PRVGP2023ピュアオーディオ部会の特別賞を受賞
プロが愛用する音響補正の威力を体験。ジェネレック「GLM」はホームオーディオにも効果絶大だ
■GLMで中低域がクリアになり、より澄んだサウンドに
試聴は、東京赤坂にあるジェネレックジャパンのオフィスに新設された、北欧メーカーらしいナチュラルかつシンプルモダンな内装が施されたエクスペリエンスセンターの2ch試聴室で実施した。
まずはThe Onesシリーズの中核機「8351B」を試聴した。ジェネレック創設者の一人である故・イルポ・マルティカイネン氏が思い描いていた3ウェイ・スピーカーを実現した、ジェネレックの大きなマイルストーンとなるスピーカーとなる。
ポイントソースを実現するユニークなユニット配置の3ウェイ構成で、トゥイーターとミッドの同軸ユニットに加えて、バッフル面の上部と下部に横長形状のウーファーユニットが1発ずつ仕込まれており、その低域が上下のスリット状のポートから広がる仮想同軸構造となっている。
まずは補正なしの状態で試聴する。スタジオ同様デッド気味に調音された室内で聴くそのサウンドは、一聴してニュートラルでバランスがよく、聴き疲れなくリスニングに没頭できる快適なものだ。ロックやポップスなどだけでなく、クラシックなど繊細なアコースティックソースの再生でも、ナチュラルで各楽器の存在がわかりやすい。
次にGLMを使って補正を実施する。作業は至って簡潔で、リスニングポイントに専用マイクを設置し、ソフトの指示に従ってスウィープ音を再生すると、すぐさまキャリブレーションが完了する。専用マイクロフォンから拾った測定データはクラウド上へアップロードされ、これまで数千ものスタジオでの実績に基づいたキャリブレーション・アルゴリズムで処理が行われた上で、GLMを制御するPCに自動ダウンロードされる。驚くべきはその処理速度で、今回のようにステレオであれば1分もかからないうちにそのすべてのプロセスが完了した。
GLMで補正を行ったその音を聴いてまず感じたのは、バスドラムやベースの楽器の音像や音色がクリアになり、より見通しの良い澄んだサウンドになっていることだ。この音を聴いてから振り返ると、補正なしの音は、ルームチューニングだけでは難しい中低音域の領域のカラーレーションがわずかに残っていたのだと気付いた。GLMの補正では、その点が見事に軽減されたのである。
GLMでは測定結果をグラフにて視覚的に確認することもできる。今回の結果では、GLMに組み込まれたキャリブレーション・アルゴリズム「AutoCal2」によって、中低域のイコライジング補正に加えて、室内環境において生じている左右スピーカーでの微妙な音量差の調整が行われている。イコライジングは合計20バンドを備えているが、実際に使用されているのは10バンド程であり、それらは全て低域および中低域側の補正であった。
また、興味深いのはキャリブレーションの結果を確認すると、高域方向はそれほど大きな補正が入っていないということだ。中高域は音の指向性が強いこともあり、部屋に対する大きな影響を受けづらいということも関係しているだろう。GLMでは、そのほかに、各スピーカーの距離の差による遅延やサブウーファーを組み合わせた際のクロスオーバー周波数の設定やメインスピーカーとの位相調整が補正可能だ。
またGLMでは、これら補正を実施するだけでなく、測定結果に基づいて、室内音響分析など様々な変数を分析したレポート「GRADE(Genelec Room Acoustic Data Evaluation)」が用意されていることも画期的だ。
GRADEレポートでは、ジェネレックのスピーカーが再生された設置空間においてどのような鳴り方をしているのか、周波数や時間領域で解析し、より良好なスピーカー・セッティングのための提案をしてくれる。なおレポートにはGenelec Cloudのアカウントが必要となり、GLMの測定後、登録したメールアドレスにすぐに送信される。
バージョン4.0から実装されたクラウドベースのシステムにより、極めて強力なキャリブレーション機能に加え、このようなレポートを即座に提案してくれることこそが、VGP2023にて特別賞を受賞した勘所と言ってよいだろう。その場での補正に留まらず、根本的な問題解決を導く提案アプローチは、まさに「The Sonic Reference」たるジェネレックの思想が体現されたものだと言える。
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