【特別企画】「三種の神器」にこだわる
密閉型の魅力を徹底追求。クリプトンのスピーカー「KXシリーズ」4モデルに通じる理念を探る
クリプトンのピュアオーディオ・スピーカー「KXスピーカー」には、設計者・渡邉 勝氏の一貫した「三種の神器」と言われる思想がある。近年は、音質への妥協なくコストダウンに成功し、価格を抑えたシリーズも確立。今回、生形三郎氏が主力ラインナップ4モデルを聴き、それぞれの設計とサウンドについて、そして全てのモデルに一貫する魅力について分析した。
■ブランド設立当初から一貫する「三種の神器」へのこだわり
クリプトンのスピーカーは、渡邉 勝氏の一貫した思想で開発されることが最大の特徴である。コーラル(福洋音響)からキャリアをスタートさせ、ビクター時代には大ヒット銘機「SX3」の開発に深く関わった同氏は、SXシリーズの成熟期よりキーテクノロジーとして採用した、クルトミューラー製コーン紙、密閉型構造、アルニコマグネットという「三種の神器」をスピーカー作りに貫く。
現行のラインナップは主に4つで、上位ラインとして、クリプトンスピーカーの中核ともいえるKX-3の最新モデル「KX-3 Spirit」、同社集大成モデルのブックシェルフ型フラグシップ「KX-5PX」の2機種。
そして、カーボンポリプロピレン・コーンとフェライトマグネット磁気回路採用でコスト抑制に成功した「KX-0.5II」および「KX-1.5」の、計4モデルから構成される。今回は、その4つのスピーカーを同時比較試聴し、それぞれの魅力を炙り出すとともに、同社ならではのサウンドの魅力に迫ってみたい。
■コストやサイズの制約の中でもブラッシュアップを重ねてきたエントリー機
まずは、最新モデルとなるエントリーモデルの「KX-0.5II」から試聴したが、4モデルの比較を通してみて、これが単なるエントリーモデルにとどまらず、コストやサイズの制約の中でブラッシュアップを重ねた最新モデルならではの魅力を痛感させられた。
KX-0.5IIおよびKX-1.5は、振動板にカーボン・ポリプロピレンを用いることが、そのサウンドの大きな特徴づけとなっていることに間違いがない。開発において、紙同様の内部損失や剛性を兼ね備える素材を吟味してここに辿り着いたというが、やはり紙は、紙ならではの音色のキャラクターを帯びる。一方でこのカーボンポリプロピレンは、よりキャラクターが排された透明性を持つと筆者は感じる。
振動板サイズや内容積が異なる両者は、それこそが互いの魅力を生み出しているようだ。とりわけKX-0.5IIは、余裕やスケール感ではKX-1.5に譲るものの、振動板が小ぶりなことによるレスポンスの速さが最大の美点だ。例えばヴォーカル音像の口元の小ささ、ホール残響の明瞭さ、バチリと締まりの聴いたタイトなバスドラムの余韻のキレなど、小口径ならではのフレッシュな小気味よさやダイレクト感が堪能できるのである。これは、ある意味シリーズ中でも突出した魅力に感じた。また、声の帯域に仄かなまろやか味を帯びていることも素敵だ。
KX-1.5は、そこからさらに余裕が生まれ、低域の深さや量感が豊かで、音像や音場ステージもひと回りサイズアップする印象だ。よって、音のスピード感や音像の明瞭度はKX-0.5IIに分があると感じるものの、楽器同士の間合いの見通しや空間の広がりにさらに余裕を持つ、落ち着いた描写なのである。
「KX-0.5U」はこんな音!
レスポンスが速くフレッシュで小気味良いサウンド
「KX-1.5」はこんな音!
