舞台は音元出版の新試聴室にて
日本音響エンジニアリングの柱状拡散アイテム「アンク」、「シルヴァン」の効果と実力を徹底検証
日本音響エンジニアリングが手掛ける柱状拡散アイテムである「アンク」と「シルヴァン」。今回はその実力を検証する。試聴室にルームチューニングアイテムを何も設置していない状態からグレードアップし、「シルヴァン」とともに、「アンク」の3つのシリーズ(パネル型、コーナー型、床用)も個々に効果を検証。最後にはすべてを設置して最大の効果を実証。林 正儀氏が"真の実力"を体験。
日本音響エンジニアリングの柱状拡散体を採用したルームチューニングアイテムであるAGSシリーズ。その効果はこれまでにオーディオメーカーの試聴室やユーザー訪問で多くを体験してきた。AGSがもたらす斬新な音空間の創生に驚かされたものだが、今回声がかかったのが音元出版の新たな試聴ルームだ。
「シルヴァン」や「アンク」が、はたしてどのような効果や音の変化をもたらすのか? 施工済みの新試聴室「ホワイトルーム」にはB&Wのレファレンススピーカー「802D3」をセット。背面や左右の壁から適度に距離を持たせたいつもの設置状態である。
ここに以下、順々にAGSをセットしていくのだが、ここでは幸田浩子のCD『オペラアリア集』にてそれぞれの音質効果を比較する。まずはルームチューニングなしのスの状態で試聴し、「シルヴァン」から始めよう。
「シルヴァン」は置き場所を選ばないコンパクトな自立型タイプだ。今回は1組をスピーカー左右の1次反射面にセットした。直接音と反射音からくる微妙な時間差、すなわち位相干渉が無くなることで音質面でどんなメリットがあるのだろう?
まず音色が良くなる。歪み感がおさまり定位感も向上する。部屋の空気がスッと変化する感じで、何という声の柔らかさと余韻の美しさだろうか。明確な音像定位と心地よい響き。ナチュラルな音の広がりはAGSシリーズに共通だが、改めて聴くと、最も変わったのが質感だと思う。特にソプラノの声質の伸びやかさだ。オーボエや弦など楽器自体の感触もずっと柔らかく緻密になった。硬さがほぐれ音楽の動きが滑らかになったと同時にホールの響きもより豊かで自然になる。
「シルヴァン」のおかげで録音の良さがわかったというべきだろう。空間感や声と楽器の距離感が手に取るようにわかり、拡散構造による間接音成分の再現が体感できた。
「アンクT」はひと回り大きく高さが140cmあって、丸棒もたっぷりと多い。壁面のセンターに「アンクT」のみを2本セットした。配置による違いもあるが、これは広がりよりも奥方向にぐっと効く感じだ。音響的な深度というか、スピーカーの後方から壁のもっと奥まで音が続くイメージである。声とオーストラのグラデーション(階調)が実にきれいになった。ルームチューンにありがちな再生音の不連続さがまるでないのだ。
もうひとつは低音がたっぷりと伸び、大型弦のピチカートがぶ厚いことだが、なぜそうなるのか?日本音響によればテトラポッドの原理だそうで、波の干渉が薄まって本来の低音がよく聴こえるとこのと。壁の反射によってスポイルされていた本来のCDの音(源音)が、素直に引き出された証拠である。演奏者の意図や音楽への思いまでリアルに伝わって、よい録音ほど落差が大きいことがわかった。
もともとコーナーは音響障害が出やすく、低音だまりに悩まされる場所だ。「アンクU」はコーナー型に特化したものだが、どう解消してくれるのか? 専用にシミュレーションして丸棒の配列を決めたようで、セットしてみると確かにコーナー付近のもやっとしたかたまり感が消滅。うまく処理されて背景がきれいになった感じだ。
