【特別企画】クリーンで高解像度な「D9.2」、渋みのある響きの「Classic 200Ti」
英国名門ブランド・スペンドールに加わった新しい魅力。最新DラインとClassicシリーズを聴き比べ
BBCモニターサウンドを現代に継承するイギリスのスペンドール。現在のスペンドールは、「Aライン」「Dライン」「Classic」という3つのシリーズを展開しているが、今回はDシリーズの上位モデル「D9.2」とClassicシリーズの最上位モデル「Classic 200Ti」をご紹介する。
英国の名門スピーカーブランドスペンドールは、筆者も「BC-II」などを所有し、以前「Classic 100」と「Classic 4/5」もレビューしている。それに続く第2ラウンドが今回だ。新しいDラインの「D9.2」と、トラディショナルなClassicシリーズから最高峰の「Classic 200Ti」を聴く機会を得た。ほかにカジュアルなAラインを含めた3シリーズ展開をしているが、すべてイギリス本土で生産されているのが特徴だ。
Dラインのコンセプトは、“全てのディテールを克明に”だ。Classicシリーズが王道のクラシック音楽再生だとすれば、こちらは現代的な音楽ソースやハイレゾソース、あるいは映画音楽にも対応できるダイナミックさやスピード感が求められるだろう。現代的な音楽ソースを十分に伝えることができるシリーズだ。
ルックスもよりスマートに洗練されたイメージがある。改めてD9.2を見よう。高さ115.5cmのトールボーイ、ミッドレンジもウーファーも18cm口径で、力強いツインウーファーを搭載する3ウェイ4スピーカーだ。
トゥイーターは2.2cmのソフトドームで、エッジが幅広なのが特徴。小口径でレスポンスがよく振動板や磁気回路は他のシリーズと同一だが、Dシリーズのものはトゥイーターの全面にパンチングメッシュをかぶせてあるのが特徴となる。これはLPZ(リニア・プレッシャー・ゾーン)と呼び、音の伝播経路が一緒になるようにコントロールする仕組みだ。これによって音圧が均等に伝わるのだという。ユニットそのものは共通だが、Dラインだけの専用設計で、あとに控える「Classic 200Ti」の場合、トゥイーターは裸である。
中域ユニットはEP77ポリマーコーンを採用。レスポンスが速いと同時に適度な内部損失を持つ。ウーファーとのクロスは高めの500Hzでトゥイーター側は4.2kHzだ。センターに固定されたディフューザーがつき、波面を整える仕組みだ。
そしてスピーカー端子はシングルワイヤー仕様。あとはキャビネットとバスレフポートだが、箱はしっかりと作られ、締まりのよい低音が期待できそうだ。リアにバスレフポートを設けており、F1カーのウイングのような技術。流体力学を用いて空気をスムーズに出し入れする仕組みを採用。付帯音を出さず濁りのないバスレフ動作ができるはずだ。
底面には木のベースがありスチールのスタビライザー付き。スパイクが正確にねじ込まれガタのない安定した設置が可能ある。
新しい時代を予感させるすっきりとクリーンで高解像度な再生音だ。締まりのよいボトムが全体を支え、シャンティは中〜高音域にかけて特に伸びやかでヌケがよい。その声には生々しいボディ感があって、感情を表現する躍動感たっぷりなニュアンスは最高だ。
これはトゥイーターの優秀さの証明。音を均等に拡散させるLPZが確かに効いている。冴えた倍音が素晴らしく、オペラのアリアも濁りや付帯音らしきものがまるでない。オーケストラも実に立体的だ。輝かしいオペラの世界をいざなってくれたのだ。
アデルは声を張ったあたり、もう少しパンチ力を抑えてもよいのだが、ダイナミックな起伏に富み細身なトールボーイからここまでの迫力や熱量を引き出すとは驚いた。ジャズは編成のシンプルなピアノトリオも、豪快なビッグバンドも両方とも良し。ステージから熱いエネルギーが伝わってくるイメージだ。
もちろんジャンルを跨いでさまざまな音楽ソースを楽しく聴けるのだが、音楽以外の映画やホームシアターにもDラインなら広く対応してくれるはずだ。
