PRF-1のテーマソングからアンプラグド、ハードロックまで
ヤマハの最新ブックシェルフスピーカーで80年代ヒットナンバーを存分に楽しもう!NS-800A/NS-600Aの音の違いもチェック
NS-600A -正確な音場表現を得意とし臨場感あふれるライブを再現-
ここまでNS-600AとNS-800Aに用いられているテクノロジーについて解説してきたが、基本的な違いはウーファー口径とキャビネットの大小の差となり、グレード的な上下ではなく、音質傾向の異なる兄弟モデルとして設計されている。今回はこの2モデルを“普段聴き”を意識し、筆者が愛する80〜90年代のポップス、ロック、フュージョンの音源を用意し、そのサウンド性を確認することとした。昔から良く聴いていた音楽が最新スピーカーでどのような音となるのか。また兄弟モデルで異なる音質傾向について、様々な楽曲で聴き込んでみた。試聴は音元出版の新試聴室「WHITE」にて行った。
まずNS-600Aであるが、サイズを超えた低域の豊かさに加え、スピード感や音像の定位など、正確な音場表現を得意としている。そこで聴いてみたのが、90年代に国内外でブームとなった“アンプラグド”のライブ音源だ。エリック・クラプトンやイーグルスなど、今でも試聴会などでよく用いられているが、今回用意したのは93年に発売されたロッド・スチュワートの『アンプラグド』である。MTVと連携したアコースティック中心のライブコンテンツであるが、ロッドの作品はストリングスも従えた音数の多さが特徴だ。ジェフ・ベック・グループ時代の旧友、ロン・ウッドがゲスト参加したことでも話題であったが、代表曲である「マギー・メイ」を聴く。
イントロのギターリフから会場が一気に盛り上がる。歓声や拍手の粒立ちが細かく、サウンドステージがフッと左右に広がっていく。臨場感溢れるライブの光景を目の当たりにしているようだ。ボーカルの穏やかだが力強いニュアンスも鮮やかに浮き立つ。声の存在感も圧倒的で、艶やその厚みもリアルに感じられた。アコースティックギターの弦の艶やピッキングの粒立ちの良さ、奥に定位するオルガンの描写もスッキリと聴かせてくれる。リズム隊の密度の高さと軽やかなアタックの対比も心地良い。
続いてCMでも使われた「ピープル・ゲット・レディ」を試聴。ジェフ・ベックとの共演で話題となったカバー曲だが、本作ではロン・ウッドとの共演だ。冒頭のストリングスの重厚でしっとりとした描写、ボーカルとコーラスの溶け合うようなハーモニーが美しい。音数の多さと中低域方向の密度の高さから、スピーカーによってはヌケ感が足りず、見通しの浅い音になりがちだが、NS-600Aではそうした心配もなく、ライブの生々しさを鮮度良く澄んだ音で描いてくれた。
逆に80年代らしいアップライトで透明度の高いサウンドはどのように聴こえるのか。続いてはスターシップの85年発売の『フープラ』から「シスコはロック・シティ」を聴く。試聴した盤は20bit K2スーパー・コーディング処理を施したもので、高域のエッジが若干強めに感じる傾向にある。ボーカルやコーラスの輪郭をシャープに引き出しつつ、ベースラインも腰高に表現するNS-600Aのサウンドは明瞭度の高さはあれど、きつさのない澄み切ったものであった。シンセやエレキギターの引き締まったクリアな旋律も分離良く描写。底抜けに明るく、奥行きの深い音場が展開する。
技巧派ギタリスト、アル・ディ・メオラの85年発売『天地創造』も聴いてみる。アコースティックギターで奏でられる透明感あふれるサウンドをNS-600Aはどのように聴かせてくれるのか。80年代ならではのデジタルリヴァーブやディレイなどの空間系エフェクトも多用した作風であり、ギターの弦の直接的な響きだけでなく、ハーモニクスを含めた余韻の豊かさ、その透明感も高い解像度で引き出してくれる。ミュート奏法のコシの太さ、ガッツのあるアタックの押し出しもスピーディーに対応。
「アタヴィズム・オブ・トワイライト」冒頭の速弾きからのアルペジオで広がる音空間の広さ、弦の厚みと艶、深い余韻をスッキリと聴かせている。シンセの音との描き分け、奥行き感も良好だ。穏やかながらも静と動のコントラストを適切に感じさせる、見事なサウンドであった。
学生時代、海外ブランドの入門用スピーカーで良く聴いていたCHAGE and ASKA『RED HILL』から「YAH YAH YAH」も聴いてみた。ここまで細かい音が入っていたのかと、改めて感心した次第だ。二人の声の重心の低さと口元の動きのリアリティ、丁寧にかけられたリヴァーブの洗練された響きにも耳を奪われた。ストリングスはシンセ、ホーンセクションは生演奏だが、そうしたニュアンスの違い、ボーカルがオーバーダビングされたアルバム用ミックスの違いも鮮明にわかる。ドラムのエアー感ある響きや、是永巧一が奏でるエレキギターの深みあるプレイまで克明に浮き立つ。NS-600Aの解像度の高さも垣間見ることができた。
先日待望のハイレゾ配信が始まった、80年発売のREOスピードワゴン『禁じられた夜』から「キープ・オン・ラヴィン・ユー」をDAP(Astell&Kern「SP3000」)経由で聴く。唯一無二のハイトーンボイスを持つ、ケヴィン・クローニンのボーカルの爽やかさとともに、“ここまで響くのか”というほどのリヴァーブの深さに驚いた。ピアノやアコースティックギターのクリアなエッジ感と、エレキギターのコシの太い伸びやかなトーンも明瞭に描き出す。本作までヒットに恵まれず、長年ライブで実力をつけてきたバンドのポテンシャルを解き放つ、ドラムやベースのアグレッシブなプレイニュアンスまで綺麗に再現。他の楽曲を含め、素晴らしいアルバムであることを再認識できた。
86年発売のエレクトリック・ライト・オーケストラ『バランス・オブ・パワー』もハイレゾ版を再生。聴いたのは「SOシリアス」だ。ジェフ・リン含め3人体制となり、本作で一旦活動を休止することになったが、その優れたポップセンス、メロディの良さはシンセサイザーが中心となった作風でも遺憾なく発揮されている。ハイレゾとなり、よりボーカルや楽器の分離の良さ、奥行き感も自然に感じられるようになったが、その空間の広さをNS-600Aは的確に再現してくれている。クリアに抜けるシンバルの響きなど、フックとなる音も明確に捉えつつ、ベースの力強さ、コーラスの厚みも伴っており、リズム映えのする安定感あるサウンドだ。
再びCDに戻り、81年発売のリー・リトナー『RIT』から「ミスター・ブリーフケース」を聴く。フュージョンというよりAORという側面が強いアルバムだが、この曲ではキーボードはデイヴィッド・フォスター、リズム隊はTOTO組のデイヴィッド・ハンゲイト、ジェフ・ポーカロという面々が揃い、ボーカルはエリック・タッグが担当している。ハネ良いグルーヴを聴かせるリズム隊と、コシの太いシンセの落ち着きが耳当たり良い。エレキギターも重心が低く、分離良くフレーズが浮き上がる。ベースの粘り感やボーカルの滑らかで艶良い描写もバランス良く描き出す。ショートディレイを組み合わせたリヴァーブのニュアンスも丁寧に拾い、爽やかなサウンドとしている。