音楽にはすべて背景があるわけだが、背景の音がすっきり抜けるため、メインの音が際立ってくる。まさに見える音だ。これによって遠近の立体性がぐんと強化される。みずみずしい音色の管弦楽が背景に広がり、輝かしいアリアをもう一段高いステージで歌っているようなイメージだ。低音域のグリップ力を高め、ブーミー感も一掃された。
これはAGS唯一の床置きタイプだ。ここでは小さい方のFL66を試そう。スピーカー前面の床に設置すると……激変である。それだけスピーカー(特にウーファー)の反射の影響を受けていたわけで、まず音抜けがよくなる。低音と同時に帯域全体がすっきりとする。
楽器の輪郭もはっきりして、ヴォーカルの口もとが目に見えるようだ。高性能レンズのようにハイフォーカスな世界が見えてくる。音像がしまってクリアになり、音楽ソース本来の躍動感がアップするとはこれだ。床置きでこれだけの効果ならば、まずは手軽な「アンクY」の導入からスタートでも良さそう。海外では床用のニーズが特に多いそうだ。
「シルヴァン」や「アンク」は、拡散を中心にしながら単体でうまくバランスがとれる設計になっている。それを改めて確認できた有意義な体験である。最後にAGSシリーズ全部入りだ。これは壮観で、オペラのほかにもジャズやポップス、ソロピアノにビッグバンドなどさまざまなジャンルの音楽で比較試聴した。その効果たるや極上だ。一次反射面やコーナーから床まで、しっかり処理の行き届いた夢のような音世界に包まれる。
幸田浩子本人の肉声や体温感まで等身大で伝わるのはもちろんだが、プロフォン盤の北欧ジャズやヴォーカルがもう絶品以上。澄みきった音色と早いテンポのフルートとドラム、ピアノに思わず体が動いてしまう。『角田健一ビッグバンド』はライブの熱気ムンムンで、エネルギッシュなサウンドを愉しませた。満足度200%である。
今回はあわせて部屋の音響特性が実測され、データ的にもAGSの効果がわかった。今回は設置場所による効果も含めて、「シルヴァン」と「アンク・シリーズ」の個々の効果を体験できる貴重な体験であった。
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です
(提供:日本音響エンジニアリング株式会社)
各モデルや設置場所も含めて個々の効果が把握できた
日本音響エンジニアリングの柱状拡散体を採用したルームチューニングアイテムであるAGSシリーズ。その効果はこれまでにオーディオメーカーの試聴室やユーザー訪問で多くを体験してきた。AGSがもたらす斬新な音空間の創生に驚かされたものだが、今回声がかかったのが音元出版の新たな試聴ルームだ。
「シルヴァン」や「アンク」が、はたしてどのような効果や音の変化をもたらすのか? 施工済みの新試聴室「ホワイトルーム」にはB&Wのレファレンススピーカー「802D3」をセット。背面や左右の壁から適度に距離を持たせたいつもの設置状態である。
ここに以下、順々にAGSをセットしていくのだが、ここでは幸田浩子のCD『オペラアリア集』にてそれぞれの音質効果を比較する。まずはルームチューニングなしのスの状態で試聴し、「シルヴァン」から始めよう。
●テスト1:左右の1次反斜面に「シルヴァン」を設置
「シルヴァン」は置き場所を選ばないコンパクトな自立型タイプだ。今回は1組をスピーカー左右の1次反射面にセットした。直接音と反射音からくる微妙な時間差、すなわち位相干渉が無くなることで音質面でどんなメリットがあるのだろう?