低域深く空間表現に余裕あり落ち着きの描写力
■クリプトンの原点「KX-3」をさらに洗練させたナチュラルな聴き心地
続いて、KX-3 Spiritは、まさに熟成のサウンドだ。振動板、そして磁気回路の違いが大きいと推察するが、紙素材独特の爽やかな音のキレが発揮され、実にナチュラルで聴き心地の良いオーガニックな質感だ。どこにも過不足ない達観の域と言えるほどに完成度が高いバランス良いサウンドなのだが、音楽の表現に温かみや親しみやすさがあり、優しさや包容力を感じさせる普遍的な魅力がある。
さすがKX-3という同社初のプロダクトであり、そこから幾重にも弛みないバージョンアップを経て辿り着いたこのプロポーションは、非の打ちどころのない作品と言える。とりわけ、そこに在るかのような歌声のリアルで自然な佇まいは極上である。
最後にKX-5PXを聴くと、より緻密で分解能の高いレファレンス的な音楽再生を楽しませた。ピアノフィニッシュによる高剛性や内部吸音構成の恩恵か、全体的にS/N感が驚くほど高く、再生に余裕がある。ヴォーカルをはじめとするメロディ帯域が実にクリアでタイトに浮かび上がってくるのだ。
KX-3 Spiritが芳醇傾向の飲み口とすれば、こちらはまさにキレの良い辛口。高解像で楽器ひとつひとつを緻密かつ鮮明に再現し、余韻も実にタイトに描き出す。音響的な描写性能として、KXシリーズでも随一のレベルとスケール感に達しており、まさに集大成というべきサウンドなのである。
「KX-3Sprit」はこんな音!
紙の振動板独特のオーガニックな質感優しさ、包容力のある音
「KX-5PX」はこんな音!
緻密で高S/N、レファレンス的な描写性能
■容積の制約を受ける密閉型に真摯に立ち向かってきた
以上の全4機種を同時に比較してみると、クリプトンが一貫した思想に基づくスピーカー開発を妥協なく透徹しているかがよく分かるとともに、その一貫性の中でも、4機種それぞれに対して、異なる魅力を、実に入念に練り上げているということを痛感させられた。中核モデルのKX-3 SpiritやフラグシップのKX-5PXはもちろんのこと、エントリーとなるKX-0.5IIやKX-1.5にも、それだけでしか聴けない得難い魅力があり、単なる下位モデルという枠にとどまらないのである。
密閉型スピーカーの魅力は、何よりも、濁りのない澄んだ音楽表現にあると言える。これは、バスレフやその他音道共振による、完全な制御が難しい低音共鳴から逃れられるからこそ実現できるもので、スピーカー再生のひとつの理想でもあると強く思う。しかしながら容積の制約があり、理想の実現が難しい形式でもある。
そのユニット開発に始まり、吸音材開発やその配置方法などで、その問題に立ち向かい、密閉型ならではの魅力を一般的なブックシェルフスピーカーサイズで実現させた。この技術と一貫性によるサウンドは、まさに現代国産スピーカーの中でも孤高の存在だと断言できる。
(提供:クリプトン)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.184』からの転載です
■ブランド設立当初から一貫する「三種の神器」へのこだわり
クリプトンのスピーカーは、渡邉 勝氏の一貫した思想で開発されることが最大の特徴である。コーラル(福洋音響)からキャリアをスタートさせ、ビクター時代には大ヒット銘機「SX3」の開発に深く関わった同氏は、SXシリーズの成熟期よりキーテクノロジーとして採用した、クルトミューラー製コーン紙、密閉型構造、アルニコマグネットという「三種の神器」をスピーカー作りに貫く。
現行のラインナップは主に4つで、上位ラインとして、クリプトンスピーカーの中核ともいえるKX-3の最新モデル「KX-3 Spirit」、同社集大成モデルのブックシェルフ型フラグシップ「KX-5PX」の2機種。
そして、カーボンポリプロピレン・コーンとフェライトマグネット磁気回路採用でコスト抑制に成功した「KX-0.5II」および「KX-1.5」の、計4モデルから構成される。今回は、その4つのスピーカーを同時比較試聴し、それぞれの魅力を炙り出すとともに、同社ならではのサウンドの魅力に迫ってみたい。
■コストやサイズの制約の中でもブラッシュアップを重ねてきたエントリー機
まずは、最新モデルとなるエントリーモデルの「KX-0.5II」から試聴したが、4モデルの比較を通してみて、これが単なるエントリーモデルにとどまらず、コストやサイズの制約の中でブラッシュアップを重ねた最新モデルならではの魅力を痛感させられた。
KX-0.5IIおよびKX-1.5は、振動板にカーボン・ポリプロピレンを用いることが、そのサウンドの大きな特徴づけとなっていることに間違いがない。開発において、紙同様の内部損失や剛性を兼ね備える素材を吟味してここに辿り着いたというが、やはり紙は、紙ならではの音色のキャラクターを帯びる。一方でこのカーボンポリプロピレンは、よりキャラクターが排された透明性を持つと筆者は感じる。
振動板サイズや内容積が異なる両者は、それこそが互いの魅力を生み出しているようだ。とりわけKX-0.5IIは、余裕やスケール感ではKX-1.5に譲るものの、振動板が小ぶりなことによるレスポンスの速さが最大の美点だ。例えばヴォーカル音像の口元の小ささ、ホール残響の明瞭さ、バチリと締まりの聴いたタイトなバスドラムの余韻のキレなど、小口径ならではのフレッシュな小気味よさやダイレクト感が堪能できるのである。これは、ある意味シリーズ中でも突出した魅力に感じた。また、声の帯域に仄かなまろやか味を帯びていることも素敵だ。
KX-1.5は、そこからさらに余裕が生まれ、低域の深さや量感が豊かで、音像や音場ステージもひと回りサイズアップする印象だ。よって、音のスピード感や音像の明瞭度はKX-0.5IIに分があると感じるものの、楽器同士の間合いの見通しや空間の広がりにさらに余裕を持つ、落ち着いた描写なのである。
「KX-0.5U」はこんな音!
