HOME > レビュー > B&W「600 S3」、VGP批評家大賞受賞の実力。ニュートラルさを守りつつ多様なソースに対応

PR最新の研究成果を惜しみなく投入

B&W「600 S3」、VGP批評家大賞受賞の実力。ニュートラルさを守りつつ多様なソースに対応

公開日 2024/05/31 10:00 大橋伸太郎
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
イギリスのスピーカーブランド・Bowers & Wilkins(以下B&W)の快進撃が止まらない。以前から「800シリーズ」の音楽情報を正確に再現するリファレンス性能の高さには高い評価が集まっていたが、その技術を応用した「600 S3シリーズ」のコストパフォーマンスの高さは驚異的だ。VGP2024にて満場一致で「批評家大賞」を受賞した実力を、審査委員長の大橋伸太郎氏が解説する。

現在の「600 S3シリーズ」ラインナップ。左からフロアスタンディング型「603 S3」(382,800円/ペア)、ブックシェルフ型「606 S3」(165,000円/ペア)、「607 S3」(132,000円/ペア)、センタースピーカー「HTM6 S3」(118,800円/1台)

B&Wは常に最新が最良。研究成果を取り入れてブラッシュアップ



Bowers & Wilkinsのレギュラーラインは800/700/600の3ラインで構成され、マーケティングは異なるが、音質のめざすところは共通。「何も足さない何も引かない、原音再生」である。3ラインはローテーションで更新され、その時点で最良と結論づけられた要素技術や素材を臆すことなく取り入れ、クラスは違ってもつねに一つの目標に向かって歩んでいる。

600 S3は同社ハイファイスピーカーとして初めて、トゥイーター振動板に従来のアルミドームに替えてチタンドームを採用した。ウーファーは700 S3同様のコンティニュアム・コーン、トゥイーターは800 D4 Signatureと同じグリルメッシュ・パターンを、上位機種700 S3 Signatureより一足早く採用した。

HiFiスピーカーとしてはブランド初のチタンドーム・トゥイーター。メッシュグリルも800 D4 Signature譲りの「縦目」が特徴

ミッド・バスは現行のB&Wすべてに活用されているコンティニュアム・コーン

ラインナップのヒエラルキーに縛られず、その時点の最新の開発成果を積極的に取り入れる姿勢から、ある意味、最新のB&Wが最良のB&Wといえる。600 S3がハイエンドのライバルたちを制してVGPの最高賞、批評家大賞(サウンド部門)を受賞したゆえんだ。

チタンのダイヤフラムを初採用。薄型成形が可能に



B&W 600 S3はセンタースピーカーを含む4機種(サブウーファーを含むと6機種)で構成され、今回試聴したのは、フロアスタンディング型「603 S3」、コンパクトブックシェルフ「606 S3」、「607 S3」の三機種である。S3に盛り込まれた改良点をざっと整理してみよう。

S3の進化はトゥイーターのチタンダイヤフラム採用に尽きる。B&Wは2005年の800Dでダイヤフラム素材にチタンも検討した。しかし当時は薄いドームを作る技術がなく、アルミと同じ厚さで1.6倍の強度がある一方で質量も1.6倍あり、音圧が稼げなかった。

旧モデル「607 S2 AE」(左)と「607 S3」(右)。新モデルはトゥイーターとウーファーの距離がわずかに近くなっている

背面から見た違い。旧モデルでは端子が縦2列で配置されているのに対し、新モデルは横一列に配置し独立構造に。またダクトの形状も変更されている

それが成形の進歩で、ドーム厚50μmだったものがいまでは25μmにまで薄くでき、採用に踏み切った。決め手は落ち着いた音質。分割振動という問題には、薄い一枚ドームの周辺に厚いアルミのタガをはめ、駆動点を補強した二枚構造として対処した。

ウーファーは700 S3同様の銀色に輝くコンティニュアム。地味な変更だが、磁気回路の末端の口径を大きくしてセンターポールの断面積を減らし、磁力線の通り道を狭くして故意に磁気飽和を起こしている。その結果、ボイスコイル磁界による変調を受けることが少なくなり、低域、中低域の第三次高調波歪の抑圧が3dB向上したという。

エンクロージャーの素材と外形寸法は変わらないが、従来は一体成形だったスピーカーターミナルをダクトから分離し、700 S3と似た横型に変えた。その結果、ダクトとターミナルそれぞれの強度を確保し、最適位置に移動することができた。

新旧比較も交えつつCDとレコードで音質チェック



試聴はディーアンドエムホールディングスのマランツ試聴室で、“新旧600”を比較するかたちで行った。

■607 S3 -演奏に芯が感じられ緻密な音像描写を実現

130mmコンティニュアム・コーン搭載(25mmチタンドームトゥイーターは3機種共通)、ブラック塗装の607 S3はコンパクトで軽快なルックス。3モデルともバスレフのダクトを延伸してチューニング周波数を下げているが、607 S3は小型ゆえ、ダクトを伸ばすとトゥイーターの後端にひっかかってしまうことから、曲がりダクトを採用した。