まず音色が良くなる。歪み感がおさまり定位感も向上する。部屋の空気がスッと変化する感じで、何という声の柔らかさと余韻の美しさだろうか。明確な音像定位と心地よい響き。ナチュラルな音の広がりはAGSシリーズに共通だが、改めて聴くと、最も変わったのが質感だと思う。特にソプラノの声質の伸びやかさだ。オーボエや弦など楽器自体の感触もずっと柔らかく緻密になった。硬さがほぐれ音楽の動きが滑らかになったと同時にホールの響きもより豊かで自然になる。
「シルヴァン」のおかげで録音の良さがわかったというべきだろう。空間感や声と楽器の距離感が手に取るようにわかり、拡散構造による間接音成分の再現が体感できた。
●テスト2:スピーカー背後の壁面に「アンクT」を設置
「アンクT」はひと回り大きく高さが140cmあって、丸棒もたっぷりと多い。壁面のセンターに「アンクT」のみを2本セットした。配置による違いもあるが、これは広がりよりも奥方向にぐっと効く感じだ。音響的な深度というか、スピーカーの後方から壁のもっと奥まで音が続くイメージである。声とオーストラのグラデーション(階調)が実にきれいになった。ルームチューンにありがちな再生音の不連続さがまるでないのだ。
もうひとつは低音がたっぷりと伸び、大型弦のピチカートがぶ厚いことだが、なぜそうなるのか?日本音響によればテトラポッドの原理だそうで、波の干渉が薄まって本来の低音がよく聴こえるとこのと。壁の反射によってスポイルされていた本来のCDの音(源音)が、素直に引き出された証拠である。演奏者の意図や音楽への思いまでリアルに伝わって、よい録音ほど落差が大きいことがわかった。
●テスト3:「コーナーアンク」を左右のコーナーに設置
もともとコーナーは音響障害が出やすく、低音だまりに悩まされる場所だ。「アンクU」はコーナー型に特化したものだが、どう解消してくれるのか? 専用にシミュレーションして丸棒の配列を決めたようで、セットしてみると確かにコーナー付近のもやっとしたかたまり感が消滅。うまく処理されて背景がきれいになった感じだ。
音楽にはすべて背景があるわけだが、背景の音がすっきり抜けるため、メインの音が際立ってくる。まさに見える音だ。これによって遠近の立体性がぐんと強化される。みずみずしい音色の管弦楽が背景に広がり、輝かしいアリアをもう一段高いステージで歌っているようなイメージだ。低音域のグリップ力を高め、ブーミー感も一掃された。
●テスト4:床用の「アンクY」をスピーカーの前に置く
これはAGS唯一の床置きタイプだ。ここでは小さい方のFL66を試そう。スピーカー前面の床に設置すると……激変である。それだけスピーカー(特にウーファー)の反射の影響を受けていたわけで、まず音抜けがよくなる。低音と同時に帯域全体がすっきりとする。
楽器の輪郭もはっきりして、ヴォーカルの口もとが目に見えるようだ。高性能レンズのようにハイフォーカスな世界が見えてくる。音像がしまってクリアになり、音楽ソース本来の躍動感がアップするとはこれだ。床置きでこれだけの効果ならば、まずは手軽な「アンクY」の導入からスタートでも良さそう。海外では床用のニーズが特に多いそうだ。
●テスト5:すべてを設置して最大の効果を実証
「シルヴァン」や「アンク」は、拡散を中心にしながら単体でうまくバランスがとれる設計になっている。それを改めて確認できた有意義な体験である。最後にAGSシリーズ全部入りだ。これは壮観で、オペラのほかにもジャズやポップス、ソロピアノにビッグバンドなどさまざまなジャンルの音楽で比較試聴した。その効果たるや極上だ。一次反射面やコーナーから床まで、しっかり処理の行き届いた夢のような音世界に包まれる。
幸田浩子本人の肉声や体温感まで等身大で伝わるのはもちろんだが、プロフォン盤の北欧ジャズやヴォーカルがもう絶品以上。澄みきった音色と早いテンポのフルートとドラム、ピアノに思わず体が動いてしまう。『角田健一ビッグバンド』はライブの熱気ムンムンで、エネルギッシュなサウンドを愉しませた。満足度200%である。
今回はあわせて部屋の音響特性が実測され、データ的にもAGSの効果がわかった。今回は設置場所による効果も含めて、「シルヴァン」と「アンク・シリーズ」の個々の効果を体験できる貴重な体験であった。
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です
(提供:日本音響エンジニアリング株式会社)