【特別企画】魂を揺さぶるサウンドに刮目
Meze Audio初の密閉型平面駆動ヘッドホン「LIRIC」レビュー。創業者が語る開発の苦難とこだわり
■MZ4ドライバーの「Phase-Xシステム」が開放的なサウンドをもたらす
LIRICの開発でもう一つ高いハードルだったのが音質面だ。メゼ氏が「EMPYREANの等磁力ハイブリッド配列型ドライバーを、密閉型であるLIRICに採用すると決めたとき、それがどれほど大変なのかよく分かっていませんでした」と述懐するように、開放型用のドライバーを密閉型に置き換えるのは容易ではなかった。
Rinaro社と再びタッグを組んで、等磁力ハイブリッド配列型ドライバーを密閉型に収めるためにダウンサイジングに挑み、さらにチューニングし直すこと実に2年。苦難の末に誕生したのが新開発のドライバー「MZ4」である。
MZ4は、EMPYREANの等磁力ハイブリッド配列型ドライバーと同様にデュアルコイルを採用する。同じ振動板内に異なる音域の2つのボイスコイルを配するもので、一般的な平面磁界ドライバーではできなかった中高域の振動効率を高め、クリアな高域再生を実現した。振動板には軽量で剛性の高い熱安定化ポリマーを用いている。
このMZ4の最大の特長が「Phase-Xシステム」の採用だ。密閉型ヘッドホンにおいて音質上の課題となる、位相歪みを最小限に抑えるという技術で、メゼ氏は「ドライバーから発生する密閉型特有の位相の乱れと歪を、ハウジング内にある逆相を利用して補正をかけることで、開放型で得られるようなリニアな位相特性を実現しています。結果としてLIRICは、密閉型でありながら、音質に妥協することなく360度に渡る空間表現力を達成することができました」と太鼓判を押す。
また、MZ4のような平面駆動ドライバーは、駆動時に大きなエアーフローがドライバー表面に発生するため、ドライバー内部に内圧と音の反射を同時に生み出してしまう。密閉型の場合、この内圧と音の反射のコントロールは重要な要素となり、同時に開放型から移行する際の大きな課題でもある。
試行錯誤の末、内圧のコントロールと音の反射の補正を可能としたのが、ハウジングに空気孔を設けて内部の音圧を補正する「Pressure Equalization System(PSE)」と、独自形状のイヤーパッドによって内部の空気の流れをコントロールする「Ear pad Air Flow(EAF)」の組み合わせだ。
ここにPhase-Xシステムが合わさり、「密閉型では難しい360度にわたる空間表現力を実現することが出来ました」とメゼ氏は胸を張る。紆余曲折を経て、密閉型ヘッドホンながら開放型のようなサウンドを手に入れたLIRIC。そのサウンドは、いったいどのようなものだろうか。
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