最もコンパクトなブックシェルフ「607 S3」

音は良い意味で軽快な外観を裏切る。アルミのS2に比べチタンのS3のほうが、演奏に、より芯が感じられる。アルミは音色が明るいが、実体感がやや薄いのである。とはいえアルミが一方的に負けているわけではなく、ビッグバンドジャズ(アナログ)のトランペットソロはアルミのS2に華やかさ、快活さがある。一方S2で詰まった響きだったボーカルが、S3ではのびのびと前に出る。演奏のバランス、力強さでS3は進歩している。

「607 S3」の試聴風景。スタンドは専用モデル「FS-600 S3」(57,200円/ペア)

大編成のクラシック交響曲(SACD)では、進境をさらに印象付ける。音場がS2より一回り大きい。センター領域の音影が濃い。今回のS3ではトゥイーターとウーファーを接近させ点音源に近づけた。レンズフォーカスをマニュアルで追い込んだように、音像描写に緻密さ、奥行き感が生まれている。さすがにローエンドの量感には多くを望めないがB&Wらしく整ったバランスと密度。ペア132,000円の範疇にはない。

■606 S3 -自然体の伸びやかなバランスに魅力

次に606 S3を聴いてみよう。165mmウーファーを搭載した、607より二回り大きいエンクロージャーのブックシェルフ上位機種。2ウェイ、シンプル・イズ・ベストの設計効果が歴然と出ている。

「606 S3」。黒だと分かりにくいがウーファーのエッジが少し“えぐれ”て旧モデルよりトゥイーターとの距離が近くなっている

ポップスのボーカルが音場センターに凜と立つ。意外にもアナログ再生と好相性だ。ウィーン・フィルのブルックナーはじつに肌触りのいい質感の高い音。歪み成分がアナログの自然な歪みであり、耳障りでない。

「606 S3」の試聴風景

八代亜紀(CD)は、ビッグバンドの楽器が立体的に分離、楽音が色数豊かにひしめく。八代のボーカルも肉感を伴ってくっきり浮き上がり、歌の情念が濃くなる。ボブ・ジェームス・トリオ(SACD)は、ベースソロのローエンドが伸び、胴鳴りに厚みが出てオーディオのリアリズムはここから。さすがにドラムソロのバスドラの量感はまだまだだが、打撃の立ち上がりがつぶれずに解像感がある。ブルックナーの交響曲(SACD)は、エンクロージャーの余裕を得て隠れていた響きや余韻が目覚め、音楽の表情が豊かに増す。

ペア165,000円と607 S3より3万円強高いが、伸びしろは大きく、そつなく明快にまとまった607 S3に対し、606 S3は自然体の伸びやかなバランスに魅力がある。

■603 S3は能率も高く原寸大のリアリズムに近づく

唯一のフロアスタンディング型603 S3。ミッドに150mmコンティニュアム・コーン、ウーファーに165mmペーパーコーン×2の3ウェイ4スピーカー構成。ネットワークの音質補正用のバイパスコンデンサーの種類が変わり、使用個数もS2に比べ増えたという。またS2では台座の装着は任意だったが、S3では必須となった。本体の底部にスパイクが付く孔はなく、スパイクは台座に付ける。メーカーもこの状態で音を決めているという。

専用の台座にスパイクを装着。ウーファーはペーパーコーン

クラシック交響曲(SACD)は、末広がりの雄大な音場。603 S3は能率が90dBと高い(607 S3は84dB、606 S3は88dB)。チタンドームの裸の特性をそのまま生かし、レベル調整用の抵抗が入らないぶん音がクリアだという。いままで聴こえにくかった楽音が音場を埋めていく。

「603 S3」の試聴風景

ボブ・ジェームス・トリオ(SACD)は、ワイドレンジ化とエンクロージャーの余裕でベースソロやバスドラの量感が躍進、トリオ演奏のバランスと正確な定位が再現され原寸大のリアリズムに一歩近づく。アナログ再生も好結果。ビッグバンドジャズは重量感豊かなリズムセクションの支えでトランペットソロやブラスが対比的に生彩を発揮。ミッドレンジドライバーが独立しているがゆえの再生上の余裕で、ボーカルは声と体を使い切って爽快に歌う。

背面端子は横1列に配置し、キャビネットから独立している

交響曲(アナログ)はクレッシェンドのリニアリティ豊かなエネルギーの高まりに溜飲が下がる。音量レベルが上がっていっても歪まず、なめらかな質感を失わないのはB&Wの美学。ペア382,800円でそれを手にできる。



B&Wのレギュラー3ラインをあえて性格分けすると、色付けを排した妥協のない厳密な原音再生(800)、原音再生は変わらないものの音楽美の表出を積極的に追求(700)、ニュートラルサウンドを遵守しつつ現代の多様なソースに対応(600)というところだが、近年3ラインの音質差が狭まっている。

高域用ドライバーの振動板素材の音質が少なからず性格形成に寄与してきたわけだが、チタンドームを得て、600 S3の音質は、カーボンドームの700系ににじり寄ったように感じられる。700 Signatureが高価格化したいま、600 S3の価格設定は魅力的だ。

今回は試聴しなかったが、センターやサブウーファーを加え、サテライトスピーカーを多数個使いするシアターで、600 S3はさらに価格効果を発揮する。オールラウンドな音質、扱いやすさ、システムの拡張性…。それらすべてを高度に達成し、600 S3は満票で「VGP批評家大賞」を獲得した。

(提供:ディーアンドエムホールディングス)

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク