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【特別企画】魂を揺さぶるサウンドに刮目

Meze Audio初の密閉型平面駆動ヘッドホン「LIRIC」レビュー。創業者が語る開発の苦難とこだわり

公開日 2022/06/08 06:31 草野 晃輔
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■高級スピーカーのようなナチュラルで開放的なサウンド



いよいよ試聴に入る。ポータブルということも考慮して、プレーヤーにはソニーのウォークマン「NW-NM1A」を組み合わせた。一聴して広い音場空間に音が響き渡る、開放感溢れるサウンドに驚いた。メゼ氏の説明に、一切の誇張がないことがわかる。どの音域も解像感が極めて高く、音の粒が整い理性を持って奏でられている。原音を忠実に再現しているが、そのベクトルはモニター的な冷静さではなく、潤いに満ちた陽性なものだ。

筆者がリファレンスにしている、ビル・エヴァンス・トリオの名曲「My Foolish Heart」では、冒頭のゆったり入るピアノとシンバルが瑞々しい。定位が正確で、音が空間に伸びていく様がよくわかる。高級スピーカーを凌ぐような量感ある繊細な表現に圧倒される。秀逸なのがドラムのブラシワークで、1本1本の質感がわかるほど音がしっかり分離していて生々しい。高級クラスと言われるヘッドホンでもここまでクリアに描ききるモデルは少なく、本機の表現力の高さを実感した。

ポータブルで使える密閉型モデルでありながら、開放的かつ緻密な表現力は圧巻

続けて、Official髭男dismの最新曲「ミックスナッツ」を聴く。スリリングなリズムが心地よい。低域はタイトで一見物足りなく感じられるが、ここぞという時にエネルギー感がグンと増し、リズミカルな曲の土台を形作る。ボーカルを中心とする中域は量感が豊かで音に立体感や奥行が感じられる。高域は主張こそ少ないものの、美しく伸びやか。演奏に込められた機微やメリハリを上手に引き立てる。

女性ボーカルはノラ・ジョーンズの「Don’t know why」をプレイ。濃密なのに明瞭な声に惹き込まれる。音の定位が立体的で、奥行き感がある。目を閉じると口の動きがわかるようだ。楽器の分離感も素晴らしく、ギターもパーカッションもそれぞれ存在感がありつつも、中心にあるボーカルをしっかりと引き立てている。

本機はリケーブルに対応し、標準で1.5mと3mのTPEケーブルが付属する。これを、「99 Classics」向けの4.4mmシルバーケーブルに交換してみた。純正ケーブルで聴いていて、これ以上の表現があるかと思っていたが、いい意味で裏切られた。音がいっそう整理され立体感とエネルギー感が増したのだ。

「My Foolish Heart」は、空間がいっそう広くなり前後の奥行き感が増す。繊細さはそのままに音が前に出て来るが、かといって過度な主張はしない。最も違いを感じたのが低域だ。純正ケーブルよりも低域の存在感がアップし、よりグルーブ感のある再生になる。これは、一度聴くと病みつきになる。

圧巻だったのはクラシックとの相性の良さだ。ケルテス指揮、ウィーン・フィル演奏の「ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より」は、ナチュラルで開放的なサウンドを存分に味わえた。ゆったりと雄大な演奏は、旋律こそ繊細だが、密度が濃いため弱々しさは皆無。フォルティッシモでは、瑞々しく力強い音が頭内を駆け巡る。まさしく、持ち歩ける高級スピーカーのようだ。ここまで表現力を有した密閉型ヘッドホンを筆者は知らない。

「99 Classics」の4.4mmシルバーケーブルに交換することで、低域や空間表現力はもう一段高みに登る

オーディオ製品には銘機と呼ばれるモデルが存在する。それらは、音がよいのはもちろん、必ずと言っていいほど感性を刺激する魅力を備えている。工業製品でありながら、芸術作品のように作り手の想いを感じられるLIRICも、その一つに思えてならない。この、熱量高いサウンドをぜひ多くのポータブルオーディオファンに味わって欲しい。

なお、Meze Audioでは今後も「新たな価値を持ったIEMやヘッドホンを発売する予定」しているそうで、メゼ氏も「長く愛される製品を送り出したい」と意気込む。これからもからもMeze Audioから目が離せそうもない。

(企画協力:完実電気)

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