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【特別企画】理想のためにDACをすべて自社設計

LINN 新時代のフラグシップ「KLIMAX DSM」登場! ディスクリートDAC「ORGANIK」の実力とは

公開日 2021/05/25 12:24 山之内 正
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■旧KLIMAX DSと比較試聴。エモーショナルな表現力は別格

オーディオ用NASの音源を中心に再生音を確認した。今回はKATALYST仕様にアップグレードしたKLIMAX DSを比較のために用意し、まずその音を聴いたのだが、さすがにごく最近までフラグシップとして君臨していただけに再生音のグレードは高い。大植英次指揮、ミネソタ管弦楽団によるリムスキー=コルサコフ《道化師の踊り》は、金管楽器と低弦が放つ低音が空気をたっぷり含み、すべての楽器のアタックが正確に同期したときの音圧が一気に上がって爽快な気分になる。

大植英次指揮、ミネソタ管弦楽団「Exotic Dances from the Opera」(Reference Recordings)

新KLIMAX DSMに切り替えると、ステージ上の楽器配置が前後それぞれの方向に広がり、オーケストラを3次元に再構築したような立体感が生まれた。もともと空間情報が豊富な録音なのだが、ここまでの立体感を体験したことはなく、同じ音源でもプレーヤーの新旧でかなり印象が違う。遠い楽器はより遠く、近い楽器はより手前に音像が浮かび、余韻は部屋いっぱいに広がるのだ。その一方でオーボエやクラリネットなど主要な旋律楽器の定位はピンポイントで、まったくにじみがない。おなじみの録音をここまで立体的に描き分けるとなると一大事、あらためて聴き直すべき音源が無数に思い浮かぶ。

操作にはiPadの「LINN」アプリを使用

ローカルのプレイリストはもちろん、TIDAL等のストリーミングサービスとの連携も可能

ヴォーカルはジェーン・モンハイトとダイアナ・クラールを聴いたが、二人の声の音色の違いはもちろんのこと、それぞれの表情が目に浮かぶようなリアリティがあって、ライヴさながらに強く引き込まれた。これまで聴いたリンのプレーヤーのなかで、新KLIMAX DSMはエモーショナルな表現力が別格といえるほど深いと思う。

アルネ・ドムネラス《ライムハウス・ブルース》は正真正銘のライヴ録音だけに空気感の違いがとてもわかりやすい。新旧比較ではどちらも迫真の臨場感を引き出すが、たとえばスネアの皮の張り具合とか、クラリネットの息漏れなど、その場に居合わせないと実感しにくいような微妙な感触は新世代機の方が生々しく聴き取ることができた。

CNC切削マシンを新たに導入、アルミ削り出しで構成されたKLIMAX DSMのシャーシ部

ネトレプコが歌う《ジョヴァンナ・ダルコ》の「予言を告げた森よ」では、広い音域のソプラノのなかでどのフレーズにも付帯音らしきものがまったく乗らず、声のエコーとして届くフルートとの遠近の対比が鮮やかに決まる。10年ほど前の録音なので声質はいまと少し違うが、記憶に刻まれている当時のネトレプコの声が鮮やかに蘇ってきた。

非常に質感の高いガラスによるボリュームコントロール部。レコードのグルーヴからインスパイアされた表面仕上げも美しい

■プリアンプとしての性能も優秀。生気に満ちた音楽的な表現を聴かせる

アナログ入力にアキュフェーズの「DP-750」をつなぎ、CDプレーヤーからの外部入力についても音を確認した。AD変換後に独自のボリューム回路を経てORGANIK経由の音を聴くことになるのだが、複数の変換処理を経ているにも関わらず、その再生音は生気に満ちていて、音楽的な表情の豊かさと躍動感はネットワーク再生時と共通のアドバンテージがあるように感じた。

ペトレンコ指揮ベルリン・フィルの『マーラー:交響曲第6番』は深いステージに重心の低いオーケストラが広がり、各楽器群のエネルギーが拮抗するときの緊張感が尋常ではない。ローエンドはホールの暗騒音の帯域まで深々と伸びていて、フィルハーモニーの絶対的な空間の大きさを想起させる。スペース・オプティマイゼーション適用後に同じ音源を聴くと、冒頭の弦と金管の動きが目に見えて活発になり、クレッシェンドの上昇が説得力を増す。ORGANIK自体の空間再現力が従来のDACに比べて向上していることもあり、定在波の影響が強い部屋では確実な効果が期待できる。

『マーラー交響曲全集』(ベルリン・フィル・レコーディングス)

試聴室でリッキー・リー・ジョーンズ《浪漫》のディスクを見つけたので久しぶりに聴いてみた。力まないのに力強いヴォーカルとともにサウンドとして強く引き込まれたのがアコースティックギターで、「ラスト・チャンス・テキサコ」、「ホワイト・ボーイズ・クール」の鮮度と透明感の高さに時間を忘れ、しばし聴き込んでしまった。間違いなくデジタルディスクが回っているのに、最良のコンディションで再生したLPレコードの音を思い出させる。ディスクプレーヤーをデジタル接続でつなげば、またひと味違う音を引き出せるかもしれないが、それは次の機会に試してみることにしよう。

懐かしいCDを聴いていたら他にも70年代や80年代の音源を聴き直してみたくなり、KazooからTIDALにログインしてジェニファー・ウォーンズ《フェイマス・ブルー・レインコート》など数枚のアルバムをキューに登録した。高音質ストリーミング再生でも既存のKLIMAX DSに比べてヴォーカルやギターの鮮度が上がり、テクスチャー豊かな音に生まれ変わる。ORGANIKには聴き手の感性に作用する重要な要素を漏らさず伝える資質がそなわっているのだろうか。

TIDALの音源を聴くとき、自宅ではRoonを経由することも多いのだが、もちろん新KLIMAX DSMも従来機同様、Roonのデバイスとして指定でき、TIDAL MasterならMQAデコード後に独自形式のLINN Streamingで再生が始まる。こうしてメディアを横断し、自由に聴き続けられるのはネットワークプレーヤーの醍醐味だが、リンのDS/DSMはどんなときもそれがストレスなくできることが強みだ。使い勝手の良さは世代が新しくなってもなんら変わることがない。

ただひとつ気になるのは価格だ。そこは従来通りとはいかず、強い決断を迫られる金額に上がってしまった。もちろん決断できる人にとっては、きわめて価値ある選択になることは間違いないのだが。

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