンスを最大限に引き出すべく、オプションで専用のストーンベース(62kg)561,000円(税込)も用意されている。
現在までの流れをみると、先代の近藤公康社長(故人)の意思をついで、2009年に初代GINGAを国内発表。2012年には搭載アームをKondo-312からKondo-V12に変更した「GINGA 2012年モデル」が発表された。開発テーマは繊細感や静けさと音像の厚みである。
続いて今日まで続く「2015年モデル」では、主にヴォーカルの人肌感。さらにウエット感や温度感の向上をめざして真鍮製チューニングダンパーや軸受け、ボールヘッド部を改良している。さらに細かな相違点は取材メモとして詳細に廣川さんからご提供いただいた。
「妥協を排し必然から生まれた機能美、凛とした空間に躍動的に舞う旋律」。これは製品カタログからの引用だが、感嘆するのは素材や構造など、そのどれもが音質向上のターゲットがはっきりしている点だ。やみくもではない。こういう音にしたいからこうする的な、明確な目標に向かってひたすら研鑚に励む。感性と深い経験に裏打ちされたもの作りの本質がそこにある。時空を越えたアナログの美音を奏で続けて欲しい。
(協力:オーディオ・ノート)
本記事は季刊アナログ vol.67からの転載です。本誌の詳細及び購入はこちらから