2016年に登場したClassicシリーズの200番(当時はSP200)は、3ウェイ機の「Classic 100」にもう1本30cmウーファーを足したような構成だ。ツインの30cmウーファーでしかも密閉型とはユニークな設計。センターキャップはケブラー系のセンターキャプで、ケブラー複合スタビライザードームウーファーと呼んでいる。
中域は18cmのEP77ポリマーコーンユニットで、中央はディフューザー付き。多少のチューニングはあるかもしれないが、Dラインのユニットと同じである。さらに高域は2.2cmのソフトドームを搭載。今回の200Tiは、バッフル面にチタンのプレートを一枚貼りつけたものだ。末尾のTiがそのことを示している。
チタンモデルの企画はどのようにして出てきたのか? カラーバリエーションとは少々異なるのだが、チタンのプレートを貼ることによるルックス的なイメージと、実際に振動も抑えられてややタイトな傾向になるようだ。でもこれは聴いてみないと分からない。創業者のスペンサー氏と婦人のドロシーさんにも聴いて欲しかった。
目の覚めるようなDラインに比べ、これはスペンドールらしい渋みのある響きにちょっぴり明るさを加味したようなサウンド。オーケストラのピッチが上がったような変化だ。チタンのチューニングは特にヴォーカルや弦、ピアノなどアコースティック系音源の微細なところや輪郭部分がよい意味でタッチが細やかになり、太めの毛筆から中太に移行したように感じられる。
やや膨らんでいたベースやコントラバスには、ほどよい締まりがでたと同時にジャズはリズム隊の動きがよくぐんと躍動感もついて、音符が踊り出すようだ。演奏そのものが楽しい。
山中千尋のジャズピアノやアレッサンドロ・ガラティ・トリオの『白と黒のポートレイト』などの優秀録音盤が、もう一皮むけて気持ちや感情の領域に入った感じである。クラシック系のソフトはさらに豊かに表現領域が広がった印象で、ベルリオーズの『幻想交響曲』には感情移入をさせられた。
このたび注目の2製品を聴いたが、筆者の予想を大きく越えた仕上がりと表現力で、伝統的なスペンドールのイメージに加えて、新たな魅力と期待が高まった次第だ。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー188号』からの転載です。
現代的な音楽ソースにも対応するトールボーイ機「D9.2」
英国の名門スピーカーブランドスペンドールは、筆者も「BC-II」などを所有し、以前「Classic 100」と「Classic 4/5」もレビューしている。それに続く第2ラウンドが今回だ。新しいDラインの「D9.2」と、トラディショナルなClassicシリーズから最高峰の「Classic 200Ti」を聴く機会を得た。ほかにカジュアルなAラインを含めた3シリーズ展開をしているが、すべてイギリス本土で生産されているのが特徴だ。
Dラインのコンセプトは、“全てのディテールを克明に”だ。Classicシリーズが王道のクラシック音楽再生だとすれば、こちらは現代的な音楽ソースやハイレゾソース、あるいは映画音楽にも対応できるダイナミックさやスピード感が求められるだろう。現代的な音楽ソースを十分に伝えることができるシリーズだ。
ルックスもよりスマートに洗練されたイメージがある。改めてD9.2を見よう。高さ115.5cmのトールボーイ、ミッドレンジもウーファーも18cm口径で、力強いツインウーファーを搭載する3ウェイ4スピーカーだ。
トゥイーターは2.2cmのソフトドームで、エッジが幅広なのが特徴。小口径でレスポンスがよく振動板や磁気回路は他のシリーズと同一だが、Dシリーズのものはトゥイーターの全面にパンチングメッシュをかぶせてあるのが特徴となる。これはLPZ(リニア・プレッシャー・ゾーン)と呼び、音の伝播経路が一緒になるようにコントロールする仕組みだ。これによって音圧が均等に伝わるのだという。ユニットそのものは共通だが、Dラインだけの専用設計で、あとに控える「Classic 200Ti」の場合、トゥイーターは裸である。
中域ユニットはEP77ポリマーコーンを採用。レスポンスが速いと同時に適度な内部損失を持つ。ウーファーとのクロスは高めの500Hzでトゥイーター側は4.2kHzだ。センターに固定されたディフューザーがつき、波面を整える仕組みだ。