レスポンスが速くフレッシュで小気味良いサウンド
「KX-1.5」はこんな音!
低域深く空間表現に余裕あり落ち着きの描写力
■クリプトンの原点「KX-3」をさらに洗練させたナチュラルな聴き心地
続いて、KX-3 Spiritは、まさに熟成のサウンドだ。振動板、そして磁気回路の違いが大きいと推察するが、紙素材独特の爽やかな音のキレが発揮され、実にナチュラルで聴き心地の良いオーガニックな質感だ。どこにも過不足ない達観の域と言えるほどに完成度が高いバランス良いサウンドなのだが、音楽の表現に温かみや親しみやすさがあり、優しさや包容力を感じさせる普遍的な魅力がある。
さすがKX-3という同社初のプロダクトであり、そこから幾重にも弛みないバージョンアップを経て辿り着いたこのプロポーションは、非の打ちどころのない作品と言える。とりわけ、そこに在るかのような歌声のリアルで自然な佇まいは極上である。
最後にKX-5PXを聴くと、より緻密で分解能の高いレファレンス的な音楽再生を楽しませた。ピアノフィニッシュによる高剛性や内部吸音構成の恩恵か、全体的にS/N感が驚くほど高く、再生に余裕がある。ヴォーカルをはじめとするメロディ帯域が実にクリアでタイトに浮かび上がってくるのだ。
KX-3 Spiritが芳醇傾向の飲み口とすれば、こちらはまさにキレの良い辛口。高解像で楽器ひとつひとつを緻密かつ鮮明に再現し、余韻も実にタイトに描き出す。音響的な描写性能として、KXシリーズでも随一のレベルとスケール感に達しており、まさに集大成というべきサウンドなのである。
「KX-3Sprit」はこんな音!
紙の振動板独特のオーガニックな質感優しさ、包容力のある音
「KX-5PX」はこんな音!
緻密で高S/N、レファレンス的な描写性能
■容積の制約を受ける密閉型に真摯に立ち向かってきた
以上の全4機種を同時に比較してみると、クリプトンが一貫した思想に基づくスピーカー開発を妥協なく透徹しているかがよく分かるとともに、その一貫性の中でも、4機種それぞれに対して、異なる魅力を、実に入念に練り上げているということを痛感させられた。中核モデルのKX-3 SpiritやフラグシップのKX-5PXはもちろんのこと、エントリーとなるKX-0.5IIやKX-1.5にも、それだけでしか聴けない得難い魅力があり、単なる下位モデルという枠にとどまらないのである。
密閉型スピーカーの魅力は、何よりも、濁りのない澄んだ音楽表現にあると言える。これは、バスレフやその他音道共振による、完全な制御が難しい低音共鳴から逃れられるからこそ実現できるもので、スピーカー再生のひとつの理想でもあると強く思う。しかしながら容積の制約があり、理想の実現が難しい形式でもある。
そのユニット開発に始まり、吸音材開発やその配置方法などで、その問題に立ち向かい、密閉型ならではの魅力を一般的なブックシェルフスピーカーサイズで実現させた。この技術と一貫性によるサウンドは、まさに現代国産スピーカーの中でも孤高の存在だと断言できる。
(提供:クリプトン)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.184』からの転載です