そしてスピーカー端子はシングルワイヤー仕様。あとはキャビネットとバスレフポートだが、箱はしっかりと作られ、締まりのよい低音が期待できそうだ。リアにバスレフポートを設けており、F1カーのウイングのような技術。流体力学を用いて空気をスムーズに出し入れする仕組みを採用。付帯音を出さず濁りのないバスレフ動作ができるはずだ。
底面には木のベースがありスチールのスタビライザー付き。スパイクが正確にねじ込まれガタのない安定した設置が可能ある。
ニュアンスの表現に優れた冴えた倍音が素晴らしい
新しい時代を予感させるすっきりとクリーンで高解像度な再生音だ。締まりのよいボトムが全体を支え、シャンティは中〜高音域にかけて特に伸びやかでヌケがよい。その声には生々しいボディ感があって、感情を表現する躍動感たっぷりなニュアンスは最高だ。
これはトゥイーターの優秀さの証明。音を均等に拡散させるLPZが確かに効いている。冴えた倍音が素晴らしく、オペラのアリアも濁りや付帯音らしきものがまるでない。オーケストラも実に立体的だ。輝かしいオペラの世界をいざなってくれたのだ。
アデルは声を張ったあたり、もう少しパンチ力を抑えてもよいのだが、ダイナミックな起伏に富み細身なトールボーイからここまでの迫力や熱量を引き出すとは驚いた。ジャズは編成のシンプルなピアノトリオも、豪快なビッグバンドも両方とも良し。ステージから熱いエネルギーが伝わってくるイメージだ。
もちろんジャンルを跨いでさまざまな音楽ソースを楽しく聴けるのだが、音楽以外の映画やホームシアターにもDラインなら広く対応してくれるはずだ。
バッフルにチタンを貼りつけた「Classic 200Ti」。渋みのある響きも魅力
2016年に登場したClassicシリーズの200番(当時はSP200)は、3ウェイ機の「Classic 100」にもう1本30cmウーファーを足したような構成だ。ツインの30cmウーファーでしかも密閉型とはユニークな設計。センターキャップはケブラー系のセンターキャプで、ケブラー複合スタビライザードームウーファーと呼んでいる。
中域は18cmのEP77ポリマーコーンユニットで、中央はディフューザー付き。多少のチューニングはあるかもしれないが、Dラインのユニットと同じである。さらに高域は2.2cmのソフトドームを搭載。今回の200Tiは、バッフル面にチタンのプレートを一枚貼りつけたものだ。末尾のTiがそのことを示している。
チタンモデルの企画はどのようにして出てきたのか? カラーバリエーションとは少々異なるのだが、チタンのプレートを貼ることによるルックス的なイメージと、実際に振動も抑えられてややタイトな傾向になるようだ。でもこれは聴いてみないと分からない。創業者のスペンサー氏と婦人のドロシーさんにも聴いて欲しかった。
目の覚めるようなDラインに比べ、これはスペンドールらしい渋みのある響きにちょっぴり明るさを加味したようなサウンド。オーケストラのピッチが上がったような変化だ。チタンのチューニングは特にヴォーカルや弦、ピアノなどアコースティック系音源の微細なところや輪郭部分がよい意味でタッチが細やかになり、太めの毛筆から中太に移行したように感じられる。
やや膨らんでいたベースやコントラバスには、ほどよい締まりがでたと同時にジャズはリズム隊の動きがよくぐんと躍動感もついて、音符が踊り出すようだ。演奏そのものが楽しい。
山中千尋のジャズピアノやアレッサンドロ・ガラティ・トリオの『白と黒のポートレイト』などの優秀録音盤が、もう一皮むけて気持ちや感情の領域に入った感じである。クラシック系のソフトはさらに豊かに表現領域が広がった印象で、ベルリオーズの『幻想交響曲』には感情移入をさせられた。
このたび注目の2製品を聴いたが、筆者の予想を大きく越えた仕上がりと表現力で、伝統的なスペンドールのイメージに加えて、新たな魅力と期待が高まった次第だ。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー188号』からの転載です。